妖精が見守る物語
タカテン
第1話 男の子でも女の子でもないボクたち
「あのね、ついに男の子になったの!」
それはとある小学五年生の朝のこと。
いつものT字路で、いつもの三人が集まると、光(ひかる)ちゃんがとても嬉しそうに打ち明けてきた。
「ウソ!? じゃあ、アレ、生えてきたの?」
光ちゃんの衝撃告白に、紫苑(しおん)ちゃんが思わず大きな声で聞き返す。
「うん! いやー、びっくりしたよ。朝起きたらなんか股間が変な感じでさー。でも、よかった。だってうちの父さん、絶対あたしを男にするって決めてたからね。ホント、あのプレッシャーの日々は辛かった」
と言ってから「あ、いけない。今日から『オレ』って言わなきゃ」と舌を出す光ちゃん。その仕草はやっぱり女の子っぽいよと思ったけれど、今日から男の子になったんだもん。急には変われないよね。
てか、ボクだって、これからは「光君」って呼ばなきゃ。
「良かったね。おじさん、大喜びしたでしょ?」
「うん! もう、嬉しさのあまり『うぉー!』って叫んじゃってさー。今夜はお祝いの焼肉だーって!」
両手を上げて喜ぶおじさんを再現する光君に、ボクはふふって笑った。
「焼肉! いいなぁ、焼肉!」
傍らで「なんで男の子になったお祝いが焼肉で、女の子は赤飯なんだろう?」と紫苑ちゃんがぶつぶつ文句を言い始める。
「女の子もしゃぶしゃぶとかにしてくれないかなぁ」
えーと、それはそれでちょっと違うんじゃないかな。
「ボクは、女の子はスイーツの方がいいと思うけど」
「あ、それいいね!」
よーし、初潮が来たら、私はスイーツ食べ放題に連れて行ってもらおうと紫苑ちゃんが意気込んだ。
時々、神様はどうしてボクたちをこんなヘンテコな体にしたんだろうって思う。
なんで生まれてきた時に性別をはっきり分けなかったんだろう、って。
十歳ぐらいまで男の子でも女の子でもない、いわゆる「幼生」と呼ばれる状態。身体は女の子だけど、子供は産めないし、おっぱいだって大きくならない、あくまで仮の身体。おちんちんが生えてきたら男の子、初潮を迎えたら女の子にようやくなれる。
男の子になるか、女の子になるかはまったくの運任せ……と思っていたら、案外そうでもないらしい。
十年も生きていたら、普通は自分がどっちになりたいかなんとなく分かるらしくて。これも不思議なんだけど、大抵はそんな想いが運命を決定付ける。
まぁ、中には光君みたいに「男の子になって欲しい!」っていう親の気持ちに影響されて、というのも結構あるみたいだけど。
ちなみに紫苑ちゃんは絶対女の子になると決めているそうだ。理由は「私みたいにカワイイ子は女の子にならないとおかしいじゃん!」だって。紫苑ちゃんらしいけど、でも、確かに紫苑ちゃんが男の子になる姿は想像出来なかった。
そして、ボク、上月 歩(こうづき あゆむ)はと言うと……。
「とりあえずさ」
学校への道を歩きながら、光君が話し始める。
「中学生になったら野球部に入るんだ。もちろんエースで四番。高校で甲子園を制覇して、そのままプロになって、そしたら」
急に右隣を歩くボクを見てニカッと笑った。
「あたし……じゃなかった、オレと結婚しようよ、あゆむ」
「え? えーと……」
「ちょ、光! なに勝手なことを言ってんのよ! あゆむは私の旦那さんになるんだからね!」
すると逆方向から紫苑ちゃんが、ボクを渡すもんかとばかりにぐいっと引っ張って抱きついてきた。
「あゆむはスーパーモデルになった私のマネージャーをやるの。だってあゆむはとっても優しいんだもん。きっと激務で忙しい私を癒してくれるに違いないんだから!」
「う? うーん……」
なんだろ。どちらもボクを養ってあげるって言ってくれるのは嬉しいんだけど、ちょっと情けない気もする……。
「オレと結婚するの!」
「私の旦那様兼マネージャーなの!」
ついに僕の左右を引っ張り合うふたり。
そんなこともあって、ボクはどちらになるべきなのか決めかねていたのでした。
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