第25章 理想の彼氏
第204話 理想の彼氏
トライデントチャリオット領地内、狭いながらも補修を重ね外観だけはそれなりに見れるようになった城。その城へと続く通りにある酒場フェアリーエンジェルは今日も繁盛しており、筋肉質なお姉系マスターリカールが腰をくねらせながら接客する女性たちに指示を飛ばしている。
笑いや大声の絶えない活気がある中、隅っこの方でどんよりとした空気を放つ少女の姿が確認される。
それはやさぐれた表情のソフィー、そして困惑気味のフレイアと銀河だった。
「で、なんであたしたちここに呼ばれたわけ?」
フレイアが問うが、ソフィーの周囲には木製の空ジョッキが並んでおり、既に出来上がっている感がある。
ソフィーは酒の臭いがする口をため息と共に重々しく開いた。
「はぁっ……最近、わたしたち影薄くないですか?」
「そ、そうでしょうか? 皆さん個性的な方々で、とても良い方ばかりだと思いますが」
「ちょっとマゾメイド忍者さんは黙っててもらえますか」
「はうっ……」
ソフィーが銀河のフォローを一言でシャットアウトする。
「あんたで影薄かったら、誰が影濃いのよ」
「決まってます! 新参のあの兎どもですよ!」
キーっと声をあげるソフィーに、二人はあぁ……と苦笑いしながら頷く。
「ロイヤルバニーだかなんだか知りませんけど、奴隷で! 兎で! 竜騎士! なんですかそれ!? おまけに双月の夜にはドラゴンを召喚できるんですよ!? なんですかこの設定お化けみたいな連中」
「あんただって実は姫で、神官でEXで最強の防御障壁持ちでバカで意地汚いのよ?」
「なんですかその最後のバッドステータス! 最強の防御障壁持ちで終わらせればいいじゃないですか! そこにバカと意地汚いつける必要あります!?」
「自分で否定はしないのね」
「そ、それが個性になってるのではないでしょうか?」
「黙って下さい新参マゾ豚忍者」
「ま、マゾ豚じゃありません……」
ソフィーはジョッキグラスに入った麦酒を飲み干すと、座った目で指折り数えていく。
「オリオンさんはレアリティ低くてもファースト召喚キャラっていう唯一無二の設定がありますから、彼女を超えるポジションは絶対出ません」
「友達であり、兄妹であり、恋人でもあるっていう考えただけでも無敵のポジションね」
「次にレイランさんとエーリカさん、彼女達はEXというトライデント最強の二枚看板を背負ってます」
「わかってる? それあんたもよ」
「そして許せないのがディーさん。あの人EXでありながら秘書官的なポジションなんですよ!」
「それはしょうがないわよ。ウチ彼女がいなかったら成り立たないわよ」
「くぅ、わたしが一番目指してたクールな叱り役のお姉さん的ポジションです」
「グラフにしたらあんたと対極の位置ね。縦軸がバカと天才で、横軸が天才とバカね」
「それわたしがバカの位置から不動ってことですよね!?」
「気づいた? 少しだけグラフの位置修正しといてあげるわ」
「ウフフフ」
フレイアとソフィーのやりとりにクスクスと笑う銀河。
「なに笑ってんのマゾ豚。あんたもこっち側だから兎側には行かせないわよ」
「そうです。深淵を覗くとき深淵もまたあなたを覗いてるんですよ」
「こ、怖いです……」
「ふと気づいたのですが、あなたのお母さんはどっち側なんですか?」
ソフィーの質問にフレイアは苦い顔をしながら腕組みして唸る。
「うぐ……クロエね。彼女最近本気で女として活動してるから危機感を覚えてるわ」
「あの、一つ気になったのですが」
「なんですか雌犬」
「犬じゃありません……。あの、なぜお母さんのことを名前で呼ぶんですか?」
「あっ、それわたしも気になってました。友達とも少し違う、どっちかっていうと他人寄りな接し方してますよね?」
「あたしは昔クロエと二人で旅してたから、女二人、しかも親子だと完全になめられるの。ママ同伴でお出かけでちゅか~って」
「苦労されてきたんですね」
フレイアは忌々しいと果実酒を飲み干し、ダンっと机をジョッキで叩く。
銀河はそれだけで恐らくフレイアが実際に言われた言葉なのだろうと察する。
「大体あの男が全部悪いのよ。あっちふらふら~、こっちふらふら~って」
「そうですそうです。だから周りがこっちおいでこっちおいでって甘やかすんですよ!」
「そう言えば皆さん意中の男性はいらっしゃらないんですか?」
銀河の何気ない質問だったがソフィーとフレイアに稲妻が落ちる。
「い、いるわけないでしょ」
「そうです。男なんて作ってる暇があったら自身の技を磨きます!」
「そうなんですか? それはそれで勿体ない気がしますが。お二方共、容姿だけは抜群ですので」
「ほぉ言ってくれるわね、このマゾヒスト」
「容姿だけはってなんですか、容姿だけはって」
「す、すみません」
フレイアとソフィーの目が赤く光ったが、二人はすぐにグダっと机に突っ伏した。
「はぁ……どこかにイケメン落ちてないですか」
「そうそう、なんでも言うこと聞いてくれて、あたしだけに優しくて、休日は素敵な場所にデートへ連れて行ってくれる。そんな素敵な男の人……」
「お館様はどうなのでしょうか?」
「はっ? あんまりふざけてると殺すわよ雌豚」
「全裸にして城門に吊り下げますよ雌犬」
「や、やめてください……」
「あー、あいつ以外の良い男落ちてないかー!」
「なんなら錬成でもいいです。いい男錬成させてください」
[アリマスヨ]
不意に機械音声が響いて三人は振り返った。
そこにはG-13の姿があり、キャタピラをキュラキュラ鳴らしながら三人に近づいてくる。
「あるって、それどういうことなんです?」
[理想ノ男性ヲ求メテイルノデシタラ、私ガ作リアゲルコトガデキマス]
「なにそれ、そんなことできるの?」
[ガリア製デスノデ]
「ガリア人体錬成までできるの? やばくない?」
[デハ三人トモ私ニ理想ノ男性ヲインプットシテクダサイ]
G-13はそう言うと、顔面にモニターを表示させ男性キャラクターの画像を映し出す。
「凄いイケメンばっかりです」
[映シ出サレタ画像デ、一番好ミノ顔ヲ設定シ、キャラクターノプロフィールヲ入力シテクダサイ]
「じゃあ私からいきますね」
ソフィーは自身の好みのイケメン男性の画像を選び、そこに身長や体格、性格から足のサイズにいたるまで細かにデータを入力していく。
「とっても優しくて、背が高くて、頼りになって、少し照れ屋で。不器用なんだけど可愛いところもあって、わたし以外の女性には見向きもしないカッコイイ人です。俺の傍にいろとかカッコイイ決め台詞があると尚良しですね」
ソフィーが入力を終わらせると、今度はフレイアが入力を行う。
「えーっと、顔は当然いいの選んで、あのバカと違って理知的な男性で、あのバカと違って紳士で、あのバカと違って音楽に興味があって、ヴァイオリンの腕が一級品で、それでいて自分にも他人にも厳しい理想を追う人がいいわね」
同じようにフレイアが入力を終わらせると、銀河も同様にデータを入力する。しかし彼女は他とは違い、皆には見えないようこっそりと入力を終わらせる。
全員のデータ入力が終わるとG-13はそのデータをもとに、魔鉱石を用意し、それをドリルやレーザーで削っていく。
「この鉱石って確かゴーレムの素材となる奴よね?」
[ハイ、裏山デ沢山トレマシタ]
「そういえば昔、あそこで魔導ゴーレムと戦ったことあります」
[コノ魔導鉱石ト私ノスリーデイプリンター機能ガアレバ、理想ノ人物ヲ作リ上ゲルコトガデキマス]
「わたし出来上がった理想の彼氏がゴーレムみたいな真っ黒い鉱石とか嫌ですよ」
[ご心配ナク。塗料デ着色イタシマスノデ99%人間ニ近ヅケルコトガデキマス]
全員半信半疑だったが、一体目のイケメンが出来上がり三人は驚きの声をあげた。
「す、凄いです。本当にカッコイイ殿方が出来上がりました」
「凄いです! 私好みのエリートイケメンができあがりました! 最高です!」
ソフィーが抱き付くと、出来上がったイケメンゴーレムは動き出し照れたのだ。
「すみません、ソフィーさん。あなたに抱き付かれるとドキドキが止まらなくなってしまいます」
「なにこれ、凄いです! ちゃんと喋ってます!」
[性格機能ハ既ニインプット済ミデス]
「ということはこれがわたしの望んだ理想の彼氏なんですね!」
「ソフィー……ずっと俺の傍にいろ」
「キャーーキャーーキャーー!」
ソフィーはイケメンゴーレムの甘い言葉に、悶え死にそうになっていた。
G-13は同じように他のイケメンゴーレムを作り上げる。
次は眼鏡をかけたインテリ系イケメンだった。
音楽をやるのかヴァイオリンが一緒に作り込まれており、見た目的には気難しい天才ヴァイオリニストという感じだ。
「君が僕の彼女か? 興味はないが大事にはしてやろう」
「な、なによコイツ。ゴーレムのくせに」
インテリ眼鏡イケメンゴーレムはフレイアの後ろの壁にドンっと手をついた。
「ふん、生意気な子猫ちゃんだ。聞きたいか? 俺とお前の恋のフォルテッシモを」
「わ、わけわかんない」
本当にわけがわからないが、フレイアの顔は赤面しており、ゴーレムだとわかっていても距離感の近さにドキドキをおさえきれなくなっていた。
G-13は更にもう一体イケメンを追加する。
今度は口や耳にピアスをじゃらつかせた悪そうな兄ちゃんが出来上がり、同じ様に銀河に壁ドンする。
「お前が俺様の彼女か。ふん、なんでもいい、貴様の全て俺に捧げつくせ……」
「あ、あのやめてください」
いきなり至近距離で接してくるイケメン俺様系ゴーレムは不敵な笑みを崩さず、グイグイと銀河を押してくる。
「やっぱあんたマゾよね」
「真正ですね」
二人は深く頷くが、銀河はぶんぶんと頭を振る。
「お、おかしいです。こんな設定にはしてないはずなのに」
[ソレデハ皆サン理想ノ彼氏ヲお楽しみください]
「あなた最高のロボットです」
「ええ、あのバカの100倍役に立つわ」
「あ、あの、この人怖いです……」
三人はこれからゴーレムたちとの甘い生活に胸を躍らせるのだった。
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