第48話『勝者の涙』

 閉会式も終わり、両校の選手がコートを後にする。それに合わせて、観客席にいる人も徐々に席を立ち、会場を後にしていく。

 私達もそろそろ行こうかと思ったときに、渚ちゃんからメッセージが届く。


『やっと、更衣室に戻れたよ。着替えたら観客席の方に行くから、直人や美月ちゃんと一緒に待っていてくれるかな』


 人も段々少なくなってきているし、会場の外に出てしまうよりは渚ちゃん達と会いやすいか。


「月原高校、優勝おめでとう。藍沢君」


 そう言って、楽しげな様子の楓ちゃんがこちらにやってきた。


「ありがとう、北川。ただ、頑張ったのは渚達だから、彼女達に言ってやってほしい」

「何を言ってるのよ。あなただって、チームをサポートしてきたんでしょう? それなら、あなたも称賛の言葉を言われる資格は十分にあると思うけど」

「……そう言ってくれるのは嬉しいな」


 そう言うなおくんの口角は僅かに上がっている。

 そうだよね、なおくんは月原高校の女バスをサポートしてきたんだもんね。そんななおくんは女バスの一員といっても過言ではない。


「なおくん、おめでとう」

「ははっ、ありがとう」


 さすがのなおくんも口に出して笑った。


「金崎が勝ってもおかしくなかったんだけどなぁ。予選のときと一緒で、ワンプレーの差で決まっちゃったわね」

「そうだな。実力は本当に同じくらいだったと思う。ただ、月原は……予選のときに一度負けているから、次に戦うときは絶対に勝つっていう気持ちがあったはず。その想いが最後の渚のシュートに繋がったんじゃないかなと思ってる」


 確かに、渚ちゃんはこのインターハイで金崎高校と戦い、勝って優勝することにとても拘っていたように思えた。その想いがチーム全体に伝わって、優勝という結果に繋がったのかもしれない。


「あっ、渚さんや彩花さん達が来ましたよ!」


 そう言って、美月ちゃんが指さす先には制服に着替えた月原高校女子バスケットボール部のみなさんの姿があった。みんな笑顔だけれど、その中でも渚ちゃんは特に可愛らしい笑顔をしていた。


「みんなのおかげでインターハイ優勝できたよ! 本当にありがとう!」

「おめでとうございます!」

「おめでとう!」

「月原高校のチームワークは素晴らしかったわ。おめでとう」


 渚ちゃんの感謝の言葉に対して、美月ちゃん、私、楓ちゃんは称賛の言葉を口にする。

 なおくんはゆっくりと立ち上がり、優しい目つきをして、


「優勝おめでとう、みんな。よく頑張ったな、渚」


 渚ちゃんのことをぎゅっと抱きしめる。その際に渚ちゃんの体を自分の方に引き寄せているところが、かっこよくて、羨ましく思えた。


「みんなのおかげでもあるし、直人のおかげでもあるんだよ。試合中、何度も不安になった場面があって、そのときは必ず直人のことを見てた。直人がいてくれたから、優勝……できたんだよ……」


 渚ちゃんの眼からは涙。そこにはきっと、喜びはもちろんのこと、今までの不安だったり、焦りだったり、責任感だったり。インターハイが終わった今になって、涙という形で溢れ出ているのかもしれない。


「そう言ってくれることはもちろん嬉しい。でも、一番は……みんなが一生懸命、練習を頑張って、インターハイで優勝するっていう気持ちが一つになったことだと思う。でも、渚はよくエースとして頑張った。よく、みんなを引っ張ってきた。ここまでお疲れ様。本当におめでとう」


 なおくんはそう言うと、渚ちゃんの頭を優しく撫でる。

 そして、そのお返しなのか、渚ちゃんはなおくんのことをぎゅっと抱きしめた。

 何だかさっきまでコートで一番しっかりしていたのに、今はもう甘えん坊な女の子になっている。かわいいな。


「吉岡先輩、藍沢先輩の前ではやっぱり女の子なんですね」

「なっ……!」

「でも、そういうところがとても魅力的です……!」

「あっ、え、えっと、こ、これは……」


 桐明さんや金川さんの言葉に、渚ちゃんは急にあたふたし始める。顔を真っ赤にしながら慌ててなおくんから離れる。


「み、みんなと一緒に抱きしめたように直人とも抱きしめただけ! それだけなんだからっ!」

「本音も言ってたのに、ですか?」

「彩花ちゃんまで人のことをからかって……!」


 渚ちゃんは不機嫌な表情をして頬を膨らませる。


「直人のことが好きなんだからしょうがないじゃない……」


 そう呟く渚ちゃんがとても可愛らしい。

 咲ちゃんも私達のところに来るかと思ったけれど、咲ちゃんの姿が全然見えない。勝負に負けたこともあって、あまり会いたくないのかもしれない。


「咲、全然来ないな……」

「ここに来るって連絡が来てたの?」

「うん、さっきメッセージが来てね。でも、もしかしたら……この状況を見て、なかなか姿を現すことができないのかも。私はここで失礼するわ」


 そう言うと、楓ちゃんは私達の元から立ち去った。もし、楓ちゃんの言っていたことが本当だとしても、楓ちゃんが側にいれば大丈夫だと思う。

「……あとで、電話してみよう」

 私達も程なくして会場を後にする。

 ただ、なおくんは今日だけ病院から外出することを許されている。だから、帰るところでは家ではなくて、病院。

 彩花ちゃんや渚ちゃんと5人でなおくんの入院する病院へ向かうのであった。

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