【宇宙葬】

 古来より人の死は丁重に扱われ、埋葬の方法も様々であった。土葬、火葬、水葬と時代が進むにつれてその幅は広がっていった。ある所に一人の男がいた。彼は銘家の生まれの容姿端麗で仕事もこなせる人間だったが、その唯一の欠点は病弱だという事だった。生まれつきなのかそれとも無理がたたったのか、彼は25歳にして会社を継いだが、その2年後に細菌性の疾病に罹りICU行きを余儀なくされた。本来であれば免疫反応で排出されるはずの原始的な物だったが、既に弱り切っていた男にとってはそれが致命的な症状となった。抗生剤の投与も検討されたが、あまりに進行し過ぎていた体には負担が大きく、むしろ寿命を縮めてしまうのではと言う結論に至り、最期の時間を十分に取らせるべきだと言う事になった。


 男は幼い頃からよく空を見上げていた。そして、そんな時は決まって「もし僕がこんなに弱くなければ宇宙飛行士になりたかったなぁ」と周囲に漏らしていた。

彼の死後、身内と親友たちのみによって密葬が行われた際に、親友の一人がこう話した「あいつは昔から宇宙が大好きだったな、もう叶わない夢だが、せめて遺体だけでも宇宙に送ってやろうじゃないか。それが僕らの出来る最善の弔いだよ」と。

その言葉をきっかけにして、すぐにそれは計画に移された。男の遺体は急速冷凍され、地球を旅立つその日まで、元のままでいられるようにという配慮からだった。


 提案から半月後、すべての準備が整い、宇宙開発センターから小型のロケットに乗せてどこでもない場所へと打ち上げが行われた。乗るのは遺体だけだったため、高度な生命維持装置も無線も必要なかった。それもあってここまで早く用意が出来たらしい。真っ白な排煙を上げて、ロケットは一直線に上っていった。上層雲を突き抜けて、大気圏を通り抜け、無限とも思われる漆黒の宇宙にその姿を隠した。

「あいつの夢、ちゃんと叶ったかな…。」友人たちはいつまでもその軌跡を眺め続け、一向にその場を動こうとはしなかった。


 それから長い長い年月が過ぎ去り、地球人類が滅亡して何万年と過ぎた頃に旧地球に1つの探査衛星が到着した。そこから送られてくるノイズまみれのモノクロ映像を巨大なモニター越しに眺めながら、探査員は「この星以外にも知的生命体が住んでいた形跡がある星を見つけた!」と大声ではしゃぎ、「あぁ、宇宙かぁ、行ってみたいなぁ」と小さく呟いた。彼の姿は紛れもなく人類そのもので、気のせいかその顔はあの時病に倒れた男に少しばかり似ていた。

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