Memories 3

 左手だけなくなった手袋。

 唯の遺体の上に落ちていた腐った木の柵の一部。

 ちー姉ちゃんに話したそれらの違和感によって導き出されたことは、不登校を脱してすぐに思いついたことだった。


『事件当時、唯は誰かと一緒に灯岬にいた』


 では、その『誰か』とは一体誰なのか。

 それについても俺はすぐに分かってしまった。これもまた、ある違和感によって。

 その人は、事件の前と後で明らかに違うところがあったから。事件に関わっていない限りあんな変化はないだろうし。

 そんな俺の考えを、中学を卒業するまで伝えられなかった。その人物が俺と同じような苦しい目に遭わせてしまうかもしれないから。何も言えないまま、俺は高校進学のために月原へ上京してしまった。

 高校に入学してからも、時折、自分の推測をどう伝えるべきか考えていた。

 ただ、その人もこの2年以上の間、きっと唯の事件について考え、苦しんでいたはずだ。だからこそ、同窓会の連絡が来たとき、今回の帰郷がチャンスだと思った。


 2年前の事件と真正面から向き合うこと。

 事件に関わっているその人物を救うこと。


 明確な証拠なんてないけれど、その人物が俺に2年前の真実を話してくるかもしれないと考えていたのは、その人を見たことで抱いた違和感から導き出す真実に自信があったから。

 けれど、結局、自ら真実を語ることはなかった。



 だから、俺の方から直接会って、2年前の事件の真実を明らかにする。

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