第27話『q.e.d.』

 家に帰り、俺は3人に卵たっぷりのチャーハンを振る舞った。3人は美味しいと言ってくれて、満足そうな表情をして完食してくれてとても嬉しかった。

 そして。課題も終わり、日下さんの件が解決し、更には俺の体も元に戻ったということなので、渚と咲は家に帰ることに。

「直人、彩花ちゃん。2日間泊めてくれてありがとね。課題も手伝ってくれて」

「そうね。あたしも、課題が終わって本当に助かったよ。3人のおかげで夏休みの楽しい思い出がまた一つ増えたわ。ありがとう」

 旅行が終わったら、さすがに残りは平和な休みになるかと思いきや、体が縮むなんて。俺にとっては色々な意味で思い出深い晩夏になった。

「いえいえ、私達も楽しかったですよ。ね? 直人先輩」

「そうだな。また、週末になったら来てくれよ」

 ただし、彩花が許可をしたらの話だけれど。この家での決定権は彩花に委ねられているからな。それに、彼女の許可なしに家族以外の女性が来たら嫌だろう。

「じゃあ、また月曜日にね」

「あたしも時間があったらこことか月原高校に遊びに行くわ」

「ええ、分かりました」

 そして、渚と咲は俺達の家を後にした。2人にとっても夏休みの思い出の一つができたようで良かった。まあ、2人とも小さくなった俺のワンピース姿にハマっていたみたいだから、思い出にしてくれないとむしろ困る。

「ようやく2人きりですね、直人先輩」

「そうだな」

 旅行から帰ってきた3日前は、彩花と2人きりの時間はあったものの旅行の後片付けもあって、ゆっくりとできた時間はそこまで多くなかった。そう考えると、家でゆっくりとするのは旅行に行く直前以来と考えてもいいくらいかも。

「……あっ」

「どうしたんですか? 直人先輩」

「元の体に戻ったら、美緒にテレビ電話をすることになっていたんだった」

 日下さんや森さんと会っていたり、水代さんとの唐突な再会もあったりしたから、美緒のことを今までずっと忘れていた。良かった、思い出して。

「そういえば、彼女がそう言っていましたね。では、早く彼女にテレビ電話をかけてあげましょう」

「ああ。どんな反応をするか楽しみだな」

 きっと、良かったねって言われるだけだとは思うけれど。

 俺は美緒のスマートフォンにテレビ電話をかける。

『なおくん?』

「おお、美緒か。俺の体が元に戻ったんだ」

『へえ、戻ったんだね!』

 美緒はとても喜んでいたけれど、すぐにがっかりしたような様子へと変わる。ど、どうしたんだろう?


『これで、美月ちゃんになおくんの体が小さくなったことを証明できなくなっちゃった』


 なるほど、美月に俺の体が小さくなったことを話したのか。でも、俺にはもちろん、彩花達にも連絡していないみたいだけれど。

「そうなのか。というよりも、俺の実家に遊びに行ったんだな」

『うん。なおくん達が羨ましいからね。泊まったよ』

 美月、突然そう言われてきっと戸惑っただろうな。相手が美緒だから泊まらせたんだろうけれど。

『それで、昨日の夜に美月ちゃんになおくんの体が小さくなっちゃったことを話したんだけど信じてもらえなくて。テレビ電話のかけ方も分からなくてさ』

「……なるほど」

 美緒の方もスマートフォンなんだから、簡単にテレビ電話をかけることはできると思うけれど、機械の知識に疎い美緒ならできなくても不思議じゃないか。

 そして、美月の方も俺が小さくなったことを信じていないから、俺達に電話をかけることをしなかったと。

「ええと、椎名さん。いい方法があります」

『えっ、本当なの? 彩花ちゃん!』

 俺の体が小さくなっていたこと証明するいい方法だって? 彩花はどんな方法を思いついたんだろう。

「私のスマホに私や渚先輩、広瀬先輩と一緒に写っている小さな直人先輩の写真がありますから、それを後で椎名さんと美月ちゃんに送りますね。きっと、それで美月ちゃんにも先輩が小さくなったことを証明できると思います」

 確かに、中学生や高校生の時に出会った彩花達と一緒に写っている俺の写真があれば、美月も信じてくれるか。

『うん、ありがとう! 良かったぁ、これで美月ちゃんに夢を見たんじゃないかって馬鹿にされずに済むよ』

 馬鹿にされちゃったのか、美月に。

 まあ、俺の姿を見ずに、俺の体が小さくなったことを聞いたら、美月のような反応をするか。特に小さい頃の俺を知っている人同士なら。ただ、馬鹿にするほどじゃないけど。

「まあ、本当だって美月が理解しても、あまり責めないでやってくれ」

『分かってるって。そうだ、咲ちゃんや渚ちゃんはいるの?』

「ごめん、さっき2人が帰って行って……その直後に美緒に電話をかける約束を思い出したんだ」

『そんなぁ……』

 美緒が不機嫌そうな表情をして頬を膨らましている。美緒のこんな表情を見るのは久しぶりな気がする。

『せっかく、2人にも小さいなおくんの感想を聞こうと思ったのに。まあ、あとで私から電話するからいいよ』

「すまないな」

 って、2人と話したかった用件は小さくなった俺のことだったのかよ。俺が小さくなっていたときの2人の様子からして、どっちも「かわいい」の一点張りだと思うけれど。

『じゃあ、私はなおくんの実家に行ってくるよ。彩花ちゃん、美月ちゃんと私に写真を送ってくれるかな?』

「分かりました!」

『じゃあね、なおくん、彩花ちゃん』

「ああ、またな。年末年始に彩花と一緒に洲崎に帰るかもしれない。12月になったらそれについてはまた連絡するよ」

『うん、分かった。じゃあね。さっそく美月ちゃんの所に行くから』

 そして、美緒の方から通話を切った。彩花に写真を受け取り次第、美月に俺の体が小さくなったことを話すつもりだな。

「じゃあ、彩花……2人に写真を頼む」

「……では、これにしましょう」

 そう言って彩花が見せてくれたのは、ワンピース姿の小さくなった俺のことを抱きしめる彩花の写真だった。そういえば、彩花に抱きしめられたときに渚や咲から写真を撮られたっけ。

「これで、送信っと」

 彩花が2人に送った写真で美月も分かってくれるといいな。

 ――プルルッ。

 すると、すぐに彩花と俺のスマートフォンが鳴る。

「美月ちゃんから来ていますね」

「えっ?」

 俺のスマートフォンも鳴っていたので確認してみると、俺にも美月からメッセージを受信していた。


『お兄ちゃん、本当に体が小さくなっていたんだね。今度、年末年始に彩花さんと一緒に家に帰ってきたときにでも話を詳しく聞かせてよ!』


 美緒の話は信じず、馬鹿にもしていたのに彩花の写真を見たらすぐに信じたぞ。文面からしてかなり興味を持っている様子。今度、実家に帰ったときの話のネタができたな。

「これで証明終了ですね」

「そうだな。ありがとう、彩花」

 すると、彩花が嬉しそうな様子でべったりと俺にくっついてくる。

「どうした?」

「だって、年末年始に私と一緒に実家へ帰省だなんて。何だか、もう直人先輩の奥さんになったような気分です」

「……まあ、結婚を前提に付き合うことを、彩花のご家族の前で約束したからな。奥さんになったような気分でいてくれるのは嬉しいよ」

「……はい」

 そう言うと、彩花は俺に口づけをする。

 最初こそは、体が小さくなったことに戸惑ったけれど……終わってみれば周りにいい思い出ができたってよしとするか。俺も元に戻ることができたし。小さくなっていたときのことで色々と馬鹿にされなければいいけれど。

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