027.回帰のための習作

 いつかテレビのニュースで見たのですが、年賀状の発行枚数は数年前をピークに減少しているらしいですね。メールだとかアプリだとか、今の若い人はデジタルな方法で新年を祝うようです。そんなご時世にわざわざアナログな手段で、つまりこうして手紙を書いているのは、世間に対する宣戦布告……というわけでもなくて、アナログなものに惹かれているからなのです。親戚のおじさんに音楽の好きな人がいて、その人からレコード盤で音楽を聴くことの愉しみを吹き込まれたことがあります。音楽に特別な興味のない私は熱心にその話を聞き流していたのに、どうしてだかアナログチックな趣味が心の奥底に定着してしまったのです。不思議なものですね。

 そういうふうに無難な書き出しをしたこの手紙ですが、メールでやりとりをするのとはまた違った面白さがありますね。余白に文字を埋めていくことの楽しみ、それは私にとっては新鮮な春の息吹のように感じられます。さっき、「今の若い人は」と書きましたが、あなたがよく知っているように、私もその若い人の中の一人です。でも私は羊の群れの名も無き一匹ではないつもりです。それだけは、あなただけには分かってほしいのです。

 あなたは私の学校生活になんて大した興味は持たないでしょうね。そういう無関心は、私には嬉しく感じられます。何故って、それは訊かないで下さいね。それは私の胸の中に隠しておきますから、いずれあなたの手でしっかりと掴み取ってほしいのです。

 少し話がずれました。私が言いたいのは、これから新しい高校生活を始めるにあたっての決意を知ってほしいのです。ちょっと珍しいかもしれませんが、私が通うことになる高校は私服での登校が認められているのです。一応制服もあって、大多数の生徒は制服を着ているようです。何故って、今度は訊いてくれますよね。それは彼らが羊の群れに隠れて暮らしている臆病者だからです。他人と違うことは嫌、できない、恥ずかしい。そんなことを考えるばかりで、ちっとも頭が回らない人たちばかりなのです。でも私は違います。きっと新しい風に、今度は私が春の息吹になって、あの高校の弊害を一蹴してやるつもりです。

 どうしてそんなことをしなければならないか、あなたは考えていることでしょう。その答えは簡単です。




 頭の中でプリズムが燦めいてしまったからなのです。

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