第162話 アンノウン

 出鼻をくじかれたみたいになったが、俺は次のガチャを回す。

 今度は当然のように白いカプセルが出てきた。

 カプセルがポンっと音をたてて開くと、中から柴犬みたいな見た目のコボルト族の少年が出て来た。


「よろしくお願いしますわん、僕はサイモンと言います。頑張りますわん!」

「……あぁ、うん、よろしく。君の兄弟もたくさんいるよ」

「それは嬉しいですわん!」


 安定のサイモンか。こいつ兄弟が山のようにいるらしくノーマルと言えばサイモンがでてくるみたいな風潮がある。まぁいい、召喚石はまだまだある。まだこれからだ。


「サイモンが二匹~」

「サイモンが三匹~」

「まだだ、これからだ!」

     ・

     ・

     ・

「サイモンが十匹~」

     ・

     ・

「サイモンが十八匹~」


「おかしくない!? なにこれ、サイモンしかでてこないじゃんサイモンガチャじゃんこれ!? ピックアップなにそれ仕事してんの!?」

「なんで、途中でHRのリッパー影山さんと、SRのジェイソン山中さん出てきたじゃん」

「両方ナイフとチェーンソーもって襲い掛かってきたサイコパスじゃねぇか!」


 モンストのハズれキャラみたいな名前しやがって。

 速攻強制帰還させてやったわ。

 王は呼び出した兵を強制的に元の場所に戻すことができる。

 本来ならいうこと聞かないとか、反逆の可能性がある人間を帰還させるものでサイコパス対策ではないはずだ。


「被り物してる人は大体外れの法則ですね」

「頼む、可愛い女の子きてくれ!」

「咲、なんか主旨かわってるよ」

     ・

     ・

     ・

     ・

     ・

「サイモンが二十三匹」

「お前ふざけんなよ、何匹兄弟いるんだよ!」

「ご、ごめんなさいわん」


 出て来たサイモンはいきなり怒鳴られてビクビクしていた。


「咲、別にサイモンは悪くないんだから」

「それにサイモンとしてカウントしてますけど、コボルト族のチャッピー君やジャック君も出てきてますよ、全部Nですが」

「柴犬がダックスフンドになっただけだろうが! くそ、このままじゃウチのチャリオットがわんにゃんランドみたいになるぞ!」


 俺はその場でぴょんぴょんと跳びあがる。


「なにしてるのそれ?」

「乱数を調整してる」

「なにそれそんなのできるの?」

「ただのオカルトだ。よし、次はSR以上が出る気がする」


 昔ソシャゲでいいキャラが出て来なくて、ゲームアプリを落としたり、スマホの電源落としたり、誰かにワンコールかけて通信状態をよくするなど謎のオカルト理論でガチャ引いたことを思い出す。勿論なんの効果もないんだがな。

 ガチャのレバーを握り、力強く回した。

 すると、今度は銀色のカプセルが出てきたのだ。


「おっ、HRだ!」

「またリッパー影山さんじゃないの?」

「いや、違う、俺にはなんとなくわかる。何か凄い力を秘めている気がする」

「所詮HRですけどね」


 ソフィーのセリフに切れたオリオンが飛びかかる。


「どうせあたしはHR以下のR娘だよ! あたしのこと下に見てんだろこのヤロウ!」

「見てません見てません! Rのくせによく頑張ってるなと思ってます!」

「なんだその上から目線、喧嘩だぞこのヤロウ!」


 相変わらずレアリティのことには敏感なやつだと思いながら俺は銀色のカプセルを開く。すると中から飛び出したのは。


「貴様ら人間のくせにうるさいであーる。我輩のようにもっと高貴に振舞えないのかであーる」

「…………ニワ……トリ?」


 中から出てきたのは真っ白い羽に赤いとさかをした、俺たちの世界にもよくいるニワトリだ。

 違いがあるとすれば胸の辺りに蝶ネクタイをしている。

 しかしながらごくごく普通に人間の言葉をしゃべっていて面食らってしまう。


「ピーチクパーチクひよこみたいにわめく奴が我輩は大嫌いなのである」

「鳥公、名前は?」

「誰が鳥公じゃい! 我輩にはドンフライという高貴な名前があるのだ!」


 ドンフライはバサバサと跳びあがると、俺の頭を突っついてくる。


「いてぇ、てかドンフライってなんだ。揚げないでってことか」

「飛べないってことじゃないんですか?」

「バカもんドンと言えば首領やボスのことをさすに決まっているである。貴様らには年功序列と、年上を敬う清き精神を叩きこんでやるである! いいかぁ下積みというのがどれだけ大切か~」

「いきなり老害みたいなこと言いだしたぞ」

「ニワトリのくせに年上なのか」

「む……それより、西園寺はどこに行ったのであるか?」

「西園寺? 誰だそれは?」

「ぬ? まさか我輩だけ呼び出されたであるか?」


 ドンフライはバッサバッサと跳び回るが、彼の言う西園寺とかいう人は呼び出されてはいない。

 ニワトリがパタパタと走り回っていると丁度そこにクロエが姿を現した。


「あっ、王様、今晩の晩御飯ですが何か精力のつくものを……」

「おぉ美しき人よ、我輩を養う権利をやるである」


 ドンフライはクロエを見つけると、探し人のことなどすっかり忘れてぺたぺたとマヌケな足音を響かせながら近づいていく。


「あら? ニワトリさんがこんなところに」

「我輩名をドンフライと言うである。美しき人よ、我輩と結婚する権利をやるである」

「あらあらお喋りができるんですね。凄いです」

「それほどでもないである。我輩誇り高きコカトリス種、人間程度の言語話せて当然である」

「なるほど、凄いんですね」


 クロエは近くまで寄って来たドンフライの両足を無造作に捕まえあげ、逆さまにもつ。


「おーい美しき人よー、このまるで狩人が獲物を捕まえたみたいな持ち方はやめてくれないであるか」

「御夕飯決まりましたので戻りますね」


 クロエは笑顔でドンフライを持ってガチャの間を出て行った。

 その手には包丁が握られていたことを皆気づいている。


「召喚石一つで夕飯一食分か……」

「えっ、食べちゃうんですか?」

「いや、だってクロエがもう持って行っちゃったし」

「夕飯はフライドチキンか」

「ドンフライって名前が泣けてくるな」


 とりあえずあのニワトリは見なかったことにして、ガチャを回す。


「はい、サイモン二十八匹目」

「正確にはハスキーのジョンさんです。ちなみにメスですよ」

「なんで猫種はほとんど人間なのに犬種はまんま犬なんだろうな……。それにしてもすげぇいろんな犬種が出て来たな……ペットショップみたいになってるじゃねぇか」


 ここまで来たらもはや諦めの境地であり、さっさと最後まで回してしまおうと思う。


「ラストの召喚石だ」

「完全にサイモンガチャだったね」

「終わったみたいに言うな、ここからだ」

「ギャンブルで負けてる人って大体そういうよね」

「…………」


 正論は人を黙らせる。

 これで最後とガチャを回すと、最後の一つがコロンと俺の掌に落ちる。

 それを見て俺は固まった。


「なんだこれ」


 カプセルに十字手裏剣のようなものがくっついているのだ。

 しかも色も今まで見たことのない赤色をしている。


「真っ赤だね」

「ああ、モンスターボールみたいな色してるな」


 未知のカプセルをいきなり開くのは怖いので、俺はファンタジーシフトのアプリになにか情報がないか見てみる。

 画面をスクロールさせていくとソシャゲみたいなアップデートお知らせが表示される。


「あらたにピックアップキャラを表示させました、じゃなくてユーザーインターフェースの変更じゃなくて……これか、ガチャにレアリティアンノウンを追加、通常のガチャカプセルとは違う色のカプセルが出たらチャンス。高レアリティの戦士が出現する可能性があります。アンノウンカプセルは出現する戦士によってカプセルが変化します。最高レアの可能性も!?……だってよ」

「へーそんなのが追加されたんだ」

「アンノウンなんて言われても強いか弱いかもわからないと困りますよね」

「そうだなレアリティはある程度強さの目安だからな」


 アンノウンとは、ようはわからないってことだろう。


「戦士によってカプセルが変化するって書いてあったよね?」

「ああ」

「それ中身忍者じゃない? そのカプセルについてる武器忍者のでしょ? あたし昔見たことあるよ」


 俺はカプセルについた手裏剣を見やる。確かにこれは忍者の武器だし、もし戦士によってカプセルの形がかわるなら忍者と言う可能性は高いだろう。

 そこで俺ははっとする。確か俺が欲しいと言っていた甲賀戦は真っ赤なマフラーを口に巻いていた。


「最高レアがでるかもって書いてたな……」


 これはまさか……。


「まさか来たか甲賀戦!」


 最後の最後に引いてしまったか! 俺の恐るべき運命力! なんのかんのと言いながら引きの強い俺である。


「よし、来い!」


 勢いよくガチャカプセルを開くと、ぽんっと音をたて白い煙がもれる。

 その煙がはれると、人影が見える。間違いない女の人だ。俺の待ち望んだ甲賀戦が……。


「超忍、西園寺銀河! 召喚に応じて参上つかまつりました!」


 顔の横でスリーピースを決める少女を見て、俺たちは固まる。

 どうやら確かに忍者を召喚したみたいだが、俺の予想した甲賀戦ではなく超忍とかいう謎の忍者が出て来たらしい。

 彼女の姿は俺の知っている忍者とは少々違っており、豊満なボディラインがくっきりと出るレオタードのようなボディスーツ、SFチックな機械手甲、腰にはチアガールのようなフリル付きの短いスカート、腰には大きなリボンと装備だけだとエーリカに近い。いや、これはどっちかというと覚醒した真凛の美少女戦士的なコスチュームと似通っている。


「融機人、か?」

「忍者パワーで敵を討ちます! 超忍西園寺銀河、舞い忍びます!」[シャキーン!]


 謎のSEと共に超忍銀河はかっこよくポージングを決め、ウインクをばちこーんと放つ。


「変なやつでてきたな」

「変なやつだ」

「変な人ですね」

「王様、変な人を呼ぶスキルでも持ってるんですか?」


 そんなバッドステータスあるなら即消してやりたいところだ。


「一応聞くがご職業は?」

「超忍です!」

「……いや、超忍ってのがよくわからない。忍者でいいのか?」

「超忍者です!」

「ん、ん~? その超忍者ってのがわからないんだってば。君多分この世界の人間じゃないよね? 融機人じゃないのにそんな格好してる人なんて見たことないし」

「はい、銀河星系第108番惑星リバースアースという星で悪と戦っていました!」

「リバースアース……裏地球ね。悪者っていうのは」

「リバースアースの支配を目論む、悪の秘密政府闇将軍頼朝と戦いを繰り広げていました!」

「闇将軍頼朝……もう、さっきからパワーワードしか言ってねーな」

「銀河舞い忍びます!」[シャキーン!]

「俺の話聞いて。舞い忍ばなくていいから。やめてそのスリーピース。あとこのシャキーンって音どっから鳴ってるんだよ」

「いいんですか? 他にも刹那に忍ぶこともできますが」

「よくねぇよ。忍ばなくていいから。いきなり決めポーズとるのやめて、びっくりするから。その台詞みたいなの絶対言わなきゃいけないの?」

「はい、子供がたくさん見てますから。これをすると視聴率がぐんと上がるんです」

「視聴率? なにそれ君タレントとか女優なの?」

「超忍です!」

「だから超忍ってなんだよ!」

「銀河舞い忍びます!」[シャキーン!]

「うるせぇ! 何回やるんだよ! 俺と会話のキャッチボールをしてくれ!」


 ダメだ、こいつはソフィーとは別のベクトルで大型新人だ。あれだ、ガチャキャラでもたまにいるけど、可愛いだけのキャラだ。


「あの召喚された意味とかわかる? これからどうなるかとか?」

「はい、チャリオットに所属して……悪を討ちます!」


 銀河は煌めく刀を抜き、カッコよくポーズをとる。


「ん、ん~まぁ悪っていうか他の王なんだけど」

「大丈夫です。銀河は超忍として悪を討つ覚悟があります!」

「そりゃいいんだが……ちょっと試していいか? 普通レアリティである程度強さがわかるんだが、君のレアリティがアンノウンになっててどれくらい強いのか全くわからない」

「銀河の力は1000万メガスターパワーです!」

「わかる単位でお願いできる?」

「1メガスターで1000コメットスターパワーの力が――」

「ああ、もういい。オリオン早く試して!」


 俺は銀河を理解することを諦めた。


「オッケー」


 ガチャの間でドタバタするわけにはいかないので、俺たちは地下から外に出て、城の中庭でオリオンと銀河を対峙させる。


「とりあえず、参ったって言うまでか、勝負がついたところでとめるから死なないくらいで手加減して本気を見せてくれ」


 オリオンは結晶剣ではなく刃のない鉄でできた模造刀を肩に担ぐ。

 刃はないので切れないが、鉄なのでぶん殴られると死ぬほど痛いし、最悪骨が折れたりすることもある。木刀でやらせようかと思ったが、できる限り銀河の本気が見てみたいのだ。


「ほい、じゃあ始め」

「しゃあ行くぞ!」


 オリオンは担いでいた剣を構え、銀河に向かって走る。

 対する銀河は目を閉じたまま瞑想しているようにも見える。

 そしてオリオンが間近に迫った瞬間、カッと目が開かれる。

 俺は反射的に嫌な予感を感じ、声をあげた


「やばいぞオリオン!」

「宇宙忍法! シリウス流星――うっ、えう……」


 銀河が技名を言い終わる前に、オリオンの模造刀が銀河の腹に命中する。刀身で斬ったわけではなく、剣の柄で腹を殴ったのだ。

 銀河は腹部を押さえて、そのままM字開脚で倒れた。


「えうっ……痛いです」

「だ、大丈夫か?」


 オリオンは一瞬演技かどうか迷ったが、銀河の目じりに涙がたまっているので、これはあかん奴やと判断した。

 銀河はそのまま担架で運ばれていった。


「…………やばい奴が入って来たな」

「……うん」


 全員が深く頷いた。

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