007.生と変容
しわくちゃにした文殻をもう一度広げる。何度も読み返してみたところで別に内容が変わるわけでもないが、そうせざるを得なかった。妹が三人目の子供を出産したという報せであった。
元々、健康な私とは正反対に妹は病弱な体質だった。男児は母親に似るとも言うが、私たちの場合は妹が母の体質を受け継いだらしかった。尤も、母は大きな病一つせずに七十を越しているから、そういった意味では充分に健康といえるかもしれない。
「風邪を引いて咳をする度に身体の中の魔が出ていくのよ」
母はそんなことを言っていた。
三十を過ぎた頃から事情は変わってきて、私は身体の不調を感じることが多くなった。ちょうど妹が結婚した時期だったと思う。それから半年もしないうちに妹は妊娠して、難産の末に元気な男の子を産んだ。父も母も、そして妹自身も、あるいは死を覚悟していたから、皆が手を取り合って喜んだ。
義理の弟は一睡もせずに最後まで出産に立ち会い、嬉し涙を流しながら倒れるようにして眠りに落ちた。正直なところ、私は大事な妹がどこかの男のものになるのをあまり快く思っていなかったが、同じ障害を乗り越えた者同士、ようやく理解し合えたといったところだった。
二度目の出産は簡単に済んだ。というのは傍目に見てそう感じただけのことだが、一度目のときのような大騒ぎにならなかったというのが実際の印象だ。
そうして二人目の子供が生まれた後になって気付いたが、妹はまるで体質が変わったかのように健康体になっていた。対照的に私は結核を患うなどして、どんどん母と同じ道に入り込んでいくようだった。
今度、三人目の子供が生まれた。私はその手紙を受け取ったときから、妙に胸が痛むように感じていた。かかりつけの医者に診てもらおう。そう思って支度を始めたところで玄関の戸を叩く音がした。義理の弟だった。
「今日はお義兄さんのところへ挨拶に来たんです」
爽やかな表情で彼は言った。
「男の子でした」
「そう、また男の子か。妹は女の子を欲しがっていたようだが……。まあ、良かったじゃないか」
「ええ。次はきっと女の子を、って二人で話しているんです」
「次……?」
「ええ、四人目です」
私は、何と答えれば良いのか分からなかった。
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