エピローグ 終幕はつぎの旅立ちへ……
終幕はつぎの旅立ちへ……(1)
――
「師よ、これは?」
弟子と思しき男が、隣の年齢不詳の男に問いかける。
「見ての通り、
「一体、誰の……」
「誤った手続きで次元の先に手を伸ばそうとした者……その成れの果てであろう」
「次元の先……もしや、魔族の召喚……」
「魔族――遥か高位次元の先に潜む
「師よ、喰われたと申されましたが、一体どこを喰われたというのでしょうか?」
弟子が訝しげに問うのも無理もない。
その骸には、外傷が何一つ残っていなかった。
ただ干からびて、そこに座しているだけ。
しかし――
「ここだよ」と、師は自らの額を二回人差し指で叩く。
「脳……ですか? しかし、頭には傷どころか血の跡すら残ってはいないようですが……」
「頭を喰うのに物理的に脳を破壊させる必要性は無いよ。ただ、思考力を奪ってしまえば良い」
「そのようなことが可能なのですか?」
「アレはそういう存在だよ、三次元空間の肉体に依存する我々とは根本的に異なる。そう、君は『死』の定義について考えたことはあるか?」
「死……ですか?」
「うむ、例えば植物は土に根を張り、水と太陽と二酸化炭素を得ることによって体内で酸素を生成し、それを空気中に吐き出して循環させることで命を紡いでいる。それは植物がこの地上の一部である証拠だろう」
「なるほど、つまり植物にとっての『死』とは、その循環が途絶えた時という事ですか」
「左様」と満足そうに肯いてから、師は続ける。
「では、動物の場合はどうか。彼らは骨や筋肉を持ち、それらを動かすために心臓が血液を循環させ、脳が神経を伝って信号を送る自律して動く生き物だ。したがって、致死量の出血によって動けなくなった時が彼らにとっての『死』となる」
「確かにそう考えると、彼らは我々人間と差ほど変わらないのかもしれませんね」
「うむ、強いて挙げるなら言語を持たない事くらいだろう。だが知っての通り、たったそれだけの違いで我々は文明を生み出し、社会を築き上げた。即ち、言語を操れる発達した思考力が人間を人間足らしめている要因だと言えるだろう。ならば、人にとっての『死』とは何か。君には、それが解るかね?」
問われてから、弟子は口に手をやりながらしばし考える。そして、次の答えをひねり出した。
「脳機能の停止……心臓を停止させても、結果として脳に血が廻らず脳はその機能を停止させる……それじゃ、この
「そう、人間としての自我を形成するための根幹たる情報、記憶、血液のもたらす思考の方向性、それらを統合した人格――彼は魔族によってそれを瞬時に奪われた――つまり、脳機能を強制的に停止させられたのだよ。まるで呪詛や催眠による暗示にでもかけられたような手法でね。まさに魂を喰われたとでも言うべきかな?」
師と呼ばれた男は、まるで難解なパズルを解いたかのような声音でその不吉な
それから
ただ、心臓の
夕暮れと共に、決して記録されることのない一つの戦いが静かに幕を閉じた。
「さて、コイツはどうするか……」
割れた仮面を拾い集めながら、サシムがつぶやいた。
「これが例の
破片を抱えながら溜息を吐く。
「おっちゃん、さっきここに来る途中こんなの拾ったんだけど。こいつの仮面と同じもんじゃないかな?」
そう言って、ルーシアがズボンのポケットから取り出したのは無造作に折りたたまれた一枚の紙きれ。それを広げると、
「な、こいつは……まさか!?」
それは、仮面姿の人物の
同じ頃、遠い大陸の中央にある学術の都では、宵の闇を白き月明りが静かに照らしていた。
「あら、そんなところで
金糸のような長い髪を腰まで
少年は、少し癖のある
「やあ、ベルダルク博士。何、ちょっとした実験だよ。今の
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