第297話 プリズンブレイクⅥ

「フハハハハハハ、トライデント? 無名の王風情が今更ボロボロのウォールナイツを引き入れたところで恐れるに足らん。それになんだ、そのアホそうなニワトリや風呂敷を被った獣は? 笑わせてくれる。まとめて殺してしまえ」


 デブルがだらしない腹を揺らしながら命令を下すと、同時に奴の両隣にいた看守に青龍刀が突き刺さる。

 看守は膝から崩れ落ちると、飛び散った鮮血に一瞬誰もが呆気にとられる。


「なっ? えっ?」


 青龍刀を投擲したレイランは、闇を滑るように走り次から次に看守を打ち倒していく。

 たった一人の少女にバッタバッタと倒れていく看守を見て、デブルは顔を青ざめさせていく。


「な、何をしている! 早くその女を取り押さえろ!」

「もう遅いネ」


 レイランはデブルの懐に入ると、その顔面をアイアンクローで掴み、凄まじい勢いで投げ飛ばした。


「ぬるっとした。油キモイネ」


 相変わらず身体能力が半端ではない。あれで斬られようが刺されようがダメージがないアンデッドの能力は反則だと思う。

 吹っ飛んだデブルに向かって、ボーボーと燃え盛るニワトリが列を成して行進していく。

 その数10羽。ドンフライを先頭としたニワトリの行列を、看守たちは困惑した表情で見やる。


「コッコッコッコッコッ」

「な、なんだこのニワトリは?」


 先頭のドンフライがデブルの顔に飛びかかり、クチバシ攻撃を仕掛ける。

 

「誰がアホそうなニワトリであるか、我輩のデッドリースラストをくらうであーる! てーいてーい!」


 キツツキみたいに鋭いクチバシで突くと、デブルの顔に小さな切り傷がたくさんできる。

 名前のわりにあまりにもしょぼすぎる技、それがデッドリースラスト。

 しかし顔面から離れず、ずっと連続突きをしてくるのでウザさは半端じゃない。


「は、離れろ! 誰かこいつをなんとかしろ!」

「ニワトリを笑うものはニワトリに泣く。その濁ったビー玉みたいな目玉くりぬいてやるであーる!」

「ちょっとコケコッコー離れないと死ぬわよ」


 フレイアがパチンと指を弾くと、燃え盛るニワトリがデブルの足元で次々に爆発する。

 チュドドドドンと爆発音が耳に響き、衝撃波がこちらにまで伝わって来る。

 歩くニワトリ型爆弾レッドホットチキンの威力は凄まじく、爆風でドンフライが吹っ飛んでいったが気にしてはいけない。


「う、お゛おおおおおおお!!」


 爆炎に飲まれ、服を焦がしながらも命からがら走って逃げるデブル。


「まままま待て! 貴様ら、こいつらがどうなってもいいのか!?」


 デブルが指さす先を見ると、アーマーナイツが今にも拘束された囚人たちに巨大な剣を振り下ろそうとしていた。


「こいつらを殺されたくなければ大人しく武装を解除しろ!」


 その光景を見て、良識のあるディーたちは剣を下ろしかける。


「そうだ、それでいい。大人しく武器を捨てて――」


 しかし


「うぉぉぉぉぉやったるぞーーーー!」


 ウチのバカに武装解除なんて言葉が通じるわけがないだろう。

 オリオンは結晶剣を空に掲げ、溜めこまれたエネルギーを一気に解放する。

 剣から発せられた虹色の光は、雲を割り、天を突くかの勢いでそびえ立つ。


「これ久しぶりに見たな」

「ねぇ咲、やってもいい?」

「その態勢でダメって言って、引っ込められるのか?」

「無理」

「ならしょうがない、やっちまえ」

「よしゃあああああ! いくぞぉぉぉ! 断、空、剣!!」


 オリオンが意気揚々と必殺剣の名を叫ぶ。


「貴様ら人の話を聞けぇぇぇぇ!! 人質がどうなってもいいのか!?」


 怒り心頭したデブルが叫ぶが、それを無視してオリオンは断空の剣を振り下ろす。

 天が落ちてきたような光の剣は敵のアーマーナイツを切り裂き、ヘックス領を縦に両断する。

 その圧倒的破壊力に、デブルを含めた看守たちの顔が凍り付き、腰を抜かして尻をつくものまでいた。


「な、なにをやっているの!? どんな手を使っても奴らを殺して! 相手は生身の人間なのですよ!」


 ハラミは残ったアーマーナイツに叫ぶが、どの機体もブリキの玩具みたいに動きが悪く、ゆっくりとしか前に進まない。


「どうしたと言うのです、早く行きなさい!」

「す、砂です! 砂が機体の関節に入って!」

「砂!? たかが砂で動けなくなるのですか!?」


 アーマーナイツの至る所に砂がはりついており、それが原因で動きが鈍化していたのだった。

 ハラミが振り返ると、そこには風呂敷を上げ、褐色の顔を覗かせる猫神バステト族ナハルの姿がある。


「王の資格なきものを暗黒へと連れ去るが我ら古の神。機械ですら軽く風化させる砂の力……なめないでいただきたいであります」


 ナハルの目が怪しい赤の光を灯すと、周囲の風呂敷猫たちが一斉に風呂敷を脱ぎ捨てる。すると全員が猫から人型の猫神へと姿を変える。

 踊り子のような妖艶な衣装を纏う猫神たちは、一斉に術式を詠唱すると周囲に黒い砂が吹き荒れる


「サンドストームディザスター!」


 ナハルが今は失われた古代呪術を発動させると、黒い砂が意志をもったように嵐を発生させる。

 黒い砂を浴びたアーマーナイツが次々に錆びつき、ギチギチと不快な金属音をたて鉄のガラクタと化していく。


「なんなのこいつらは!?」

「イ、イングリッド様! お、お助け下さい!」

「乗れ」

「は、はい!」


 デブルとハラミは大慌てで戦車へと乗り込む。

 イングリッドさんはインカムのようなものを耳につけると迅速に指示を飛ばす。


「各機戦闘フォーメーション展開。紅の鉄鬼は左翼、バエルのヴィンセントは右翼に出ろ。古代呪術を使う女神がいる。神性装甲ディヴァインアーマー、防塵装置のついていない機体は前に出るな」

『イングリッド様、先ほどの光の剣、使用者を押さえますか?』

「エネルギー放出量からみて二発目は撃てん。先に接触して陣形を崩せ。フォートレスは搭載アーマーナイツ出撃後、市街地地区まで後退、支援砲撃に移る。全機相手の戦力を見誤るな」

『『了解!』』


 イングリッドさんの指示により、真っ赤な鬼のようなアーマーナイツとヴィンセントが武器を構えて前へと出る。


『マジかよ、人間相手にイングリッド様本気じゃねぇか』

『猿とはいえど、引っ掻かれたらただではすまん。気を抜くな』


 前に出る紅機、バエル機は今までのヘックス所属の雑魚たちとは威圧感が全然違う。

 巨大な野太刀を担いだ紅の機体が先行してズンズンと前に出てくる。それに対してこちらは銀河が前に出た。


『オイオイなんだお前? メイドに用はねぇぞ』

「そちらになくとも、我が主を傷つけようとするものを許すことはできません」

『はは、抜かすじゃねぇか。チビ人間、俺様の前に出るなら喰っちまう――』


 紅が言い切る前に、俺の目の前から銀河の姿が消える。


「自己紹介が遅れて申し訳ありません。自分はトライデント御庭番が一人、西園寺銀河と申します」


 彼女は8メートル近くあるアーマーナイツの顔の前に姿を現すと、空中で優雅で丁寧な礼をする。

 その直後、メイドスカートの下から三つの爆弾がポロリと零れ落ちた。


『なっ!?』


 爆弾は一瞬遅れて爆発すると、鉄鬼の頭部で色とりどりの爆炎を上げる。

 銀河は何事もなかったかのように俺の隣に戻って来ると、再び礼をした。

 

「超忍術宇宙花火アンドロメダでございます」


 お、おぉ……銀河、お前バトルマンガみたいになってるじゃねぇか。

 ウチの連中、実はもしかしてかなり強いのでは? そんなバカな、あんなちゃらんぽらんな連中が……。

 俺の隣にいるオリオンとソフィーがどや顔で言う。


「咲、あたしたちはやらないだけでやればできる子なんだよ」

「ええ、ですので遠慮なく褒めていただいて構いません。能ある鷹は爪を隠すという奴です」

「隠しすぎて爪あることすら忘れてる奴がよく言うな」


 鉄鬼を撃破したのかと思われたが、爆弾の煙がまだ消えない中、紅の笑い声が響く。


『ハッハッハッハッ! おもしれぇ、敵にだけ名乗らせて自分が名乗らないわけにはいかねぇな。俺様は魔軍鉄鬼隊の頭、紅だ! メイド、テメェは鬼退治に来た勇者か英雄ってところか!』

「いえ、英雄などではありません。ただのメイドですので」

『人間、こいつがお前の切り札って奴か!』

「こいつはまだマシな部類だ。もっとやばいのが何人もいる」


 やばい奴と言われて、レイランとエーリカがお前のことだぞとお互いを指さし合っていた。


『はぁっ!? ……ククククク、いいねぇ。お嬢の目は節穴じゃなかったってことだな』


 なんでこの人喜んでんだ。


「お館様、あのお方変態です」

「お前には負けると思うがな」

「恐縮です」


 こいつには後で恐縮の意味を辞書で引かせよう。

 銀河がクナイを構えた直後、フォートレスの後部コンテナが開きツノ付きのアーマーナイツが10機追加で現れる。

 紅の乗っている機体とほぼ同型機と思われるが、頭のツノが一本しかない。

 鋼鉄の鬼たちは、それぞれ巨大な金棒や火縄銃みたいなライフルをその手に持ち、ズシンズシンと音をたててやって来る。


『ははっ、すまねぇな! こいつらは俺様の部下鉄鬼隊だ。メイド、テメェとやり合うのに手出しはさせねぇ』


 紅機は野太刀で銀河を指す。

 あくまで銀河とは一対一でやり合いたいらしいが、じゃああの増援は誰が相手にするんだ。

 そう思った時、燃え盛る収容棟の屋上から深紅の槍が投擲される。

 弾丸のような槍は鉄鬼隊の一機に突き刺さると、槍が爆発し機体が後ろに倒れていく。


『なんだ!?』


 紅が夜空を見上げると、バニーガール衣装の兎たちが炎の上がる収容棟や、作業場の屋根に着地し地上を見下ろしていた。


「……盛り上がってるね」

「お姉さんたちはこの赤いのを相手にしましょうか」

「……うん」


 サクヤとカリン、銀色兎と黄金兎が長い髪をなびかせ、不敵な笑みを浮かべる。


『お前ら、確か北方の三日月兎……なんでこんなところにいやがる』


 紅は彼女達のことを知っているのか、警戒から声音を下げる。


「あら、それ大分前の話よ? 今はそこにいる王君の下で情婦やってるわ」

「……ジョーフ」


 しれっと嘘言うのやめてもらっていいですか。


『いいねぇ、大物がかかる夜ってのは得てして次から次にすげぇもんがやってくるってなもんだ』

「お姉さんたちは全然嬉しくないわ。鬼を退治するのは兎の役目じゃないわよ」

「……兎の相手はのろまなカメ」


 サクヤはチラリとこちらを見る。

 どうやら亀とは俺のことらしい。


「いいわね、夜の兎と亀とかお姉さんワクワクしちゃう」

「亀1対兎20の大レース」


 いじめみたいになるからやめて下さい。


『鉄鬼隊、兎共の相手をしろ! あいつらを倒しゃ魔軍に拍がつくぜ! メイドお前の相手は俺様だ!』


 紅が指示を出すと、鉄鬼隊は一斉に進撃を開始する。


「それじゃあはりきって」

「……行く」

「お相手つかまつります!」


 兎とメイドは脚部に力を込め一斉に夜空を舞う。


『全機迎撃! 槍の雨が降って来んぞ!』


 機械の鬼対空駆ける兎とメイド。

 鬼退治モノとしては異色だが、今どきはこれくらい外れてる方が面白いだろう。




―――――――――――――――――――――――――――

10月末くらいにガチャ姫の書籍情報が解禁できそうです。

イラストレーターさんや発刊レーベル等です。

よろしくお願いいたします。

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