第5話『渚の告白』
また後でね、と言った渚が授業の間の時間に話しかけに来るかと思った。けれど、朝のように俺のところに話に来てくれない。だから、俺の方から彼女のところに行こうとした。すると、彼女は逃げるように教室を後にしてしまう。午前中は結局、渚とは碌に話すことができなかった。
何とも言えない気持ちを抱えながら、昼休みは彩花と一緒に過ごした。今日も彩花の作った弁当は美味しく、特に毒が入っているようではなかった。
お弁当を食べた後は、昼休みの時間が終わるまで、俺に体を密着させながら彩花は友達やクラスのことを話してきた。その話によると、彩花も男子に告白されているが全て断っているらしい。彩花はそれらの告白を『捨て身の告白』と揶揄していた。それはさすがに酷いので注意した。
昼食が終わると5時間目の授業が始まる。時々、渚のことをちらっと見てみるけど、彼女と目が合ったり、彼女が俺の方を気にしていたりしていることは全くなかった。また後でという朝の言葉は俺の聞き間違いだったのかな。
しかし、5時間目が終わってすぐ、渚が俺の席までやってきた。
「……直人、ごめんね。朝にまた後でって言ったのに全然来なくて」
「別に気にしなくていいさ。それにしても、朝に何か話したそうにしていたよな。それを言いに来たのか?」
「そ、そんな感じ」
また後で、という言葉は気のせいじゃなかったんだ。今も渚は頬を赤くしてジロジロと俺の方を見ている。こんなに汐らしい彼女は見たことがない。今は彼女のペースで話を進める方が良さそうだ。
「あの、さ……」
「うん」
「……これからとっても大事なことを話すね」
「ああ」
一度、渚は大きく深呼吸をして、
「私、直人のことが好きなの。1年生のときからずっと気になってた」
俺の目を見て真剣な表情で告白をした。
正直、渚が俺に好意を持っているとは思っていなかったので今の告白には驚いた。ただ、思い返せば今朝から渚はいつもと様子が違っていたなぁ。
「後輩の女の子が一緒に住んでいるのは分かってる。でも、付き合っていないなら私にもチャンスがあると思って。だから、勇気を出して告白してみたの。恋人として私と付き合ってくれませんか? お願いします」
渚はゆっくり頭を下げる。
渚の方が彩花よりも真摯な気持ちが伝わってくる。それに、渚の方が気兼ねなく話せるし、彩花よりも一緒にいて安心できるからかな。今の彩花と渚なら渚と付き合うだろう。
ただし、それは俺が渚を異性として好きな気持ちがあれば。
「……ごめん、渚」
渚と付き合うかどうか。その答えはノーだ。
「渚が俺のことが好きなのはとても嬉しいけど、俺は渚のことを仲の良い友人としか思えないんだ。今は渚と恋人として付き合うことはできない。本当にごめん」
「やっぱり、後輩の子と一緒に住んでいるから?」
「それは関係ないよ。ただ、まだ俺は……誰か女の子と恋人として付き合うことが考えられないんだ」
むしろ、付き合ってはいけないと思っている。
渚に告白されたとき、俺の頭には悲しそうな彩花の顔がよぎった。俺は彩花を悲しませるようなことはしないって決めた。渚と付き合うことは、彩花を悲しませることだ。だから、渚に言った彩花は一切関係ないというのは嘘だ。
今の渚の顔を見るのは辛いけれど、彼女は勇気を持って告白したんだ。彼女から逃げずにちゃんと顔を見ないと。
渚の方を見ると、彼女は目に涙を浮かべていたけれど、必死に笑顔を作っているのが分かった。結果的に俺は1人の女の子を悲しませてしまったんだ。
「……ごめんね。突然、こんなこと言っちゃって。迷惑だったよね」
「そんなことないよ」
「……これからも友達として付き合ってくれるんだよね?」
「ああ、もちろんだよ。それは約束する」
「そっか。だったらいいよ。……いいよ、友達で……いいから」
涙を流さないための壁が脆かったのか、渚の眼からは何粒も涙をこぼす。渚は走って教室から出て行ってしまった。
ここは追いかけるべき場面ではないと思い、俺は席を立つことすらしなかった。
おそらく、近くにいた生徒達は渚の告白を聞いていたはずだけど、いいクラスメイトだ。今のことには気にするような素振りは見せず、各々の時間を過ごしてくれていたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます