第16話『心霊スポット』
スマートフォンでさっそく、俺達が泊まっているアクアサンシャインリゾートホテルの噂について調べ始める。
「うわあっ……」
手始めに『アクアサンシャインリゾートホテル 噂』と検索をかけてみたら、香川さんの言うお化けや心霊などについて書かれているページがヒットした。もしかして、俺が知らないだけでここって心霊スポットとして有名なホテルなのか?
「どうかしたんですか? 直人さん」
「……一発目に心霊系のページがヒットしたので驚いちゃって」
「こっちもヒットしました。画像検索をすると、このホテルやその周辺で撮影された心霊写真が結構出ますね」
心霊写真か。今までなら何も考えずに見ていられたけれど、今はあまり見る気にはなれないな。急に怖く思えてきたから。
「写真も複数あるってことは、それなりの心霊スポットなんですね」
「もしかしたら、私が今朝になってお腹を壊してしまったことも、彩花さんが寒気を感じてしまったことも……先ほど、直人さんが言ったように幽霊やお化けに仕業かもしれませんね」
「……急に寒気を感じてきたんですが、気のせいかな」
カップに残っているホットコーヒーを飲み干して、気持ちを落ち着かせる。
何というか、それなりの心霊スポットだったことについては知らない方が良かったな。彩花と遥香さんが入れ替わってしまったので、このホテルにまつわる心霊系の噂が一気に真実味を増してしまったよ。知らぬが仏、ってこういうことを言うのかな。
ただ、怖いもの見たさというものもあって、俺のスマートフォンでも画像検索をしてみると多くの心霊写真が。アクアサンシャインリゾートホテルの建物が写っている写真もあるので、このホテルの近くで心霊写真が撮影されたことが分かる。
「肩に乗った知らない人の手や、赤い光、ぼんやりと浮かんでいる女性の顔……」
「色々ありますね。私は今、ここに旅行に行った人のブログ記事を見ているんですが、私達のように、突然体調が悪くなった日があったとか書いてありますね」
「ネット上には色々な情報が載っているんですね」
次回から旅行に行くときにはホテルや旅館の公式サイトを見るだけではなく、一歩踏み込んだところまで前もって調べた方が良さそうだ。
「表ではプライベートビーチがあって、プールの種類も多い人気のリゾートホテルですが、知る人ぞ知る心霊スポットでもあるらしく、その類が好きな人にも人気らしいですよ。夏に多く出るそうです」
「そう……なんですね」
じゃあ、今の時期は海やプールで遊びたい人はもちろん、心霊系を目的に来る人もいるんだ。
「ただ、心霊系スポットって、ほとんどの所が幽霊やお化けが出る理由があると思うんですよね。ここは心霊スポットであることは分かったので、次はこの地域で過去に何があったのかについて調べてみましょうか」
「分かりました!」
遥香さん、元気そうだな。俺と2人きりになったことで、気持ちが大分落ち着いてきたのか。それとも、心霊系の話が好きなのか。
ここで何か起こったとすれば、一番ありそうなのは昔、この地域で誰かが亡くなったってことかな。亡くなった人の霊がこの地域に住み着いているから、写真や動画を撮影すると、あるはずのない手や赤い光、ぼんやりと浮かんだ顔として登場するのかも。
「直人さん、気になるページを見つけました。ブログ記事なんですけど……」
「どれどれ……」
遥香さんからスマートフォンを見せてもらうと、そこには20年前にこの地域のホテルであった自殺について書かれていた。自殺したのは当時16歳の女子高生か。
「自殺か……」
「このブログの管理人さんも心霊スポットが大好きで、年齢は30代半ばらしいです」
「なるほど」
30代半ばの人なら、20年前の自殺についても覚えているか。しかも、同年代の人の自殺だから関心を持ったということかな。
20年前だと俺はまだ生まれていないので、この事件について知らなくて当然か。
「ええと、8月中旬、白海リゾートホテルの15階の客室から、この日宿泊していた16歳の女子高生が飛び降り自殺をした。プールサイドに転落して即死。亡くなった女子高生の体から流れた血がプールの水を血の色に変え、事件捜査のため1週間ほどプールの利用が禁止となった」
「想像しただけでも胸が締め付けられます。同い年の女の子だから……」
「遥香さんも高校1年生なんですね。彩花と同じですか」
俺よりも年下なのに、敬語で話してしまっているけど……まあ、いいか。そっちの方が自然になってしまったし。
「プールの水の色が赤くなった、って相当血が流れたんでしょうね」
おそらく大げさに表現しただけで、実際は赤みがかった感じなんだろう。ただ、それでも事件が起こってしまったから、しばらくはプールの利用が禁止になるか。
「でも、自殺をするなんて……何があったんでしょう」
「その記事に書いてあるんじゃないでしょうか」
どれどれ、続きを読んでみると……あった。自殺をした女の子は学校でいじめを受けていたのか。それが2学期になってから判明したと。
「いつの時代にもいじめってあるんですね」
「そうですね。しかし、いじめによる自殺となると……その子の霊が20年経った今でもこのホテル周辺に彷徨っている可能性は高そうです」
悲しい想いや悔しい想いが、今もここに居座っているのかもしれない。亡くなってから20年以上経っても、誰かに助けを求めているのかもしれない。だからこそ、写真や動画に何かしらの形で現れた可能性も。
「直人さん、まだ……続きがあるようです」
「えっ?」
20年前に自殺した女の子について、さらに書かれているのか。
続きを読んでみると、当日、自殺した女の子はクラスメイトの女の子の家族と一緒に白海リゾートホテルへと旅行に来ていた。クラスメイトの女の子は『いじめも理由の1つだけれど、一番は飛び降りる直前に彼女を手放してしまったから』と証言している……か。
「彼女を手放してしまった、とはどういうことなのでしょう?」
「自殺した女の子はいじめを受けていたみたいですね。証言をした女の子は、自殺した子の唯一と言っていいほどの友人だったのかもしれません。何かの理由で喧嘩をしてしまったんじゃないでしょうか」
自殺の直前に彼女のことを手放してしまった、か。何だか、唯が亡くなってしまったあの事件と似ている。
「……そうでしょうね。じゃあ、もしかしたらその女の子に対する想いを伝えたくて、自殺した女の子は霊となって、20年以上もこの周辺で彷徨っているのかもしれないんですね」
「まあ、心霊写真に写っている霊がその子かどうかは分かりませんが。でも、可能性はかなり高そうですね」
彩花と遥香さんの体が入れ替ったのは、その女の子が2人に対して自殺する直前に自分が味わったような感情を味わってほしいからなのかもしれない。
「証言した女の子、今……どこにいるのでしょうか」
「生きていれば30代半ばですか。よほどのことがない限りは生きていると思いますが、その方を探すのもほぼ無理だと思いますし……」
そもそも、20年前の事件がきっかけかどうかも分からない。
ただ、他にそういった事件があったかどうか検索してみても、1つもヒットしない。心霊系スポットとしてこのホテルを紹介する記事も、そうなったきっかけの出来事として20年前の事件を説明している。
「可能性は十分にありそうですね。とりあえず、俺がこのことを坂井さんに電話で伝えますか」
「お願いします。あっ、コーヒーのおかわりを淹れましょうか?」
「じゃあ、ホットコーヒーをお願いできますか」
「分かりました」
こういうところは彩花に似ているな、遥香さん。
そして、俺は20年前の事件を伝えるために、坂井さんのスマートフォンに電話をかけるのであった。
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