第310話 ダンジョンガイド
島の南端にあるダンジョンはビーチから近く、蜜男がさっさと処理したがる理由がわかった。ここにいるモンスターが外に出て観光客に襲い掛かかっては、島の所有者としては大問題だ。
狼が大きく口を開けたような
「えーっと、ここでいいんだよな」
蜜男の雇ったダンジョンガイドが来てくれる手はずになっているのだが、まだ到着していないのか姿が見えない。
しばらくダンジョンの入り口で待っていると、頭に三角のネコミミを生やし、自分の体より大きなリュックを背負った
長靴猫族は
探検隊のような服装をしていることから、恐らく彼がガイドで間違いないだろう。
「ハァハァハァ、すみません。遅れましたガイドギルド【三毛猫の瞳】から派遣されましたラッキーと言いますにゃ。この度蜜男様のご依頼で皆様のガイドを務めさせていただきますにゃ」
「よろしく頼む」
ラッキーの肉球と握手すると、彼はキョロキョロと周囲を見渡し首を傾げる。
「お二人様ですかにゃ? 蜜男様からは大所帯のチャリオットと聞いていましたがにゃ?」
「後からもう二人来る。そんなに階層深くないし、ボスも弱いって聞いた」
「はい……そのはずにゃんですが……実はこのダンジョン――」
「なぜか入った冒険者が帰ってこないと。それも聞いてる」
「そうですか……では話が早いですにゃ。少人数で入るのはとても危険かと思いますにゃ」
「まぁ俺はあんまり強くないが、他の連中が強いから多分大丈夫だ」
俺はゼノを前に出すと、ふて腐れた少女は肩にかかった縦ロールを弾く。
スケルトンチーフのような雑魚に毛が生えた程度のモンスター、ゼノの敵ではないだろう。
それにプラスしてオリオンやソフィーがいるのだから、むしろ戦力過剰と言っていい。
「そうですかにゃ。ではではダンジョン攻略の前にお買い物なんていかがでしょうかにゃ? 我々ダンジョンガイドはお役立ちアイテムも売っていますにゃ」
ラッキーは大きなリュックを下ろすと、中に入った商品を広げる。薬草やランタン、ナイフにハンマー、携帯食料、発煙筒などダンジョンで使える様々なアイテムだ。
「食料はまぁ一食分もあれば十分かな。後はランタンと水薬でもありゃいいか。そういや採石用に一つ小さなハンマーが欲しいと思ってたんだよな。これ貰おうか」
「毎度ありですにゃ」
オリオンとソフィーが来るまで、俺は必要な道具やアイテムをラッキーから購入し、バッグに収納する。
「「待たせたな!」」
準備を整えていると、ようやくクラスチェンジを終えたらしい二人がやって来た。
オリオンはウィッチ帽と呼ばれる魔女がよく被ってる三角帽子に樫の杖、モスグリーンのローブ姿で、どこに出しても恥ずかしくないモブ魔導師と化していた。
それに対してソフィーは羽付きのヘッドセットに青銀のビキニアーマー、銀の装飾がついたやたらカッコイイ剣を携えていた。どうやらソフィーは戦士にクラスチェンジしたらしい。
この格好にタイトルをつけるなら”オークに酷い目にあわされる前の女勇者”という感じだ。
「お前らびっくりするくらい弱そうだな……。そんで、そっちのバニーガールはなんだ?」
オリオンとソフィー以外に、なぜかバニーガールの格好をした銀河の姿があった。
こいつはなぜそんな面白い格好をしているのか。
「暇そうなので引っ張って来ました」
「あうあう……皆様のお昼を用意している最中でした」
相変わらず可哀想な奴だ。
「それは別にいいんだが、何だその
「あの……オリオンさんたちが自分もクラスチェンジするべきだと……」
「まさかそれ……【遊び人】のクラスか?」
「いえ、【遊ばれ人】という、他者に人生を弄ばれるクラスです」
闇が深すぎるクラスだ。
「一応、この格好をしているとモンスターがアイテムやお金を落としやすくなるそうです。ただそのかわり全てのスキルや忍術が使えなくなりますが……」
「呪われてんじゃないのか、そのクラス」
「命乞いというスキルだけ使えて、自分の体をモンスターに差し出すことで命を助けてもらうことができます」
「それ命助けてもらってるけど、女の子の大切なものは奪われちゃってるよね!」
まぁいいゼノ以外全員クラスチェンジしていることが気にかかるが、とりあえず役者は揃った。
俺はラッキーに全員揃ったことを伝える。
「先に冒険者が一組入ってるんだよな?」
「ええ、にゃかにゃか腕が立つ冒険者チームらしいですので、途中合流できるかもしれませんにゃ」
ラッキーは片手にランタン、片手に使い込んだショートソードを握って、湿気を帯びた洞窟の中へと入っていく。
俺たちは彼の後に続いて、ダンジョン攻略を開始した。
◇
ダンジョンに突入してから20分ほど歩くが、天井から生えるツララみたいな鍾乳石を眺めつつ、特に危なげなく進んでいく。
蜜男の言った通り、鍾乳洞ダンジョンは観光地かな? と思うほどモンスターが現れず、このままダンジョンの最奥までたどり着いてしまうんじゃないかと思う。
「次はこっちですにゃ」
分岐を迷うことなく進んで行くラッキー。俺たちはカルガモの親子の如く後ろに続いて歩く。
「しかしガイドがいると本当に楽だ。分かれ道も案内してくれるし、道に迷うこともないな」
「そんにゃそんにゃ、ギルドで作成した地図を持っているだけですにゃ。あっ、お客さん足元気をつけて下さいにゃ」
言われて足元を見ると真っ赤なキノコが生えている。
「ボンバー茸ですにゃ。踏むと爆発して片足吹っ飛びますにゃ」
「怖すぎるだろ。天然のトラップって奴か、助かったよ」
「いえいえ~踏んだらアンラッキーですにゃ」
ラッキーは猫っぽく顔をかく仕草をすると先へと進んで行く。
こういったスカウト的な役職が一人いるだけで、ダンジョンの難易度って大きく変わるなと思う。
「とても頼りになる猫さんですね」
「そうだな」
銀河がニッコリとほほ笑む。あれ? そういやお前もカテゴリー的には
試してみるかと思い、俺は銀河にトラップのある道を通れと指示する。
忍者なら例え罠が発動しても軽く切り抜けられ――
「ひ~ん! 助けて下さい~」
銀河はあっさりとトラップを踏んで逆さ吊りになった。こいつヘックスではめちゃくちゃ強かったんだがな。どうしてこんなポンコツ化しているのか……。いや、元がポンコツであの時がおかしかったと考えるべきか。
「あのお館様、わざとこの道通しませんでしたか?」
「ああ、お前が忍者ならトラップを解除するか避けるかすると信頼していた。その信頼をあっさりと裏切ったお前にお仕置きをしてやる」
「あ、ありがとうございます!」
「何を悦んでいる! お前はしばらくそのままだ!」
「そ、そんなお館様!」
実はこいつ遊ばれ人クラスにぴったりなんじゃないか?
銀河をトラップから解放し、迷路のように入り組んだダンジョンを更に進む。するとラッキーの足が分岐路前で止まった。
「んっと、一応ここまでが僕の案内できる限界ですにゃ」
「そうなのか? 全然モンスターとか出て来てないけど」
「はい。一応
「そうなんだ」
まぁ最後まで案内されたら、何のために俺達がいるのかわかんないもんな。
「ありがとう。気をつけて戻ってくれ」
「いえいえ。それではこの道を左側に進んでもらえば先に進めます。モンスターもこの辺りから現れると思いますので、お気をつけくださいにゃ。皆様にラッキーのあらんことを」
「ありがとう」
親切なガイドは俺たちの幸運を祈って元来た道を戻っていく。
「凄く頼りになるガイドさんでしたね」
「ああ、全くだ」
俺とソフィーがそう言うと、銀河は立つ瀬がない感じで肩身を狭くしていた。
「あうあう……あ、あのお館様、申し訳ありません。自分頑張りますので、どうか見捨てないでください……」
「当たり前だ。一生こき使うし、勝手に辞めることは許さん。覚悟しておけ」
ブラック王に震えるがいいと指をさして、先へと進む。
「は、はい! 覚悟してお仕えします!」
それに対して、なぜかほっと安堵した顔をして俺の後ろに続く銀河。
「咲は的確に相手の欲しがる飴を投げるよね」
「そうですか? わたしにはただのクズ発言にしか聞こえませんでしたが」
後ろでオリオンとソフィーが何か言っているが俺の耳には聞こえなかった。
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