第11話 確信と裏切りと喪失

奈々と晶は、彩音がシードを持つことで生徒会側の疑いが現れた。

しかし、彩音自身は数日その動きがなかった。

「本当に、確信があるのですか?」

いつもの教室で、楓は二人に聞いた。

「私は・・・ね」

晶は、答えた。

「彩音さんが、図書委員だからですか?」

「いや、それだけが理由じゃないよ」

「他には、なにがあります?」

その問いに晶は

「それは、彩音がシードを見せたとき・・・・」

晶が、言いかけた時口を閉ざした。

「どうしました?」

「いや・・・・今は、信じよう」

晶は、そう言って会話をやめた。

「奈々さんは?」

「別に・・・・いいんじゃないかな」

奈々は、窓を見ながら他人事の様に言った後

「それもあるけど、生徒会の動きを見ようと思う」

「動きというと?」

「本当に、強引なことしてるかという点を」

「で、知った後どうするんだ?」

「そのときに、考える」

奈々は、そう言って窓の外を向いたまま考え込んだ。

授業中も奈々は、学園のこととこれまでのことを頭の中で整理していた。

東郷学園に入って数か月、生徒会は毎月の巡回や毎朝の校門で、生徒へのチェックは厳しいが服装や態度を注意するということはあった。だが、桜瀬は「強引なやり方で人を縛っている」と言った。考えてみると、この学園には不良生徒が限りなく少ない。入った当初気づかなかったのもあるが時間が経てば本性が出てきてそれが態度に現れるがそれも見当たらない。集団生活である以上、仲間外れやいじめなどもあるがそれによって悩みがある生徒も見かけない。いいことではあるが、妙に引っかかるとこであった。何もなさすぎることに奈々は、疑問を感じていた。やっているとすれば、裏で何かしてるしかないと考えた。今があるのは、真琴の言葉にあった「あの惨劇」が原因と思っていた。原因もあるが、今は現状を見極めるのが先決と奈々は考えていた。そして、彩音がシードを持って現れた。敵として考えれることは「シードの回収」が目的と見ていた。しかし、彩音は戦闘力は皆無に近い。銃を持っているといっても、命中率は理子よりかなり低い。ただ、索敵能力はずば抜けていた。私達を、倒さない限りシードは回収できない。普段から、肌身離さず持つようにしている為、盗まれるという点は低い。スリでもいれば別だが、その線はないとみている。だとすると、考えられることは・・・

「やっぱ、あれかなぁ」

奈々は、そう言って空を見て

(友達を、大事にしてるつもりなんだけどなぁ・・・)

心の中で、彩音を信じ切れていない自分にため息をついた。


そして、奈々達は情報収集に走った。

晶は空手部の仲間に、楓は弓道部員に聞いて回り奈々は、校内を巡回していた。

「それらしいの、いないかなぁ」

奈々は、不良を探していた。

見かけないといっても、必ず人目につかないとこにいると思い校庭を回っていた。暫く歩き回って、柔道場裏で話し声が聞こえ覗いてみた。

そこには、数名の男子が煙草を吸っていた。

「いたいた」

そう言って奈々は、隠れて様子を見ていた。

「最近、生徒会が厳しいからおちおち煙草も吸えねぇよ」

「まじ、そうだな」

不良達数名は、囲んで煙草を吸いながら話していた。

「以前は、こんなの普通だったのによ」

「ほんと、雅臣まさおみさんがいたときは、校内でも吸えてたのになぁ」

「なんで、俺らこそこそ吸わなきゃいけねぇのかねぇ」

不良の言葉に、奈々は

「未成年だからでしょ」

小声で、突っ込んだあと

(雅臣ってだろだろ?)

不良達が、言う名前が気になった。

暫くして、風紀委員が現れた。

「おまえら、そこでなにをしてる」

「げっ」

「まずい、逃げろ」

不良達が、逃げようとした時風紀委員は結界を張った。

「むっ」

奈々は、その場でシードを出して結界を張ろうとしたが

「・・・・張り方覚えてなかった」

結界は、いつも楓に任せていたため覚えていなかった。

「んーとんーと」

慌てて、脳内で調べて。

「こうかっ」

奈々は、結界を張った。

ちらっと、覗いたときには不良達は全員倒されていた。

「煙草とは、校則違反だな」

風紀委員は、煙草を没収していた。

「停学に、ならないだけましと思え。と言っても、一週間は寝込んでもらうがな」

そうして結界を解いて、風紀委員は立ち去った。

「なるほどねぇ」

奈々も、結界を解いて不良良達は放置してその場を去った。

その後、三人は合流して互いに情報を報告した。

「どうだった?」

「色々ありましたね」

「こっちも、色々」

晶が、得た情報は空手部で前回の襲撃の出来事は、一度あったらしいがその時は、数名であった。下級生を、占めるという目的だったが生徒会が察知して、行動を起こす前にその数名が倒されたことがあった。生徒会では、指導というより粛清と言っているらしい。

楓の情報は、以前部活でラブレターを書いた女子生徒がいて、部員がそれを見つけみんなの前で読んだあと冷やかして笑ったらしい。そのせいで、書いた女子生徒はひどく傷つき数日休んだ。そのあと、生徒会がそれを聞き読んだもの冷やかしたもの笑ったもの全員を粛清した。粛清された生徒は、一週間以上学校に出てこれなかったらしい。

他にも、色々事例はあったが

「あくまで、聞いた話なので確証というのもどうかと」

「噂も、絡んでくるから話が肥大してるとも取れるな」

晶と楓も、信じられなくしていたが

「それは、本当と思う」

奈々は、言った。

「私の情報は、不良が煙草吸っていた現場に風紀委員が現れ、結界を張って全員粛清したのを、この目でみた・・・・・倒れてたあとだけど」

奈々は、事後だけを見ていたのでそのように答えた。

「やっぱ、シードを使ってるのか」

「指導ではなく、粛清というのもわかりますね」

「実力行使にしても、問答無用というのは強引だな」

「これが、今の秩序で強引なやり方という意味だね」

「あとは、彩音さんですが・・・」

楓が、そう言ったとき

「その件は、あと一つ聞いとくとこがあるので、そのあとでいいかな」

晶は、楓の言葉を止めて二人に言った。

「まあいいけど」

「よろしいですよ」

二人は、晶の意見に賛同した。

そうして、三人はそのまま二時間意見を合わせていった。

翌日

「さて、どうしましょうかねぇ」

奈々と楓は、晶を待っていた。

「待つしかないでしょう」

楓は、いつも通りニコニコしていた。

そうしているうちに晶が、二人の元に来た。

「解決した?」

奈々は、聞いた。

「ああ」

晶は、一言だけ言った。

「そんじゃまあ、はじめましょうか」

いつのまにか奈々の周りには、生徒会が囲んでいた。

そして三人は、シードを構え

「変身!」

同時に、光に包まれそのまま結界を張った時

「今度こそ、決着をつけてやる」

そう言って磯部姉妹が、正面から現れた。

「毎度毎度、ご苦労さんだねぇ」

奈々は、淡々と答えた。

「毎度毎度、生意気だなてめぇは」

理子は、そう言って銃を構えた。

「まあたしかに、あんたらとは決着付ける」

「そうですね」

晶と楓は、そう言って武器を構えた。

「一度付いてると思うけど・・・まいっか」

奈々も、そう言って剣を構えた。

「とかいいつつ・・・・散開!」

そう言って三人は、ジャンプして三方向に分かれた。

「また逃げるのか!」

理恵は、三人に言ったが

「文句あるなら、ここまでおいでー」

そう言って、奈々はダッシュで逃げた。

「くそっ、こっちも三つに分けるぞ」

里奈の指示に答えるように、磯部姉妹と生徒会は三方向に分かれ追いかけた。

「彩音、聞こえる?」

晶は、走りながら通信で聞いた。

「はい、聞こえます」

彩音は、無人の教室で索敵を開いていた。

「予定どおり、分散してます」

そう言って彩音は、敵の動きを見て

「そのまま走ってください」

彩音は、三人に指示を送った。

「よっしゃ、そんじゃヒット&アウェー作戦いきますか」

奈々は、そう言って更にダッシュした。

「くそう」

追いかけていた理恵は、更に加速したが奈々はいきなり振り返った。

「んなっ」

理恵は、焦って踏ん張ったが加速している分足が滑り

「せいっ」

ズバァッ!

体勢を崩している理恵は、奈々に両断された。

「ぐあっ」

理恵の服が裂け、その場に倒れた。

「理恵!」

後ろを走っていた理沙が、叫んだ。

「へへっ」

奈々は、理沙を見て振り返りまた走り出した。

晶と楓も同じように走りながら間合いを大きく取り、振り返って敵を倒しまた走り出す戦法を取っていた。

数分後、奈々は走りを止めた。

「そろそろかな」

生徒会も、足を止めて構えた。

理沙も構えたが、十人で追いかけた数が三人に減らされていた。

「くそう」

理沙は、剣を握りしめて

「このまま、やられてたまるかーーー!!」

理沙は、一気に剣を振り上げ奈々に斬りかかったが

ズバァッ

奈々は、冷静に胴を薙ぎった。

「もう、あんたらじゃ私達の相手にならないよ」

「ちく・・・しょう」

理沙は、そう言って倒れた。

それをみた残り二人は、尻込みして逃亡した。

「彩音ちゃん、二人はどうなってる?」

奈々は、聞きながら剣を納めた。

「まだ、追われています」

「了解」

そして奈々は、二人に合流する為走った。

その様子を、屋上から如月舞と劉麗華が見ていた。

「やはり、磯部姉妹ではだめか」

如月は、険しい顔で言った。

「そんじゃ、私の出番ですかね」

麗華は、変身しており槍を出した。

「仕方あるまい、任せたぞ」

「おっけい」

そう言って麗華は、屋上から飛び降り奈々を追いかけた。

「さて、そろそろやってもらうぞ」

如月は、ちらりと隣の校舎を見た。

そのころ晶は、走っていた。

「彩音、この先に敵はいる?」

それを、聞いて彩音は

「今のとこ・・・・いません」

少し、間を置いて答えた。

「よし」

晶は、そう言って曲がったところ

「げっ」

晶は、足を止めた。

目の前に、生徒会数名と磯部理子が立っていた。

「ここは、通行止めだぜ」

理子はそう言って、銃を構えた。

「彩音、いないって・・・」

晶は、そう言って拳を構えた。

「そんな・・・たしかに・・・いなかったのに・・」

彩音は、焦りながら答えた。

「覚悟しな」

そう言って理子は、トリガーを引こうとした瞬間

「そいやーー」

ドガーーーン!!

理子の背後で数名が、吹っ飛んだ。

「何っ」

理子が振り返ると、奈々が背後から現れた。

「御影ぇ!」

「はあっ」

カキーーン

奈々は、理子の銃を剣で払った。

その瞬間に、晶は間合いを一気に詰めた。

「しまっ」

「この間、やられた借りを返してもらうよ」

ズドンッ!

そう言って晶は、拳を理子の腹に突き抜いた。

「ぐはっ」

理子は、くの字になりそのまま吹っ飛ばされ、壁に激突しそのまま前のめりに倒れた。

「走るよ、晶ちゃん」

奈々は、そう言って走り出した。

晶も、それに合わせ走った。

「どうする?」

「とりあえず、楓ちゃんと合流しよう」

そう言って、二人は楓との合流を目指した。

「ふう」

楓は、追いかけていた理沙と生徒会数名を全員倒して一息ついていた。

「楓ちゃん」

奈々達は、楓と合流した。

「そちらも、終わりましたか?」

「いや、まだだ」

「振り切っただけだから、まだ完全には終わってないね」

奈々達が、話していたとき

「その通り」

横から、声が聞こえた。

3人が振り向くと、そこには劉麗華が立っていた。

「やっぱきたか」

奈々は、当然のように答えた。

「さあ、はじめようか」

そう言って麗華は、槍を構えたが

「断る」

そう言って三人は、走り出した。

「またかよ、同じ手は通じないぜ」

そう言って麗華は、追いかけず

「おまえら、追い詰めろ」

他の生徒会を、動かした。

奈々達は、暫く走って立ち止まった

「追ってこないな」

奈々は、周りを見回した

「彩音、状況は?」

晶が、聞いた。

「今、そちらに10人ほど来てます」

彩音のレーダーには、挟むように動いていた。

「わかった」

晶は、そう言って

「んじゃ、はじめますか」

「・・・・ほんとに?」

「・・・ああ」

「・・・私が、やってもいいんだよ」

奈々は、再確認して聞いたが

「・・・いや、任せて欲しい」

晶は、意を決した顔で答えた。

「わかった」

奈々は、晶を見て答えた。

「彩音ちゃん、向こうはどっちからきてる?」

奈々は、彩音に聞いた。

「・・・右からです」

彩音は答えたが、レーダーには左右から来ていた。

そして、三人がいるポイントへ徐々に生徒会が迫ってきて

「接触します」

彩音が、言うと

「いたぞ」

生徒会メンバーの声が、聞こえた。

「二人、囲んだな」

麗華の声も、聞こえたが

「・・・え?二人?」

彩音が、驚いた。

レーダーには、三人がいるように表示されていた。

「そんな・・・レーダーには、確かに三人まとまっているはず」

彩音が、困惑していたとき

「やっぱり、そういうことか」

後ろから、声が聞こえた。

彩音が振り返ると、そこには晶が立っていた。

「え?・・・・何故そこに?」

彩音は、いるはずのない晶を見て驚愕した。

しかし、晶の服装を見て気づく

「あっ・・・制服・・」

「そういうこと、あそこにいるのは奈々と楓だけで、私のシードを預けてここに来たわけ」

「でも、なんで・・」

「彩音が、生徒会側に属してるからその確認と言えばわかるよね」

「そんな、私が生徒会側なんて・・・何故そういうことが」

「色々あるけど・・・なんで、彩音は私たちがエンジェルシードを持っているのを知ってたのかな?」

「!?」

「私達は、内緒にしてたはずなんだけどね」

「そ、それは・・・」

彩音は、しどろもどろに言葉を詰まらせていた。

「拾ったとしても、私達が持ってる前提で話をしていた。それに、彩音は図書委員末端でもあるのに何故、私達が持っていると知っているわけ?」

「そ、それは、図書委員長から・・・」

「その図書委員長に、エンジェルシードを見せた。答えは『なんですかその石?』だったよ。もちろん、シードの共鳴もなかった。つまり、図書委員はこのことを知らない」

「ああぁぁ」

「実際は、図書委員長でなく本当は、生徒会上層部の誰かに聞いたということになるね」

「・・・・」

「まあいろいろ付け加えで言ったけど、最初の行動で察しはついてたんだよ」

「・・・・」

晶の言葉に、彩音は俯き何も言わなくなった。

「最初は、驚いて喜んだけど・・・しばらくしてから疑い始めたのが事実だけど・・・・奈々も、同様に疑ったけど・・・・そうじゃないと、信じたかった。でも、今のが極め付けだね。片方から来ると言ってたけど、実際は両方から来てた。私達を、指示しながら向こうにそのまま傍受させていたということになるかな」

「・・・・・」

彩音は、俯いたままだった。

「彩音」

晶は、一歩前に進もうとした時

「来ないで!」

彩音が、両手で銃を構えた。

「そうよ、・・・・私は、生徒会からシードを渡され晶ちゃんたちのシードを、回収できるように説得を頼まれた。・・・・でも、実際はできなかった。だから、・・・こういう手段で、無力化させて回収しようと思った。・・・・これが、事実よ!」

彩音は、銃を構えながら言ったが手が震えていた。

「そうか」

晶は、一言言って更に歩を進めた。

「う、・・・撃つよ!」

彩音は、晶に叫んだ。

「撃つなら、撃てばいい」

そう言って晶は、更に前に進む。

「どうして・・・なんで、来るの!」

「信じているから」

そして、晶は銃口の前1mに立った。

「友達だから」

「ううっ」

彩音は、銃口を震わせ躊躇していた。

「彩音・・・私はあなたを友達と思っている。撃たれるならそれでもいい」

「なんで・・・なんでそこまで言えるの!」

「彩音が、好きだから」

「っっっ・・・」

「ただ、それだけだよ」

晶は、にっと笑って答えた。

「わたしは・・・・」

銃を構える手が、更に震えながら下を向き

「私は・・・・・私は・・・・・」

そう言って、顔を上げたとき大粒の涙を流しながら

「私は・・・・あなたを・・・・・撃てない」

そう言ってから彩音は、銃を静かに下ろした。

「彩音・・・」

晶は、歩み寄ろうとした瞬間、彩音の背後から人影が現れた。

「やはり、そうなるか。優」

そう言ったあと、彩音の肩を掴み

「!?」

晶は、はっとして彩音を守ろうとしたが

ドシュッ!

彩音の背中から、何かを突き刺した。

「あ・・・・かはっ・・・・」

彩音は、背中が反り顔を上げて息を詰まらせた。胸には、刀が突き出ていた。

「エンジェルシードは、返してもらう」

バシュッ

そう言って、刀を引き抜た。

彩音は、力なく前に倒れながら変身が解けていった。

「彩音っ!!」

晶は、素早く倒れかかった彩音を受け止めた。

「彩音!彩音っ!!」

晶の呼びかけに、彩音は小さな声で

「ごめん・・・なさい・・・ごめ・・・な・・・・さ・・」

彩音は、涙を流しながら気を失った。

「なんでだよ・・・・なんで彩音をやった!」


目の前にいた人影は、東郷静香であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る