第28話『確かめたい』

 美緒と美月に俺が小さくなった頃の写真を送り、美月にも俺に起きた出来事を分かってもらえた。

 俺は今、彩花と隣り合うようにしてソファーに座って、彼女の淹れてくれたアイスコーヒーを飲んでいる。


「……美味しい」

「ふふっ、何だか……ようやく日常に戻った感じがしますね。こうして、先輩とゆっくりするのが随分とひさしぶりのような気がします」

「確かに」


 旅行から帰ってきたときには普段の姿だったけど、夕方になっており、片付けをしたのでこうしてゆっくりと過ごす時間はあまりなかった。だから、今みたいな時間を過ごすのは旅行に行く前日以来と言ってもいいだろう。


「いやぁ、体が小さくなった直人先輩は可愛くて良かったですけど、やっぱり元の姿の先輩には勝りませんね」

「ははっ、ワンピース姿の俺に喜んでいたり、小さな俺を食べたいとか言っていたりしたのに……調子がいいな」

「だって、可愛かったんですもん!」


 ほらっ、と彩花はスマートフォンで小さくなっていた頃の俺の写真を見せてくる。

 こうして見てみると……俺、本当に小さくなっていたのだと実感させられる。そして、彩花達に色々と好きなことをさせられていたんだな。

 そうだ、俺に色々と好き勝手なことをしたから、いつか仕返しをしてやろうと思っていたんだ。まあ、仕返しとまではいかなくても、今回のことは貸しにして、3人にはいつか何かの形で俺に返してもらおうかな。


 ――カシャ。


「どうしたんだ、彩花。写真なんか撮って」

「戻った記念です。それに、遥香さんや絢さんに送っておこうと思いまして」

「……そっか」


 そういえば、遥香さんと絢さんにも体が小さくなったことを伝えてあったんだっけ。まあ、彩花が写真を送るみたいだから、2人への報告はそれで大丈夫かな。気になることがあれば、2人なら俺達に訊いてくるだろう。


「そうだ、彩花。ここに座って」

「は、はい」


 彩花が俺の脚の間に座ったので、俺は彼女のことをそっと抱きしめる。


「どうしたんですか、先輩」

「ほら、昨日約束しただろう? 元に戻ったら彩花のことを抱きしめるって」

「そう……ですね」


 彩花は頬を赤くしながら微笑む。


「……小さくなって彩花に抱きしめられるのもいいけど、やっぱり元の姿に戻って彩花のことを抱きしめる方が俺は好きだな。とても落ち着くし、彩花の温もりや匂いを感じることができるし、彩花のことが好きなんだな……って実感できるんだ」


 それに、彩花をこうして抱きしめることで、俺にとってはようやく日常が戻ったんだって思えるんだ。本当にまた……彩花を抱きしめることができて良かった。しばらくの間は離したくないよ。


「直人先輩の言うとおりだと思います。私も、小さくなった先輩を抱きしめるのもいいですが、元に戻った先輩に抱きしめられると……温かい気持ちになって、キュンキュンして……何よりも、先輩への愛おしい気持ちがどんどん膨らんでいきます」

「……そっか。僕も彩花への好きな気持ちが膨らんでいくよ」

「じゃあ……それを確かめたいのでキスしてくれませんか?」

「……うん」


 俺は彩花とキスする。彩花の唇から伝わる優しい温もりは……俺の体が小さくなっていた頃と全く変わっていない。それは俺がどんな状態になっていても、変わらず俺に対して好意を抱いていたことの証拠だった。


「先輩、唇が大きくなっただけで、体が小さかった頃と変わっていませんよ」

「……彩花こそ。ずっと、俺の側にいてくれてありがとう。これからも……俺の彼女として側にいてくれるか?」

「当たり前ですよ」


 ちゅっ、と彩花は軽くキスしてきた。


「ねえ、直人先輩。今夜も……一緒に寝てくれませんか?」

「もちろん」

「ありがとうございます」


 ちゅっ、とキスしてきた。

 もう、結構疲れたから……今日はもう彩花と一緒にお風呂に入って、眠ることにするか。


「じゃあ、寝る前にお風呂に入ろうか」

「はい。今日も先輩の髪と体を洗ってあげますねぇ」

「……ありがとう」


 今の言い方からして、未だに俺のことを子供扱いしているように思えるけれど……彩花に甘えられるときには甘えておいた方がいいかな。甘えすぎには気を付けないといけないけど。

 明日、目覚めたら体がまた小さくなっていた……なんてことが起きなければいいな。今度は彩花の方が小さくなっていたとか。

 万が一、そうなってしまったら、今回みたいに問題を解決していけばいいか。きっと、できるだろう。彩花と一緒なら。

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