第245話 砂漠の英雄

 エピローグ


 アポピスがいなくなったマンスラータリアの街は、住民たちの手によって復興されようとしていた。

 守護神であるスフィンクスが暴れた傷跡は深いが、時が経てば修復されることだろう。

 過酷な環境に耐えてきたこの街の住民は、これくらいで音を上げたりはきっとしない。

 崩壊した黒のピラミッドに埋まってしまった財宝は墓守達によって掘り起こされ、順次白のピラミッドへと戻されいてる。

 ピラミッドが元の観光ダンジョンとして機能を取り戻す日はそう遠くはないだろう。


 ムハンを信じていた街人は、奴の屋敷に本当に金塊へとかえられた住民や冒険者たちを見つけ、ファラオをないがしろにしたことを謝罪し、二度と甘言に騙されないことを誓う。

 しかしファラオは「妾を信じぬのは構わぬ、そなたらの手によって妾が消されることも許す。しかし何かをしてくれるから誰かを信じるのではなく、己が信念を持って信仰を行え」と諭したのだった。

 その話を聞いている最中、街人はずっと頭を下げたまま申し訳ございませんと後悔を口にしていた。

 多分この街で、もうファラオを裏切る人間はでないだろうと確信する。



 そんな中、順調に修復されていく白のピラミッド、ファラオの寝室にて俺は褒美を受け取っている最中だった。


「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」


「よい、良いぞ。そなたの指が妾に触れておる」

「……お、おぅ」


 俺の指は約束通りファラオの胸へと沈んでいた。とても柔らかく、この世の極上がつまったまさしくゴッド。

 ゴッドおっぱいと呼ぶにふさわしい。この神の領域に触れている俺の指はもしやゴッドフィンガーなのではないだろうか?

 そんなバカなことを考えながらも、俺の手は震えたまま褐色の双丘に触れるだけで動かない。これは別に緊張しているとかではない。


「フハハハ、遠慮深い男じゃ。これはそなたが勝ち取った正当な報酬、好きなだけ揉みしだくがよい! そなたは妾たちを救っただけでなく、この街も救った。砂漠の英雄に妾という最高で最大の褒美を授けるのは当然であろう!」

「う、うん……」

「む? もしや妾の胸では不服か?」

「いや、そういうわけじゃ……」


 普通なら獣のように揉むさ、揉みしだくさ。おっぱいを秒間何回押せるか、指がねじ切れるまで限界に挑戦したかったさ。

 俺はじっとこちらに視線を向ける、ウチの連中を見渡した。


「なによ、早く俺の自慢の16連射を受けてみろとか言いなさいよ」


 ふんと不機嫌気に自慢のツインテールを揺らすフレイア。ファラオの天蓋つきのベッドをぐるりと取り囲むようにして、オリオンやエーリカ、銀河、クロエたちがこちらを見つめているのだ。


「こんな状況で揉めるわけないだろ!? さすがの俺も羞恥心あるわ!」

「なに、妾では足りぬと言うか? 良い、ナハル、ナハル!」


 勘違いしたファラオは手を叩いてナハルは呼ぶと、彼女は異様な光景の寝室に風呂敷を被ったメジェド様スタイルで現れた。


「お呼びでしょうか?」

「脱げ。そなたも乳房を出せ。」

「はっ!」


 ナハルは勢いよく風呂敷を脱ぎだす……ちなみに彼女の着ている目玉が書かれた風呂敷、風呂敷と呼ばれてちょっとバカにされているが、実はかなり高位の霊衣だと今になって聞かされた。

 ナハルはそんな霊衣を脱ぎ捨てると、中身はほぼ全裸であった。

 大丈夫その格好、砂漠版露出狂みたいだよ。

 褐色のおっぱいが四つに増え、これは凄いと思わず生唾を飲み込んだ。しかしそれと同時にベッドを取り囲んでいるプレッシャーが更に強くなり、部屋の酸素が若干薄くなった気がする。

 揺れる乳房に釘付けになったが、ソフィーのゴミカスを見るような目で我に返った。


「き、気持ちは嬉しいんだが……」

「隊長様、いえ、英雄様。不詳このナハル、あなた様へとこの体を委ねる覚悟はできております! ええ、実はこのナハル子宝の神でもあるのですが、実際そちらの方はからっきしであります。経験の多い英雄様にご指南いただければ、本来の務めを果たせることでしょう! さぁズイっと!」

「ズイっとじゃねーよ!」

「良いぞナハル! 貴様が女になるところを妾がしかと見届けてやる!」

「ありがとうございます!」


 戦でもするのかと言いたくなる真剣なまなざしでナハルは俺の前に寝ころんだ。

 こんな状況じゃなければルパンダイブ確定だが、そんなことした日にはせっかく生き返った命を惨たらしく散らせてしまうことだろう。

 冥界でアレスにファラオの乳揉んでたら殺されたわ、なんて言えない。魂半分渡したこと最高に後悔しそうだ。

 俺が躊躇していると、そこでようやくファラオがなぜ嫌がっているかに気づいた。


「そなた……もしや恥ずかしいのか?」

「今頃!? ベッドぐるっと他の女の子に取り囲まれて、後でボコボコにされるのわかってるのに、もぎたておっぱいのジャングルだぜ! なんて言えないぞ!?」

「アッハッハッハッハ! 本当に愉快よのぉ」

「何にも面白くねぇよ! てか、なんでこいつらここに呼んだんだよ!?」


 じっと見られてたら、ちっともエロい気分にならん。

 ナハルの風呂敷猫たちも足元に現れて玩具のラッパをプップクプーと吹き鳴らしている。

 ダメだ、みんな好き放題で完全に場が荒れている。


「褒美をとらせるときは皆にその様子を見せる。それはどこの世界でも当たり前であろう? 皆にそなたがいかに優秀であるか知らしめる必要がある。それによって他者の士気も向上する」


 まぁ確かに騎士の叙勲式とかは皆の前でやるけどさ。それとこれとは別だろ。


「妾は例え性交するとしても皆の前でする。想像するが良い、ピラミッドに集まった大観衆、その頂点で妾とそなたが一つになるのじゃ! きっと先代のファラオたちも霊となって見に来てくださるであろう!」

「地獄かよ! 墓の上で何やってんだ!」

「その方が妾が興奮する。趣味の問題だ!」

「ただの変態じゃねぇか!」

「フハハハハ! 妾は普通が嫌いじゃ。見せつけてやろうではないか、神と英雄の子作りというものを! そなたが大観衆の前でフィニッシュすれば拍手喝采大喝采! 先代も涙を流してお喜びになられるであろう!」

「地獄かよ! セトどこだ! お前の主だろ、なんとかしろ!」


 まさかセトにエロい事止めてくれという日が来るとは。




 全く褒美を貰えなかったその翌日、俺たちは荷物をまとめてマンスラータリアの街から出ようとしているところだった。


「貴様らには支えられた」

「墓守として礼を言うであります」


 見送りに来ているのはファラオにセト、ナハル、変装をといた墓守モンスター、それにこの街の代表代理となったヤンバも来ていた。

 ヤンバとはこのマンスラータリアの街とウチの国と同盟関係を結ぶ書状をかわし、相互協力をとりつけてある。

 港町のライノスに続いて二番目の同盟都市となったわけだ。


「いいっていいって。目的の物も貰えたし、それに財宝もたくさん貰っちゃったし」


 俺の胸元にはペンダントのようにかけられたラーの鏡が光を反射している。ファラオ曰くこれを使いゼノのツノを元に戻す為には、魔力を充電させる必要があるので城に戻ったら充電方法考えなくてはならない。


「咲、重い」


 オリオンやフレイアたちは持ちきれないほどの宝石や金塊を大量に持っていた。


「金は嬉しいけど、これで流砂なんかにあったら泣くに泣けないわよ」


 金貨大好きフレイアさん、こいつの場合落ちた金拾いに行ってそのまま流砂に流されそうである。


 こんだけ沢山貰ったかわりと言ってはなんだが、ドンフライがファラオの相棒である金色の蛇を見つけてきて彼女に返した。

 戦いが終わった後、シレっとドンフライの尻に噛みついてきたところを捕まえた。

 ドンフライは「我輩への感謝をしに来たのだ」と言っていたが、あれは明らかに捕食しに来たとしか思えなかった。


「セト、あれを」

「はっ、持って行くが良い」


 ファラオに促されてセトは俺に二本のショーテルを手渡した。磨かれて綺麗に錆びと汚れを落とされたそれは、アレスが使っていた砂王の剣サンドロックで間違いない。


「いいのか?」


 俺はファラオの方を見やる。これはアレスの形見と言っていいものだと思うのだが。


「構わぬ。貴様が使っても良いし、それに相応しい人物に渡してくれても良い」

「そうか、こんなにいっぱい土産貰ったのにな」

「非常に優秀な剣じゃ。墓前に飾っておくより、誰かを救う力となった方があ奴は喜ぶ」

「ありがたく貰っておくよ」

「うむ、役立てよ」


 よし、じゃあそろそろラクダに乗って、また長い砂漠を帰るか。


「うへー、咲また砂漠越えすんの?」

「棺桶用意してください」

「うるせー、今度死んだら棺桶なしでラクダにくくりつけて帰るからな」


 ファラオはそのやり取りに笑みを浮かべるとパンと手を叩く。すると彼女の手に瓶の中に船の模型が入ったボトルシップが現れた。

 彼女は透明な瓶のコルク栓を抜くと、中に入っていた帆船が巨大化して出現したのだ。

 帆船は通常水の上を浮かぶが、今は砂の上に浮かんでおり、その規模の大きさに驚かされる。


「おぉ……でかい」


 海賊が使ってそうな巨大な帆船が砂海に浮かぶと迫力がある。


[魔導船デスネ。風石ヲ使用シテ、海上ヤ砂上ヲ推進航行シマス]

「これは魔導船ではない。妾の宝、鷹翼飛行船ホルスじゃ」

「飛行船!?」

「ねぇ咲、もしかして飛べるのこれ?」

「どうなんだろ。確かにプロペラみたいなのがマストについてるし、横には羽みたいなのもついてるから」

「飛べるが、動力炉のパワー不足で膝よりも上の高さに上昇せぬ」

「飛行艇というよりホバー船だな……」


 地面から4、50センチくらいしか飛べないシュールな飛行船らしい。


「しかし飛ばずとも砂漠を航行するには十分な性能を発揮するじゃろう」


 そう言ってファラオは俺にボトルを手渡す。


「動力を強化して魔力を十分に貯めれば飛行も可能やもしれぬ。砂海を抜けたらこのボトルに戻すが良い」

「わかった。何から何までありがとう」


 俺たちは飛べない飛行船に乗り込むと、こちらを見上げるファラオたちに手を振る。


「ありがとう! また来る!」

「楽しみにしているであります!」

「バイバーイ!」

「じゃあね!」

「ありがとうございました!」

「お元気で!」

「皆も我輩を見習い励むであーる」

[メモリーニ登録シテオキマショウ]

「世話になった」

「そなたたちの未来に幸あらんことを祈っておる」


 帆船は錨を上げると、真っ白な帆に風を受けゆっくりと動き出した。

 それを追ってセトやナハル、墓守達が駆けてくる。

 俺たちはお互い大声を張り上げた。


「「「またいつか!」」」


 再会を約束し、ファラオ、墓守、マンスラータリアの街に別れを告げ、俺たちは自分たちのを目指し砂海を出航したのだった。




 砂漠の英雄        了





――――――――――――――――――――――――――――――――

砂漠編が終了いたしました。

長くのおつきあいありがとうございます。

エピローグⅡではないのですが、帰る道中のお話をおまけ編として更新しますので、そちらもお楽しみにしていただければと思います。


章分割の方実施しました。

210話から214話を堕ちた騎士、215話から245話を砂漠の英雄へと変更しております。


第3回カクヨムWEBコンテスト、総合ランキングでガチャ姫の方8位を頂いております。

応募総数3000を超える作品の中で10位圏内に入れたのは、本当に皆様のおかげです。合わせて御礼申し上げます。

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