第206話 理想の彼氏 ソフィー編 前編

 どうやら俺はエスパー的な何かを習得したらしく、フレイアと二人しかいない、もしくは誰かいたとしても、その誰かの注意が他に向いている場合などは俺が合図するとフレイアが怒った顔をしながらもスカートをたくしあげてくれるという素晴らしい能力だ。


 執務室内で俺の前に立つディーは羊皮紙に書かれた意見書や、税収の報告、領土内での問題など小難しいことを読み上げている。

 俺も「それは大変だな(棒)」と頷きながらも視線はディーの後ろにいるフレイアに注がれている。

 俺が人差し指でサイキック能力()を使うと、フレイアは視線で(今ディーがいるでしょ!)と憤っている。しかし俺は(構わんやれ)と手を組んで促すと、フレイアは(この野郎……ぶっ殺してやる)と噛みつきそうな表情をしながらも、ディーの後ろでスカートをたくしあげ、先日買ったやらしい深紅のヒモパンを見せてくれる。


「で、あるからして、聞いていますか王よ」

「ああ、聞いている」

「季節の移り目で火事などが予想されます。木造の住居が多いですので、燃え広がると危険です」

「ああ、情熱的な赤だ」

「貯水池から一番遠い西側に消化用の砂を用意していますが、その量を増やす為、砂丘方面へと部隊を一つ送り――」

「…………」

「何か後ろにあるのですか?」


 あまりにも真面目顔の俺を不審に思ったディーは後ろを振り返ると、その瞬間フレイアはスカートを下ろし、何食わぬ顔で窓の外を眺める。しかしその顔は真っ赤であり、内心心臓バクバク鳴っていることだろう。


「フレイア、顔が赤いが」

「な、なんでもないわ」

「風邪も流行り出す。体調管理には注意しろ」

「わ、わかってるわよ」


 ディーにそう答えてからキッとこちらを睨むフレイア。

 後が怖そうだ。でも、やめらんない。

 ディーの案件を全て聞きおわる頃、執務室の扉が開きG-13がキャタピラ音を響かせながらやって来る。


[イケメン王、オ話ガアリマス]

「なんだ?」

[ソフィーサント銀河サンニ渡シタ、ゴーレムノ稼働限界ガ近ヅイテキテイマス]

「あれそんなのあったのか?」

[ハイ、原料デアル魔鉱石ノ内蔵魔力ガ尽キルト、ゴーレム達ハ動ケナクナッテシマイ元ノ鉱石ヘト戻リマス]

「それ充電とかできないのか?」

[質ノ良イ魔鉱石、例エバオリオンサンノ持ツ結晶剣デシタラ可能デスガ、今回ゴーレムニ使用シタ魔鉱石ハ粗悪ナ物デ、魔力ヲ補充シテモスグニ魔力ガ抜ケテシマイマス]

「大丈夫か、銀河は知らんがソフィーはあれ気に入ってるんだろ?」

[マサカアソコマデ気ニ入ルトハ思イマセンデシタ]

「それ、今から質の良いゴーレムを作ってソフィーの気に入ってるゴーレムの記憶を移植とかできないのか?」

[粗悪品ゴーレムノ記憶媒体ヲ移植スルコトハ不可能デス]

「そうか……」


 えー……ソフィーからゴーレム取り上げるの嫌だな。すげぇ怒りそうだし。

 G-13の話を聞いて、ディーが話を挟む。


「その件に関して私からも一つ。ソフィーがあのゴーレムを街に連れて行って、これが自分の王だと言っているそうです」

「なに?」

「恋愛ごっこを楽しむ分には構いませんが、EXである彼女が王のことに関して堂々と嘘を吹聴してまわるのはよくありません」

「そりゃまぁそうだな」


 あいつもしょーもない嘘ついてるな。

 まぁイケメン王に仕えてるチャリオットって言った方が、皆羨望の目で見てくれるし、ある種ロールプレイみたいなもんだろう。


「そんで本人は今どこにいるんだ?」

「さっき今日も街に行って、たくさん褒められてきますって言って出てったわよ」


 ディーと俺は額をおさえた。


「しょうがねぇ、俺から言ってくるわ」

「そうしていただけると助かります」



 その頃ソフィーは、ラインハルト城下町にあるオープンカフェで、イケメンゴーレムのミケランジェロと一緒にパフェをパクついていた。


「はい、ソフィーあ~んして」

「あ~ん……おーいしいぃ~」


 ソフィーは満ち足りた表情をしながら口の中に広がる、アイスの冷たく甘い口どけにとろけていた。


「やっぱり、食べるものが美味しいのもありますが、一緒に食べている人が良いと美味しさも倍増します」

「そうかい? 嬉しいよソフィー」

「キャーッカッコイイ」


 頬をおさえ、顔をぶんぶんと振るソフィーの頭の上には、たくさんのハートが浮かんでいる。

 そんな彼女を周囲は羨望の目で見ていた。


「なにあれ、王子様みたい」

「いいなぁ、あたしもあんな彼氏欲しい……」

「あんなアホそうな女に、あんな麗しい男性がいるなんて許せない」

「く~妬ましい!」


 羨望の他に嫉妬の声もあったが、ソフィーはフレイアと違いメンタルが強く、それすらも彼女を悦ばせるのであった。


「フフフ、妬んでますね、羨んでますね、その人間の負の感情と渇望がわたしを高揚させるのです」


 恍惚とした表情でソフィーはラスボスみたいなことを口走りつつ、ミルクティーをミケランジェロに飲ませてもらう。

 もっと、もっとわたしを妬みなさい、もっとわたしを羨みなさいと思いながらオープンカフェの周囲を行きかう人々を見やると、不意に掘りの深い威厳のある中年男性と視線が交わった。

 その瞬間ソフィーは飲んでいたミルクティーをミケランジェロに向かって吐き出した。


「ブーーーーッ!!」


 中年男性は周囲の従者らしき人物を遮り、もしやという表情で近づいてくる。

 そう、それはソフィーの父であるロレンツ・ブルク・エドナドールであった。


「ソフィア!」

「違います」


 ソフィーは即答して、テーブルの下に潜り込んだ。


「ハッハッハッハッハ! お前もかわらんな! 困ったときすぐに体を隠そうとするのは!」


 父ロレンツは大笑いしながらカフェの中に入って来ると、有無を言わさずソフィーを抱きしめた。


「違います、ソフィーなんて美しい人知りません」


 ソフィーは鼻をつまんで、変声で対応するが当然ながら父をかわすことはできなかった。


「パパがお前を間違うわけがないだろうソフィア!」

「う……うぅ、ダメでしたか」

「ハッハッハッハ! 本当に可愛い子だ!」

「お、お父様、なぜラインハルトのような辺境に……」

「お前から文を貰っていたが、しっかりやってるか心配になってこっそりとお前の仕えている王や領地を見に行こうと思っていたのだ! まさか途中で立ち寄った街で会えるとはな!」

「は、はは……」


 ソフィーは乾いた笑いをもらしながらここで会えてよかったと思った。

 なぜならソフィーが実家宛に書いた手紙には嘘ばかりを並べ、自分は最強のイケメン王に仕え、数々の大災厄級のモンスターを討伐し、今や英雄と呼ばれるチャリオットに所属していると父は思っているのだった。

 それが直接見に来られてしまったら嘘が全てバレてしまう。

 水際で食い止められたのはある意味幸運とも言える。


「こちらが英雄王である梶勇咲か! 文に書かれていた通り甘い顔立ちでありながら凛々しくもあるな!」

「あっ、えっと、あの~」


 王と勘違いしたロレンツを正そうとゴーレムが声を上げる。


「すみません。私は王ではなく――」

「そう、王なんです! 彼が梶勇咲王なんですよ!」

「おぉ、やはりそうか! 娘から君の数々の武勇伝は聞き及んでいる! 伝説の邪竜フレースヴェルグをソフィアとたった二人で倒したそうだな!」

「え、えっと」

「ええ! そうなんです! 大激戦でした。チャリオットの皆さんも多少手伝ってくださいましたが、邪竜と戦うときには皆さん倒れてしまい……」

「そうか、ソフィア辛い思いをしたんだな。パパも悲しい」


 ロレンツは娘のことになると涙もろくなるのか、グスンと涙をこぼす。


「しかしソフィアよ、お前の領地に行こうとしてトライデントチャリオットの領地はどこかと聞いてみたが、誰も知らんなどと言い出したのだ。トライデントはこの地では有名ではないのか?」

「そ、そんなことありません! 多分聞いた人が観光客か何かだったのでしょう!」

「そうか? 聞いたのはラインハルトの衛兵だったのだが」

「えーっと……新人さん! きっと新人さんだったのでしょう!」

「……ふむ。なるほどな。してソフィアよ、お前の従者はどこにおるのだ?」

「じゅ、従者?」

「当然であろう。お前やこの梶王ほどの人物であれば、召し使いや奴隷……は少し下品か。そのような従者を連れていて当たり前だろう? そのものに城へと案内させたいのだが」

「え、えーっと、えーっと」


 ソフィーは嘘がたたり、言葉をつまらせるしかなかった。



「あっ、いたな」


 俺はオープンカフェでイケメンゴーレムと楽しくパフェを食う、ご機嫌なソフィーを見つける。

 何やら見知らぬおっさんがいるようだが、あれは一体誰だろうか。

 まぁあいつが変なこと言う前に回収して帰ろう。

 そう思ったが、近くで聞き耳をたてるとあの見知らぬおっさんはソフィーの父らしく、あのバカ、父親にも嘘つきまくってたようで自分の嘘で自爆しているようだ。

 自業自得なのでこのまま放置するかと思ったが、ソフィーはテンパりすぎてもはや泣きそうになっている。



「えっと、その、あの、えっとですね……」

「どうかしたのかソフィアよ?」

「えっと、あの、その従者は……」


「ソフィア様、お呼びでしょうか」


 声がしてソフィーは驚いて振り返ると、そこにはウェイターの制服を身にまとった俺の姿があった。


「む? 君はここのウェイターではないのか?」

「自分はソフィア様の護衛も兼ねていますので、陰ながらお守りする為このように街人の中に溶け込んでおります」

「ほぉ! それは凄い。椿国で聞く忍びの者のようだな!」


 俺は視線で合わせてやると合図する。


「そ、そうなんです! 今度からもっと早く出てきて下さい。ほんとにいつもスットコドッコイなんですから」

「ふむ、して従者よ名を何という?」

「梶ゆ――」


 言いかけた俺の頬をソフィーはパーンとはたいた。


「え、えっとですね、この者は元椿国の者で名前を……金之玉三郎と言います!」

「ほぉ、かわった名前をしておるな金玉三郎」

「…………はい」


 俺がギロリと睨むと、ソフィーは父親に見えないように手を合わせながら頭を下げていた。

 普通自分の王様に金玉とかつける? もう仕方ないからこのままいくけどさ。


「では、梶王行こうか」

「はい」


 梶王と呼ばれてゴーレムの方が立ち上がる。

 それだけで全てを理解してしまった。コイツディーの言ってた通り、このゴーレムを俺ってことにしたな。





――――――――――――――――――――――――――――――――――

 すみません、前編、中編、後編でおさめるつもりだったのですが、加筆修正してたら長くなったので、フレイア、ソフィー、銀河のキャラクターエピソードとして話を再構成しました。

 前編、中編を削除し、中編をフレイア編、後編をソフィー前後編、銀河編にすることにしました。

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