第43話『再決戦-1st Quarter-』

 インターハイ女子バスケットボール決勝戦が始まる。

 第1クォーター。ジャンプボールは渚ちゃんが触れ、月原高校のメンバーである桐明さんの手に渡る。

 桐明さんは持ち前の小さな体を駆使して、素早くゴールへと向かっていく。


「さすがは桐明さんだ。体の小ささを武器にできるのはかなりの強みだな」


 バスケは大きい人の方が有利だと思っていたけれど、桐明さんのおかげでその考えも崩れた。

 桐明さんは誰かにパスすることなく、一気にシュートまで決めていった。


「何なんだ、月原のあの選手は……」

「体が小さいのにあんなプレーをするなんてすげえ!」


 小さな巨人とも言われている桐明さんのプレーに周りの観客は驚いている。

 ただ、コートでプレーをする金崎高校の選手は落ち着いているように見える。おそらく、月原高校の選手は研究してきていると思うので、桐明さんの今のプレーは想定内なんだと思う。

 ただ、金崎高校も点を取られるだけでは終わらない。咲ちゃん中心にプレーを展開していき、順調に点を重ねていく。


「金崎、変わってないようで変わっているんだな」


 冷静な様子でなおくんがそう呟く。


「どうしてそう思うの?」

「最後に試合を観たのが予選の優勝決定戦だったんだけれど、そのときから比べて金崎高校は月原のようなチームに変わっているように見えるんだ」

「でも、変わってないようでって……」

「ああ。今は咲中心のプレーが多いけれど、それは咲を中心にした方がベストだから。他の選手の方にボールを回した方がいい場面ではきっちりと、他の選手を軸にしたプレーをしているんだ」

「そうなんだ。でも、咲ちゃんは予選での月原高校との試合で、金崎はチームワークをまず身につけないといけないって言っていたから、その努力がちゃんと出た形になっているんだね」

「そうだと思う。それも、従来の咲中心のプレーと上手く使い分けることができているから凄いよ。さすがは決勝戦に進んだだけある」


 なおくんはそう言って引き続き試合を観戦する。確かに月原も金崎も凄いけれど、一番凄いのは今のようなコメントができるなおくんじゃないかなと思っている。

 金崎高校が点数を取れば、月原高校も点数を取る。月原高校はそれぞれの選手の個性を活かした多彩なプレーを見せて、点数に繋げている。そこには見事なチームワークがあってのことだと思う。


「点の入れ合いな感じだね、お兄ちゃん」

「そうだな。どっちも自分のプレーができている感じかな。それと、実力の差があまりないから逆転に逆転を重ねている」

「そうだね。あたし、見ていてとても面白いよ」


 美月ちゃんの言うように、私もとても面白いと思う。こういうのをシーソーゲームって言うんだっけ。点差が開いてしまうよりも、今みたいに逆転が続く方が個人的には好きだ。


「金崎の変化も凄いけれど、月原もさすがの安定感だ。むしろ、元々あった多彩さを更に増やしているというか。きっと、今は出ていない選手が交代で入ってくると、俺も見たことのないプレーが見ることができるんだろうな」

「渚ちゃんはチームワークが大切だって言っていたな。バスケはチームで戦うからって」

「渚らしいな。あいつは他の選手の長所を引き出すのが上手いから。まあ、香奈さんの場合は元々凄かったけれど、金川さんは渚の教えで強くなったから」

「金川さん……ってもしかしてすずちゃんのこと?」

「ああ、そうだ。彼女は周りとのプレーは上手いけれど、積極性が足りなくて、個人プレーは苦手だったんだ。でも、技術はあったから、あとは勇気を付けるだけだって渚は言っていて。それで、練習や試合を重ねて、今の金川さんになったんだろう」


 渚ちゃん、凄いな。きちんと仲間の強みを引き出すことができるなんて。


「渚ちゃん、頼れる感じがするもんね」

「ああ。月原はみんなでみんなの心の支えになっているけれど、渚が一番、周りの選手の心の支えになっているんじゃないかな」


 渚ちゃん、ゴールを決めても、決められても笑顔で声をかけている。月原高校の精神的な支柱はやっぱりエースの渚ちゃんなんだね。

 一進一退の攻防は続いていく。私が見ている限りは、どちらかが主導権を握っているようには見えない。互角の争いだと思う。


「なおくんから見て、どっちの流れになっているって思う?」

「はっきりとは言えないなぁ。ただ、個人的には予選のときから上手く変化した金崎がいい流れを作っているように見えるかな。予選のときは咲中心だったからね」

「なるほどね」


 予選からの経験を上手く生かせている、という意味では金崎高校の方にちょっと流れが来ているのかも。

 そして、第1クォーターが終了する。


 月原 16 - 18 金崎


 金崎高校が2点リードしたところで終わっている。点差としてはシュート1本分。3点のロングシュートなら逆転できるから差はほとんどないか。


「第1クォーターは互いに相手を伺いながらも、自分らしいプレーを入れてきた感じだったな」

「金崎高校は2点リードしたけれど、この結果はどうなんだろう?」

「シュート1本で追いつけるし、ロングなら3点入って逆転できる。それに、まだ第1クォーターが終わったところだから、差はないって考えていいと思うよ」

「そっか」

「ただ、本人達はこの結果をどう思っているか。そのことでもしかしたら、第2クォーター以降に影響が出るかもしれない」

「両校ともいい方に捉えられるといいよね」

「ああ、そうだな」


 試合はまだまだこれからだし、点差もほとんどない。どんな結末が待っているのか、私には全く想像できなかったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます