Ep.1「新都ケイアス」

1:辺境の剣士

 ケイアス王国、北地区商業街。王国の流通事業、金融事業など商業で盛んな場所だ。そして、ケイアスで最も豊かな場所でもある。地区の中心に巨大な国立の銀行があり、それを囲むように多くの店が建ち並んでいた。

 街には貴族が蔓延り、資産のことや家系の事情など下らない話をしていた。彼らの殆どが上辺だけ良い顔をして機嫌を取り、裏では気に入らないものを陥れる術を模索する、汚い性根をしていた。

 欲望で溢れる腐りかけた街、それが北地区商業街だ。


 シンシアが消えて20年が経ったある日の正午、晴天で日が照るこの時間は温暖期のケイアスでは程よい気温で、外で行動する人間も活発であった。北地区の貴族たちは、流行りという名の没個性で固めたファッションを纏い、貧民を仕えて業務に励んでいた。どこの施設も店も賑やかだったがその中でも特に人が集中していた所は、この街を案内するサービスや郵便のサービスなどが統合された、北地区総合取引所であった。総合取引所では貴族だけでなく一般の市民も取引のために訪れる場所で、様々な人間が集っていた。場内入り口を過ぎると、大広間、ケイアス王国総合案内所が存在し、そこを中心に、東側は郵便取引所、北側はケイアス北地区求人情報板、西側は休憩所と食堂が存在していた。

 

「失礼。この北地区に在住している、"アラン"という人物を探しているのだが。」

 一人の女が、総合取引所の受付人の男性へ質問をしていた。女の髪はこの国では珍しい黒のロングテールで、独特の麻製の衣装を纏っており、腰にも異端の細長い剣を挿していた。痩せており、細目で整った顔をしていたが、右目辺りには大きな傷跡が惨たらしく残っていた。おそらく失明しているであろうその目の傷痕は、形状的に彼女のと似たような細剣で斬られたのであろうか。背はこの国の人間の平均より低かった。この女は外来の者であるにも関わらず、ケイアスの言葉を使っていた。

 受付人は彼女の容姿や流暢なケイアス語に若干違和感を感じていたが、事務的な笑顔で応対した。

「こんにちは。アラン様をお探しで間違いありませんね? 少々お待ち下さい。」

 そう返事すると、彼は背後にある倉庫のような部屋に入り、しばらくしてから一冊の分厚い本を持ってきた。大まかな所を開いて、索引通りにページをたどり、やがて、女の前へあるページを提示した。

「すみません、大変お待たせしました。お客様がお探ししているアラン様ですが、この北地区にはアラン・リーヴィス様という探偵の方が、この取引所から東へずっと向かった所にある事務所におられますね。住民表通りであれば、他に同名の方はおりませんので事務所へ訪ねてみてください。こちらが、目的地までの地図です。」

 受付人は小さな地図を女に手渡し、丁寧な一礼をした。

「手間をかけさせてしまったな。助かった、ありがとう。」

 そう言い、女は取引所を後にした。受付人は彼女の後ろ姿を眺め、僅かながら疑問を抱いていた。

「何故、あの嫌われ者のアランに会いに行くんだろうか…冷やかしか、または…」

 思わず言葉にしてしまい、彼は口を手で覆い焦ったが、それを聞いて隣の受付人の女が目を光らせ食い入った。

「さっきの人、かなり珍しい格好してたよね!まさかあの探偵の闇取引人とか?」

「そんなことないだろうが…しかし彼女、見覚えがあるような気がするんだ…長い黒髪、珍しい長剣…うむ…」

 既視感なのか、本当に見たことがあるのか、曖昧な記憶が彼を悩ませるが、すぐに次の客が尋ねてきたため彼の模索はここで途絶えた。



 


 

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