第12話 赤い鬼

東郷静香は、彩音優が使っていたシードを左手に持って、陣内晶の前に立っていた。

東郷の服は、白い服で右手に小太刀を持っていた。

晶は、彩音を抱えたまま東郷を睨んでいた。

「元々は、私が回収したシードだ。貸していただけに過ぎない。それを、返してもらっただけだ」

「だからって、ここまですることはないだろ」

「こうでもしないと、手放さないからな」

「てめぇ・・・」

淡々と答える東郷に対し、晶はイライラを隠せなかった。

「さて、用件は済んだ」

そう言って、東郷は去ろうとしたが

「まてよ」

晶の声に、東郷は止まり横目で見た。

「このまま、帰すと思うのかよ」

晶は、彩音を静かに寝かせ立ち上がった。

「では、どうする?」

「一発殴らないと、気が済まないねぇ」

「武装していないお前では、相手にならん」

「そうかよ」

晶は、踏み込もうとしたが

ドンッ

晶の足もとに、苦無が飛んできて床に刺さり勢いを止められた。

東郷の前には、如月舞が立っていた。

「御前には、触れさせん」

如月は、黒い忍び装束のような服で両手に苦無を持って構えていた。

「くっ」

晶は、二対一の状況に間合いを取り構え直した。

「この状況で、まだやる気か?」

東郷は、聞いた。

「へっ、こういうのは慣れてるんでね」

「そうか」

「御前、ここは私が」

そう言って、如月が苦無を投げる体勢に構えたが

「あんたらは、気付いてないのか?」

「なに?」

晶は、ふっと笑い。

「そろそろ、来るぜ」

そう言った瞬間、東郷の背後の窓から黒い影が赤い目を光らせ現れた。

「御前!」

如月が、殺気に気付き振り返ろうとしたが

「があああああああっ!!」

黒い影は、咆哮と共に剣を振り下ろした。

バギィン!!

東郷は、冷静に小太刀で防ぐが弾き飛ばされた。

「ちぃっ」

如月は、苦無を投げたが

カキンカキンッ

剣で、払い落された。

「貴様・・・御影!」

黒い影は、御影奈々であった。

「やっときたか・・・・んっ?」

晶は、一息ついて言ったが

「ふーっ、ふーっ」

奈々は、息を荒げて怒りの形相であった。

「あ~、ブチ切れてるのか?」

晶が、ため息をついて言ったとき奈々は、シードを晶に投げた。

「素面なのか、どっちなんだよ」

晶は、シードをキャッチして言った。

「大した一撃だな」

東郷は、飛ばされたが無傷であった。

「おまえか・・・・おまえが、彩音ちゃんをやったのか!!」

「だったら、どうする?」

「おまえを・・・・・ぶっとばす!」

そう言って、奈々は一気に踏み込み東郷に斬りかかった。

「ふっ」

東郷は、斬撃を躱しそのまま校舎を出た。

奈々は、怒りの形相のまま追いかけた。

「御前!」

如月も、追いかけようとしたが

「せいっ」

ドカッ

晶が、如月を蹴り立ち塞がった。

「あんたは、私が相手だよ」

晶は、変身を終え構えた。

「貴様~っ」

如月は、イライラしながら晶を睨んだ。

東郷は、グラウンドまで移動し中央で足を止めた。

「ここで、いいだろう」

そう言って、振り返り奈々を見た。

奈々も、足を止め剣を構えた。

「うううううっ」

奈々は、獣のように唸り声を上げ、殺気立っていた。

東郷は、表情を変えず立っていた。

「狂犬のようにも見えるが、その顔・・・・まさに鬼の形相だな」

そう言って東郷は、両手を腰の後ろに引き

「ならば、少し本気でいくぞ」

引いていた両腕を広げ、両手には小太刀が握られていた。

「うおあああああーー!」

奈々は、叫びながら東郷に突進し東郷もそれに合わせるように、真っ直ぐ向かっていった。

ガギンッ!!

互いの剣が、ぶつかり砂埃が舞い上がった。

そのころ、晶と如月は校内で戦闘をしていた。

「はあっ」

如月は、飛びながら苦無を三本同時に投げた。

「ぬうっ」

カキンッ

晶は、二本躱し一本を拳で弾いた。

「まったく、何本持ってるんだよ」

そう言って、構え直し如月も新しい苦無を出して構え直した。

「けど、苦無投げだけなら大したことないね。楽勝楽勝」

晶は、にやりと笑い挑発した。

「この、くそガキーーっ」

如月は、歯ぎしりをして睨みつけた。

「だったら、本気で来いよ」

晶は、笑みを消し如月を見た。

「こっちも、腹が立ってるんだよ。それが、本気なら次でボコボコにしてやるさ」

そう言って晶は、拳を握りしめた。

「・・・お前ごときに使うのは癪だが、仕方あるまい」

如月は、構えを解き無防備になった。

「隙ありっ」

晶は、一気に間合いを詰め右拳を放つが

ボスッ

如月が消え、右拳に当たったのは上着だけであった。

「えっ!?」

その瞬間

ズバッ!

晶は、背後から斬られた。

「ぐあっ」

晶は、膝を着き後ろを見た。

そこには、如月がいて上着を脱いだその姿は、体のラインがはっきり見える薄い衣装に変わっていた。

「貴様だけは、ズタズタに切り刻んでやる!」

そう言って、如月は苦無を構えた。

「やってみろよ!」

晶は、立ち上がり構え直した。

そのころ楓は、一人劉麗華と対峙していた。

最初、奈々と背中合わせにして挟まれていたが、片側を奈々が一掃して晶の元に向かい、反対側を楓が五月雨で一掃したが麗華だけ回避した。

そのあと、一対一の状況になり今に至るのであった。

「遠距離型が、そんな近くにいていいのかよ」

麗華は、槍を構え笑っていた。

「対策は、あります」

そう言って楓は、弓を引いて狙いを定めていた。

互いの距離は、5mと離れていたが麗華は、腰を落として

「その距離は、私の間合いだよ」

後ろ脚を、前に引きつけそのまま前足を出して前に飛び込んできた。

「速いっ!」

楓は、矢を放つが麗華は頭を横に倒して躱し

「はぁっ!」

そして、そのまま槍を片手で突き抜いた。

「うっ」

ズバァッ!

楓は、真っ直ぐ来た槍を横に飛んで躱そうとしたが、腹部にかすり服が破れた。

「対策が、あるんじゃなかったのかい?」

麗華は、にやりと笑い楓に言った。

「あるには、あったんですけどね」

ジャキンッ

楓は、腹部を押さえながら弓から刃を出した。

「近接なら、勝てると思うのかい?なら、望みどおりにしてやるよ」

そう言って、麗華は一気に間合いを詰めた。

ガキンッ

互いが、ぶつかり鍔迫り合いになりながら

「穴だらけに、してやるぜ」

麗華は、笑いながら楓に言った。

「それは、お断りしますわ」

楓は、顔を引きつりながら言って。

ギィンッ

槍を弾き、間合いを取った。

楓は、構え直しながら麗華を見て

(これが、四天王の力・・・・二人とも大丈夫でしょうか)

そう思いながら、しばらく対峙していた。

そして、奈々と東郷の戦闘は激化していた。

「でえええぇぇぇい!」

ドガァッ!!

奈々は、剣を力いっぱい振り下ろしたが東郷は後方に飛び回避した。そのまま、奈々の剣は地面に当たり衝撃で土がはじけ飛んだ。

砂埃が舞う中、東郷は奈々を見ていた。

「まさに、荒れ狂う鬼だな」

東郷は、剣を構えず立ったまま言った。

「ふーっ、ふーっ、ふーっ」

奈々は、息を荒げて剣を構えた。

「実力が、わかるとやる気がなくなるものだ」

東郷は、ため息をつき

「気が変わった、一気に終わらせて実力の差を思い知らせてやろう」

そう言って、東郷が構えた瞬間

ドンッ!!

東郷は、まっすぐ奈々に向かって飛んできた。そして、素早く小太刀を左右交互に振るい斬りかかった。

ガキンッガキンッズバッガキンッバシュッ

奈々は、防ごうとするが速さについていけず一撃、二撃と斬られていった。

「うおああああああっ!!」

奈々は、防御を捨て剣を横に薙ぎるが東郷が消え空を切った。

東郷は、回転しながら上に飛び上がり

ズバアッ!

そのまま、回転斬りで奈々の背中を斬りつけ服が裂けた。

「ぐうっ!」

奈々は、そのまま前に倒れた。

「ぐうううううっ」

奈々は、立ち上がろうとするが

ドガッ

東郷は、奈々の頭を踏みつけ立てなくした。

「わかったか、これが実力の差だ」

東郷は、奈々を見下ろして更に踏みつけた。

「大人しく、シードを渡せばこれで許してやろう。嫌だというなら・・」

ガシッ

奈々は、踏みつけられている東郷の足を掴みはずそうとするが

「そうか、ならば仕方あるまい」

ドガアッ

東郷は、力いっぱい踏みつけ奈々の顔は地面に沈んだ。

奈々は、掴んでいた手が離れそのまま動かなくなった。

「止めだ」

東郷が小太刀を、奈々に突き刺そうと振りかざしたその時

カチャッ

「そこまでです」

東郷の後ろから、声が聞こえた。

「その声、桜瀬か」

東郷は、振り返らず答えた。

「そうですわ。わかりましたらその刀を納めてもらいましょうか」

東郷の、背後に立っていたのは桜瀬姫香であった。桜瀬は、東郷に杖を頭に向け構えていた。

「どういうつもりだ」

「今、この子達が倒れるのは不本意なので、止めさせてもらいます」

「それで、止められるとでも?」

「あら、頭を撃ち抜かれたいのですか?」

そう言って、桜瀬は光弾を出した。

「あなたが斬るのが先か、私が撃つのが先か競うというなら、それでもいいですわよ」

「・・・・・」

そして、しばらく沈黙した後

「いいだろう」

東郷は、剣を納めて奈々を踏みつけていた足をどけた。桜瀬も、それを見て杖を引いた。

「今回は、引くが・・・・次は、お前もろとも潰すことを忘れるな」

東郷は、桜瀬に言って去って行った。

「望むところですわ・・・・」

桜瀬は、そう言ってから悲しい顔をして

「以前は、そこまでする人ではなかったのに・・・」

去っていく東郷の背中を、見ながら桜瀬は言った。


「はっ」

奈々が、目覚めたときベッド上で寝ていた。

「・・・・ここは?」

「保健室ですわよ」

奈々は、声をした方に向いた。そこには、桜瀬が座っていた。

「たしか、東郷静香とやり合ってたはずだけど・・・」

奈々は、記憶を辿って思い出そうとした。

「あなたは、そのままやられて私が運んだのですよ」

桜瀬は、簡単に説明した。

「そうか・・・・負けたんだ私・・」

そう言って、俯いたが

「そうだっ、他のみんなは?」

「お二人は、大丈夫ですわよ」

そう言うと、桜瀬の後ろから晶と楓が出てきた。

「奈々」

「奈々さん」

しかし、二人の顔にいつもの元気はなかった。

「私達、全員負けたのか」

奈々の顔にも、笑顔がなかった。

「実質負けだな、私が負けそうなときに急に引き上げたから、助かっただけだし」

「私も、同じでしたわ」

「そうですか・・・頭を、抑えに言って正解でしたわね」

桜瀬は、事の経緯を二人にも話した。

「そういえば、彩音は?戻った時には、いなかったんだ」

晶が、桜瀬に聞いた。

「優ちゃんは、私が運んで自宅のベッドに寝かせましたわ。といっても、しばらくは起きないでしょうね」

「そうか・・・ならよかった」

晶は、安堵の息をついた。

「それでは、私はこれで」

そう言って、桜瀬は立ち上がり去ろうとした時

「待ってください」

奈々は、止めた。

「なんで、助けてくれたんですか?」

奈々の問いに桜瀬は、振り向き

「あなた方には、まだ倒れてほしくなかっただけですわ」

桜瀬は、微笑を浮かべそう言って保健室を去った。

そして、三人はしばらく黙ったまま今回の戦闘を、思い浮かべていた。

しばらくして、晶は俯き震えていた。そして膝に、涙がこぼれた。

「守れなかった・・・・彩音を・・・守ると・・約束したのに」

晶は、俯いたまま声を震わせ泣きながら言った。

「私も、同じだよ・・・友達を守れなかった」

奈々も、涙を浮かべ晶を抱きしめた。

「私も・・・同じです」

楓も、同じように二人を抱きしめた

「うっ・・・うっ・・・うわあああああん」

三人は、顔を合わせて抱き合い声を出して泣いた。


その声は、廊下にいた桜瀬にも聞こえたが、そのまま何も言わずその場を去っていった。

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