033.夏葬

 死にゆくアウグストゥスの傍らにて、僕らは冷気を浴びながら秋を待ち望んでいた。空を見上げれば、もう既にうろこ雲が本隊の到着の先触れとしてやって来ていた。

「赤報隊にならなければ良いけどな」

 彼はそんなことを言った。アイスコーヒーを不器用にかき混ぜながら呟いた、沢山の意味を含んでいるわけではない言葉に思えた。

 赤報隊と聞いて、僕は真っ赤なものを思い起こした。赤いもの、紅いもの。そうして連想していけば、それはやっぱり染め上がった紅葉へと至るのだった。紅く染まっていく木々を思うと、僕は運命というものを感じた。それがどうしてだか、僕にも分からない。ただ、彼が口にした言葉そのものの意味に戻れば、僕はそこに不安が含まれていることが分かった。

「本当に秋が来れば良いけど」

 繰り返しの夏が来ないと、誰が断言できるだろう。いつかどこかで常夏の世界になってしまわないと、誰が断言できるだろう。そうでなくとも季節の境目の分からなくなってきている世界だから、僕らは秋が来ることを祈った。

 それにしても、僕はいつからこんなに秋のことが好きだったのだろう? 彼のペースに引き込まれているのだと気付くのには時間がかからなかった。

 僕はいつもそうだ。他人の感情をいつの間にか引き受けてしまって、本人がその感情を忘れてしまった後でも、いつまでもその感情を背負い続けている。そんな性格だから、親しい間柄の彼といても同じようなことになることが多かった。とは言っても彼はわざと感情を押し付けようとはしていないだろうし、僕だってそんな相手といつまでも友人でいる程お人好しじゃない。結局、自分の性格とどう向き合うか、そういうことなのだ。

「夏を葬れば、きっと秋は来るさ」

 しばらくしてから、彼はやはりぽつりと呟いた。そこにはやはり大きな意味は含まれていなかった。僕は真っ黒なコーヒーの底に何かを見出そうとしている自分の心理に気付いて、ぐいっとそれを飲み干した。

 そういえば、暦の上ではもう秋が来ているのだな、と帰り道に僕は気付いた。死にゆくアウグストゥスは、やがて死せるアウグストゥスとなった。

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