第44話『再決戦-2nd Quarter-』

 第1クォーターが終わって、金崎とは2点のビハインド。まあ、個人的にはこの程度なら想定内だけれど。


「向こう、予選のときとは全然違いますね、渚先輩。準決勝まで観戦したので、それは分かっていたんですけど……」

「まあ、実際に試合してみて分かることもたくさんあるからね、彩花ちゃん。ただ、あの金崎の変化に対応してよく2点差で抑えられたと思うよ」


 金崎高校の変化に対する焦りや戸惑いを最小限に抑えて、こっちもしっかりと点を入れることができている。リードはされているけど、私にとってはいい流れだと思っている。正直、第1クォーターは金崎の変化にどれだけ対応できるかだと思っていたから。


「ただ、勝つためには金崎の変化にも勝るプレーをしていかないといけない。ここはちょっとこっちも変化を付けていった方が良さそうだ」

「どういう風にしていきましょうか?」


 香奈ちゃんがそう問いかける。香奈ちゃんのガンガンとした攻撃は相手にはもう十分知られているし、変えたくない一つの武器。変化を持たせることができるとすれば――。


「すずちゃん」

「は、はいっ!」

「第1クォーターではポイントガードとしてみんなを支えてくれたけど、第2クォーターでは香奈ちゃんと一緒で、基本、ガンガン攻めていって。1人でゴールまで行けると思ったら迷わず行っちゃって。すずちゃんは十分にその技術があるから。もちろん、持ち前のフェイクも上手く利用してね」

「分かりました!」


 すずちゃんは冷静で頭の回転もいい。第1クォーターではポイントガードとして月原のプレーを動かしてもらっていたけれど、第2クォーターではスモールフォワードとして頑張ってもらおう。

 予選の頃からうちは香奈ちゃんと私のツーエースで戦ってきている。第2クォーターのエースはすずちゃんと香奈ちゃんだ。


「大丈夫。私がポイントガードになって適宜指示していくから」

「その場の状況によるけど、基本は私や香奈ちゃんにパスすれば大丈夫だから。そのくらいの気概ですずちゃんは得点を奪うようにしていって」


 部長の一言に後押しされ、すずちゃんはやる気に満ちた表情を見せる。彼女は試合を重ねていくごとに成長していく選手だと思う。

 私達5人は円陣を組む。


「第2クォーター、たくさん点を取って逆転しよう!」

『おー!』


 気合いを入れて、第2クォーターが開始されるのを待つ。


「渚先輩」

「何かな、彩花ちゃん」

「向こうはどう攻めてきますかね。第1クォーターは本当に全員のプレーでしたけど。ここは敢えて予選のときのように、広瀬先輩中心のプレーになりそうな気がします」

「その可能性はありそうだね。でも、実際にプレーしないと何とも言えない。そう思えるほど、今の金崎はチームとして強い印象がある」


 まだまだ私達に見せていないプレースタイルがあるような気がして、恐い気持ちは正直ある。ただ、やってみないと分からない。


「みなさん、第2クォーターも頑張ってください!」

「もちろんだよ、彩花ちゃん。それに藍沢先輩が観ているのに負けるわけにはいかないって」

「……そうだね。直人のためにも頑張ろう」


 私は観客席にいる直人の方を見る。直人は真剣な表情で、隣に座っている椎名さんと何か話しているみたい。こっちの方を見てほしい……あっ、こっちを見てくれた。


「渚ちゃん、顔が赤くなってるよぉ」

「そ、そんなことないですって! 赤くなっていてもそれは暑いせいです」


 部長にからかわれた。直人のことが好きなのはみんな知っているけど、こんな大事な試合でからかわなくてもいいじゃない。

 でも、好きな人が応援してくれるのは凄く励みになる。


「間もなく第2クォーターを始めます! 出場する選手のみなさんはコートに入ってきてください!」


 審判の呼びかけで、私達はコートの中に入る。第2クォーターでは逆転するつもりで臨んでいかないと。

 そして、第2クォーターが始まる。


「さあ、このまま点差を広げていくわよ!」

『おー!』


 金崎のメンバーはみんな、広瀬さんの掛け声に大きな声で答えている。

 金崎の方は特に第1クォーターから変わっている様子はない。彩花ちゃんが言っていたような広瀬さん中心のプレーばかりではない多彩なプレーを見せていく。第1クォーターでは見られなかった攻め方もしているけど、上手く対応できている。

 すずちゃんがスモールフォワードになったことで、こちらの攻撃スタイルに変化が生まれる。すずちゃんは臨機応変に動くことができていて、時には冷静に、時には大胆にゴールへと向かっている。


「すずちゃん、この調子で行こう!」

「はいっ!」


 第1クォーターからすずちゃんの動きが変わったことで、すずちゃんにマークがつかれやすくなる。ただ、すずちゃんもそこは分かっていて、適宜、香奈ちゃんや部長にパスを回して、相手の守備をかき乱していく。


「香奈ちゃん、ナイスシュート! すずちゃんもナイスアシストだよ!」


 やっぱり、1年生メンバーの中ではこの2人は最高だな。部活以外でも2人は一緒にいることがあるそうなので、2人の呼吸の良さを信じてみたけど、それは正解だったみたい。


「香奈ちゃん、すずちゃん、2人ともいいね! この調子で金崎を突き放しちゃおう!」

『はいっ!』


 この返事もとても息が合っている。すずかなコンビはいいぞ。未来の月原のエースはきっと君達2人だ!


「みんな、焦らないで! 逆転されたけれど、まだまだこれからよ! みんなで点を取っていきましょう!」

『おー!』


 広瀬さんの呼びかけで、金崎の選手は気持ちを切り替えたってことか。元は、広瀬さん中心で動いていたチームでもあったから、チームメイトから彼女への信頼はとても厚いってことか。

 その後もすずかなコンビを中心とした積極的な攻撃により、月原高校は順調に点数を重ねていった。

 そして、第2クォーターが終了する。


 月原 42 – 34 金崎


 主導権がこちらに移ったことによって、金崎高校を見事に逆転し、8点の差を付けることに成功した。

 ただ、予選の優勝決定戦では第3クォーターで金崎高校へ流れが変わっていった。今回も同じことになってしまわないように気をつけないと。そのためにも、まずはこのハーフタイムで少しでも体を休めよう。

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