第17話『情報共有』

 20年前にこのホテルがある地域で起こった事件について伝えるため、俺は坂井さんのスマートフォンに電話をかける。

『はい、坂井ですが』

「藍沢です」

『藍沢さん、どうかしましたか?』

「今、遥香さんと一緒にこのホテルのことを調べているんです。そうしたら、このホテル……香川さんが言っていたように、よく幽霊やお化けがでるみたいで。その手のマニアには人気のホテルなんだそうです」

『そうだったんですか。……俺も知らなかったですね』

 坂井さんもこのホテルについてはあまり調べていなかったのかな。まあ、普通は調べないよな、そうだよな。

「今の時期になると、幽霊やお化けが多く出るみたいで。スマートフォンで検索したんですけど、結構な量の写真がアップされていて……」

『検索ワードは、「アクアサンシャインリゾートホテル 噂」と検索すれば大丈夫ですか?』

「ええ、大丈夫ですけど……調べるのであれば一旦、通話を切りますか?」

『いえ、大丈夫です。タブレットを持ってきているので……』

「そうですか」

 それなら、通話をしながら検索することができるか。大学生になるとタブレットを持つ人が多いのかな。

「話が逸れてしまいますが、彩花の様子はどうですか?」

『奈央と絢さんが彩花さんと親睦を深めるために女子会をすると言って、遥香と絢さんが泊まっている1501号室で楽しくガールズトークをしていますよ。俺は1人で1502号室にいます』

「そ、そうなんですか」

 それはちょっと寂しいな。

 女子だけの方が気軽に話すことができると、絢さんと香川さんは考えたんだろうな。何にせよ、彩花と仲良くしてもらえていることは嬉しいし安心する。

『部屋を行き来できる扉は開いていますし、3人の楽しそうな声が聞けるだけでも俺は十分ですよ。それに、俺も藍沢さんや遥香と同じように、2人が入れ替わった理由を調べたかったですし』

「そうですか」

『そういえば、遥香の様子はどうですか?』

「坂井さんというお兄さんがいるおかげか、俺に対して特に緊張することなく普通に話せていますよ。2人でいたいと言っただけあって、部屋に戻ってからは楽しそうな表情を見せるようになりました」

『そうですか。それなら良かった』

 やはり、妹のことは心配になるよな。俺も美月が遥香さんと同じ立場になったら、凄く心配すると思う。頻繁にメールやLINEでメッセージを送っているんじゃないかな。

『あっ、出ましたね。画像検索をしたら……ああ、肩に乗っている見知らぬ人の手や赤い光、ぼんやりと浮かぶ女性の顔、ですか。このホテルをバックにして撮影されているんですね』

「ええ。それらの心霊写真がこのホテルで撮影される理由として考えられているのは、20年前の夏に、この地域にある白海リゾートホテルというところで当時16歳の女子高生が飛び降り自殺をしたんです。その女子高生は学校でいじめを受けていたそうです。ただ、事件当日はクラスメイトの女子生徒の家族と一緒に来ています。しかし、その友人が自殺間際に少女を突き放してしまったと」

『なるほど。いじめを受けていた少女にとって、一緒に来ている友人が心の拠り所だったのでしょう。その白海リゾートホテルはこの地域にあるんですよね』

「ええ、それは分かっているんですが、ホテルについてはまだ詳しく調べていなかったですね」

 20年前の事件のことばかり考えていたからな。

『分かりました。じゃあ、調べてみますね。ちょっと待っていてください』

 白海リゾートホテル、か。心霊写真の原因が20年前の事件だとしたら、もしかして、白海リゾートホテルというところは――。

『藍沢さん。ホテル名で検索をかけたのですが……どうやら、白海リゾートホテルはこのアクアサンシャインリゾートホテルのことのようです』

「やっぱり、そうですか」

『10年前にホテルの名前を変更したようです。調べてみると、20年前の事件の直後から多くなった心霊現象と怪奇現象が影響し、業績が年々悪化したそうです。低迷する中、ホテルの名前を変え遊泳施設を充実させ、地域と連携した形でリスタートしたことが功を奏し、今のような人気のリゾートホテルとして見事に復活したそうです』

「そうだったんですか。しかも、現在はその手のマニアには心霊スポットとして人気だそうですよ。特に今の時期は多く出ますから」

『……あれ、急に寒くなってきましたね。俺、心霊系には強いはずなんですけど』

 坂井さん、絶叫系にはめっぽう弱いのに、心霊系には強いのか。ただ、実際に彩花と遥香さんが入れ替わってしまったから、幽霊やお化けを信じてしまうようになったのか。そこは俺と同じだな。

『まさか、このホテルにそんな過去があったとは』

「まだ、20年前の事件が原因かどうか分かりませんが、可能性は非常に高いと思います」

『俺もそう思います。仮に20年前の事件が原因だとしたら、その自殺した女の子が遥香と彩花さんの体を入れ替えさせたんでしょうね』

「彩花も遥香さんも付き合っている人がいます。入れ替わりによって、恋人との決定的な距離を作り、孤独や絶望を味わわせたいのかもしれません」

『……そうかもしれませんね』

「心霊系を取り上げたニュース記事、ブログでは心霊写真が撮影される原因として、20年前の事件を紹介しています。可能性の範囲に留めず、入れ替わった原因としても考えるべきだと思っています」

『俺もその方向で考えていっていいと思いますね。今、このホテルのある地域で起こった事件を調べていますが、人が亡くなった事件に絞ると、20年前の事件が最後です』

「そうですか」

 これからは、20年前の事件を更に詳しく調べていかないと。自殺した少女は誰なのか。彼女が自殺する直前に喧嘩をしてしまった少女が誰なのか。そして、2人がどんな関係にあるのか。事件から20年経った今、それらを調べることができるだろうか。

「調べていただきありがとうございました」

『いえ、こちらこそ20年前の事件を教えていただいてありがとうございました』

「引き続き、俺と遥香さんは20年前の事件を詳しく調べてみることにします」

『分かりました。こちらも調べてみます。何か分かったら、今みたいにお互いに連絡をしていって情報を共有していきましょう』

「はい」

『これからも遥香が色々とお世話になると思いますが、宜しくお願いします』

「分かりました。こちらこそ、彩花のことを宜しくお願いします」

『ええ、彼女のことは俺達に任せてください』

 坂井さんもしっかりとした方みたいだし、彩花の側には絢さんと香川さんがついていてくれるからひとまずは安心かな。

 俺も遥香さんのことを守らなければ。20年前に自殺した少女が入れ替わりに関わっていて、彼女の霊がこのホテルに彷徨っているとしたら、今後も何を仕掛けてくるか分からない。

『それでは失礼します』

「はい、失礼します」

 そして、坂井さんの方から通話を切った。

「直人さん、コーヒーのおかわりを淹れておきましたよ」

「ありがとうございます」

 俺は遥香さんが淹れてくれたホットコーヒーを一口飲む。

「美味しいです」

「……良かった」

 その時に見せる遥香さんの笑顔がとても可愛らしく思えた。何だか、本当に彩花が嬉しそうにしているように思えて。

「兄達の方はどうでした?」

「彩花は絢さんと香川さんの3人で女子会をやっているみたいです。坂井さんは1人で調べているようです」

「そう、ですか……」

「あと、坂井さんに調べてもらったんですが、20年前の事件が起こった白海リゾートホテルは、ここアクアサンシャインリゾートホテルのことだったんです。10年前に今のホテルの名前になったそうで」

「ということは、20年前の事件が関わっているのはほぼ確実ですね」

「ええ。なので、これからは20年前の事件を詳しく調べていきましょう。ただ、今は……このコーヒーを飲んで休憩することにしますね。とっても美味しい」

 幽霊とか、お化けとか……普段はなかなか触れることのないことについて考えたから、ちょっと疲れてしまった。しかも、1人の少女の死が関わっている。遥香さんの淹れてくれたコーヒーを飲んで気分転換をしよう。

「……彩花さんが直人さんを好きになった理由がちょっと分かった気がします」

「そうですか」

 彩花も絢さんと楽しく女子会をやっているそうだから、今頃、遥香さんが絢さんに惚れた理由に気付いているかもしれないな。

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