第309話 クラスチェンジ
「まぁまぁ金があるおかげで、今は充実してるぜ。昔は俺が近づくだけで女は逃げ出していったが……」
闇金業者みたいな蜜男はパチンと指を鳴らすと、ビキニ姿の女性が近づいてくる。
おもむろに奴は女性の腰を抱き寄せた。
「こんなこともできるようになった。金って最高だな」
「お、おう……せやな」
蜜男は女性のビキニに金貨をねじ込み、ブサイクな笑みを浮かべる。
成金社長みたいになってやがるな。
「まぁ梶、お前のチャリオットも美人ぞろいだが、やっぱ世の中金だぜ。どんなブサイクだろうと金さえあれば食物連鎖の頂点に立てる。俺は女は弱く、男に媚びながら生きるべきだと本気で思っている」
こいつただのクズだと思ってたが
「だから、こうして男が体を求めた時はすぐに……ん?」
そう言いかけて蜜男は俺の隣にいるクリスに目を止める。
「お前、そんな仲間いたっけ? お前の性格からしてイケメンを護衛に使うなんてありえないだろ」
「よくわかってんな。こいつはイケメンに見えるが実は女だ」
俺はクリスのパーカーのジッパーを開く。すると三角ビキニに包まれたたわわな胸が露わになった。
「…………」
「どうした?」
「なんでもない」
俺はクリスの胸をたぷたぷさせてからジッパーを閉じた。
すると蜜男は両手を突き出して前かがみになる。
「どうした?」
「勃った」
もうお願いだから死んでくれよ。
頼むからトラックに轢かれてどこか遠い世界に転生してよ。
「お前、金は?」
「金?」
「いや、今胸触ったんだから、お金払わないといけないだろ?」
俺とクリスは顔を見合わせる。
「無料だが?」
「そういうお店じゃないからね」
「お前はタダで乳を揉み放題だってことなのか?」
「というかお金払って触らせてもらう方がおかし――」
「はぁっ!? 基本料無料ってことかよ!?」
なんだその携帯会社のキャッチフレーズみたいなのは。
「イケメンのお姉さん、俺があなたの胸を触ろうとしたら、おいくら払えばいいですか?」
「一億払われても嫌かな」
クリスはアハハと爽やかな笑みとともに蜜男を打ち砕いた。
「いいんだ、俺には金がある。極上の女が手に入らなくとも上級の女は手に入る」
「びっくりするくらい失礼なこと言ってるなお前」
「あぁあ、お前の悔しがる顔が見たくてここに呼んだのに興がそがれちゃった。まぁ適当にゆっくりしてけよ」
「お前は本当にクズなのか良い奴なのかよくわからんな」
一応の挨拶を終えてクリスが先にログハウスを出ると、俺は蜜男に呼び止められた。
「ああそうだ。言い忘れてた、梶に頼みがあるんだ」
「なんだ?」
「この島の南に小さなダンジョンがあるんだ。そこにうぜぇモンスターがいるんだよ。それ倒してくんねぇ?」
「なんで俺が」
蜜男は硬貨が入った革袋を俺に放り投げた。
中から金貨がジャラッと零れ出る。
「依頼料の前金、ダンジョンで拾ったもんは全部やる」
「やります」
金の魔力とは恐ろしいものである。
「ダンジョンボス自体大して強くねぇはずなんだけど、雇った冒険者のきなみぶっ殺されちゃってんの」
「ボスモンスターってのは?」
「スケルトンチーフ」
スケルトンチーフとは、呪いによって動く人骨モンスタースケルトンの上位種だ。
上位種と言ってもスケルトン自体大して強くないので、狡猾で頭が回る分ゴブリンの方が手強いくらいだ。
強いて強い点をあげるなら人の死体を使ってスケルトンを生成するくらいだが、墓地でもない限りそれもそこまで脅威にはならない。
「確かに妙だな。ダンジョンのトラップで死んでるとかは?」
「
「よくわからんな。もしかしたら強いモンスターが沸いてる可能性があるんじゃないか?」
「ないない、占術師を雇ってダンジョンを探ってもらったけど、やっぱスケルトンチーフ以上の魔力をもったモンスターはいねぇって。ダンジョンガイドまでつけてるのによぉ」
ダンジョンガイドとは、ダンジョンの構造を熟知した案内役でお金と引き換えにダンジョン内部を案内してくれる。
トラップを解除してくれたり地図を作成してくれたりと、戦闘はしないがとても頼りになるサポートだ。普通はお金持ちしか雇えないので、滅多に見ることはないのだが、たまに依頼人がつけてくれる時がある。
どうやら今回は蜜男がダンジョンガイドをつけてくれるらしい。
「わかった、とりあえず見てくる」
「お前の他にもう一チーム冒険者パーティー雇ってるから、ダンジョン内で出会ったら連携してくれ」
「おう」
俺は蜜男のログハウスを後にして皆がいる砂浜へと出る。
さてビーチで楽しみたいところだが、蜜男の言ってた話をさっさと片付けてしまおう。
何事も後回し、時間が解決してくれるが俺のモットーだが、恐らく遊んでからだと余計面倒になるのは目に見えている。
「初級ダンジョンねぇ。誰連れて行くかな」
全員でぞろぞろ行くのもなんだしな。普通初級ダンジョンなんて2人くらいで行くのだが、今回は曰く付きなので3、4人連れて行くか。
そんなことを考えている俺の前に、アイスバーを咥えたオリオンがやってきた。
「ねぇ咲、何クラゲみたいな顔してんの?」
「お前はクラゲの顔がどこかわかるのか……。なんだ、皆と遊んでなかったのか?」
「遊んでたけど、お小遣いなくなったからせびりに来た」
「お前はお小遣いをあっさり食料にかえすぎだ」
「そんで、どうしたの?」
「仕事の依頼だ。この島にダンジョンがあって、そこのボスを倒してくると破格の報酬が貰えるんだ」
そう言うとなぜかオリオンの目の色が変わる。
「初級ダンジョン!?」
「そんな驚くことじゃないんだろ」
「それあたしも行く!」
「えぇ……なんでサボり魔のお前がそんなやる気だしてんの?」
「あのねクラスチェンジって知ってる?」
「クラスチェンジってあれだろ? 職業変更」
戦士クラスのオリオンが別の職、例えば
「そう、転職したい! 魔法使いたい!」
「お前、以前勇者に偽の石板を渡すバイトしかできないって言われてなかったっけ?」
「咲よく覚えてるな」
昔冒険者養成学園に潜入した時、毒舌な転職案内にお前にできるのはそれくらいしかないと言われていたのだ。
所詮インチキ学校の転職案内なので、多分デタラメだと思うが。
「なんでそんな急に転職したがってるんだ?」
「だってさ、咲魔法使えるじゃん」
「お前魔法使えるって言ったって、チャッカマンくらいの火が出せるのと、扇風機よりちょっと強い風出せるのと、マッサージに使えそうな電気出せるくらいだからな」
自分で言ってなんだが、戦闘には全く役に立たないが十徳ナイフみたいな利便性はあるな。
「フラッシュムーブとかいう転移魔法あるじゃん」
「あれな、実は距離で消費魔力がかわるんだよ。しかもちゃんと転送ポイントをスマホに登録しないと一度行った場所でも飛べない欠陥魔法だ」
「えっ、じゃあ前に行った砂漠とかに一気にジャンプとかできないの?」
「遠すぎて俺の最大魔力を軽く超えてるから無理だ。しかも
「はぁ~つっかえねぇな」
「俺もそう思う」
「でも、あたしも手から火とか出したい! 初級ダンジョンで魔法教えてよ! 上級職の剣士って大体魔法使えるんだよ!」
「まぁ確かにそう言った魔剣士的な奴は多いが、教えてくれと言われてもな」
しかし、そんなに魔法を覚えたいと言うのなら誰か魔法が得意な奴を連れていって、オリオンに教えさせよう。
俺は砂浜で楽しそうにドンフライ割りをしていたソフィーを捕まえる。
※ドンフライ割り――ドンフライをスイカに見立てて行われるスイカ割りと全く同じ海の遊びの一つ。
「離して! 離して下さい! わたしこれからスイカ食べて焼きそば食べてイカ焼き食べて焼きトウモロコシ食べなきゃいけないんです!」
「食ってばっかりだなお前。とりあえず回復魔法はこいつでいいや。攻撃魔法はアホの忍者か、それともツンデレ魔術師か」
どうしようかと考えていると、砂浜に突き刺されたビーチパラソルの下でポツンと膝を抱えている水着姿のゼノが見えた。
ヘックスではタナトスを駆って大活躍を見せたのに、未だ輪の中に入り込めずにいるようだ。
入り込めないというより、皆気を使って遊びに誘っているがゼノの方が全部拒否している。
「
ツノが直り本来の力を取り戻したゼノなら、なんかすげぇ魔法も使えるだろう。
「オリオンあいつさらってこい」
「がってん」
しばらくしてゼノの「いやぁぁぁぁ!」という叫びが砂浜に響き、彼女はオリオンの肩に担がれて俺のもとにやって来た。
ブルーの水着に爆乳を押し込んだゼノはぷんすかと怒っている。しかし体が小さいので微笑ましく感じる。
「よぉゼノ、ダンジョン行こうぜ」
「よぉじゃありませんわ! いきなり人さらいみたいなことしないで下さる!?」
「ゼノ嬉しそうだね」
「怒ってるの! わかるわかります!? この感情!」
「よし、これでパーティー揃ったし行くか」
喜ぶゼノを無視して俺たちは話を進める。
「咲、ちょっと待ってあたし準備したい。やっぱり魔法使いには魔法使いの格好があると思う」
「ほぅ、その意見には賛同だ。俺もビキニ姿の魔法使いというのはいささかおかしいと思っていた」
俺はチラリと砂浜にいるフレイアを見やると、深紅のビキニを纏ったツインテは「何見てんのよ、目潰すわよ」と言いたげにこちらを睨む。
「あいつなんか機嫌悪いな」
「咲がちゃんとフレイアの水着褒めないからだよ」
「王様の為に水着新調したって言ってましたよ」
「あいつ俺のこと好きすぎだろ」
彼女が髪切ったことに気づかなくてキレられている気分である。
後で褒めるついでに乳揉んでおこう。
俺はゼノとソフィーにこれからいわくつき初級ダンジョンに行くから、ついでにオリオンに魔法を教えてやってくれと伝える。
「はいはい! オリオンさんがクラスチェンジするならわたしもしたいです!」
「そりゃ別に構わんが」
「じゃあわたしも着替えてきますね!」
「島の南側にある鍾乳洞がダンジョンらしいから、その前で待ってるからな」
「「はーい」」
オリオンとソフィーはクラスチェンジする為に一度宿へと戻る。
あいつらクラスチェンジ用の着替えなんか持ってきてたんだな……。
用意の良い奴らだと思いながら、俺はディーにオリオンたちと初級ダンジョン行ってくると告げる。
ディーは俺の隣にいるゼノを見て小さく頷く。
「ええ、お気をつけて。お話でもしてきてください」
副音声にゼノを仲間に入れてあげてくださいと言って、俺を送り出した。
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ガチャ姫の書籍特典なのですが、ゲーマーズ様でSSペーパーなるものがつきます。
なのでゲーマーズ様をよろしくお願いします。
と、言っておきながらなのですが……すみません、ゲーマーズオンラインショップさん品切れになってるそうです。
まさか予約段階で品切れになるとは……。
買ってくれた人ありがとうございます。買えなかった人ごめんなさい。
在庫切れのまま発売までいかないと思うので、特典欲しい方はもうちょっと待ってください。
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