第161話 楽しい召喚

「そっち持ってにゃー」

「搬入口はこっちじゃないぞ!」

「間違えたにゃ」

「誰か切るもの持ってきてー」


 外から先日移民として受け入れた獣人族の声が聞こえる。

 それぞれの個人宅も小さいながら完成し、移民はなんとか完了した。

 大小の民家に酒場、兵舎、大人のお店、温泉施設と、こうしてみると小さな町くらいになってきたのではないかと思える。

 一日おきに増える家や施設を見るのは王として小さな楽しみだった。


 邪教の館でペイルライダーを倒してから約一週間、鈍器を手にしながら巡回してくるダーティー映画の看守みたいなディーさんに怯えながら執務室に缶詰めになることで、たまりにたまった事務処理は全て終了した。


「一番悩んだのが、やっぱチャリオットの新しい名前決めだったな」


 俺は羊皮紙に書かれたトライデントという文字を見つめる。

 規模が徐々に拡大するにつれて自分の名前つきチャリオットというのはどこの国も名乗っておらず、聖十字騎士団、赤月帝国など強そうな軍団名を名乗っているので、それを真似たわけではないが俺自身自分の名前を軍団の名前に入れるのも恥ずかしいので、チャリオットの改名届をラインハルト城に提出した。

 そして梶チャリオットから新たにトライデントという名に変更された。

 トライデントというのは海神ポセイドンの持つ三叉槍のことであり、その三叉の槍をチャリオットと領民、モンスターの三つを指す象徴とすることにしたのだった。

 ウチは全領土でも稀なモンスターと共存している領土であり、人もモンスターも仲間になるのであれば分け隔てなく仲間になろうという意味がこめられている。


 強そうな名前つけちまったけど、名前負けしないように頑張ろうと思う。

 しばらくすると執務室の扉が開き、ディーが呼びに来た。


「王よ、お時間です」

「すぐに行く」


 俺はスマホを片手に持って地下室へと降りていく。

 そこにはガチャの間と呼ばれる、異界やこの世界から兵を召喚する為の魔法陣が常に光を放ち続けていた。

 既にディーとオリオン、護衛のエーリカ、アマゾネス隊に野次馬のソフィーが待機しており、俺の到着を待っていた。


「咲、遅いよ」

「よし、始めるか」

「ところで何をされるんです?」


 ソフィーは何にもわからず来たようで首を傾げている。


「召喚石がだいぶたまっててな。これから奇跡のカーニバルを行おうと思ってる」

「あれ、召喚石って高価なもので確か戦争中は資源と交換できたりするから貯め込むのが普通なんじゃなかったでしたっけ?」

「よく覚えてたな、その通りだ。でも、つい最近召喚石を貯め込んでるスマホから通知がきたんだよ」


 俺はそのメッセージを見せる。


[あと三日で召喚石三十三個が消失します]


「なくなっちゃうんですかこれ?」

「そっ、どうやら召喚石に有効期限が設定されたんだよ。貯め込んでる王と、新規の王の格差が酷いらしくて石の仕様がかわったみたいだ」

「仕様?」

「え~っと、ルール? みたいなもんだ」

「なるほど」

「そんで資源の交換レートも下がった上に、古いものが消えていくらしい」

「それで召喚を」

「スカウトにしようかとも思ったんだが、前のディーみたいに変な奴が集まって来られても困るしな」

「スカウトはスパイが侵入してくる可能性がありますからね」

「なんで、あと三日以内に戦争することもねぇだろうし、魔人の件もあるから軍備の強化も兼ねてぱーっとぶっぱすることにした」

「それにしては物々しい雰囲気ですね」


 ソフィーは武装したアマゾネス隊に、武器を持って控えているアギとアデラを見やる。


「ここまで警戒する必要ないかもしれないんだが、たまに召喚した瞬間襲い掛かって来るサイコパスがいたりするんだよ」

「低レア程度でしたら、オリオンだけでも十分ですが最高レアの場合どのような能力を持っているかわかりませんから警戒は必要です」

「まぁ敵になる前提みたいに話してるけど、ソフィーみたいなポンコツがでてくることもあるからな。自分の能力が制御できずにいきなり暴走しだすかもしれないから念のためだ」

「なるほど、さすが王様用心深……って今わたしのことバカにしましたよね! ポンコツって言いましたよね!」

「ポンコツにポンコツと言って何が悪い」


 子供パンチをしてくるソフィーのおでこを押さえて完全な無力化に成功する。


「王よ、じゃれあうのはそこまでにして始めましょう」

「そうだな」


 俺はファンタジーシフトのアプリを起動させ、ガチャ画面を表示させる。

 すると今まで見たことのないピックアップ戦士一覧と書かれた排出されるとおぼしき戦士達の画像が映し出される。


「おっ、なんだこれは」

「なになに、どしたの?」


 オリオンとソフィーが一緒に覗き込む。


「ぴっくあっぷって何?」

「多分今ガチャ回したら、この戦士がでやすいってことじゃないか」

「へー、なんか強そうな奴多いじゃん」


 ガイア・マリウス

 職業:ランスマスター レアリティ:HR

 年齢:36 性別:男 

 筋力B  =====

 敏捷D  ===

 技量D  ===

 体力B  =====

 魔力D  ===

 忠誠C  ====

 信仰E  ==


 グレイ・モーガン

 職業:重歩兵 レアリティ:SR

 年齢:32 性別:男

 筋力B  =====

 敏捷C  ====

 技量C  ====

 体力B  =====

 魔力C  ====

 忠誠A  ======

 信仰C ====


 スキル プレッシャーB 敵対キャラクターは自キャラクターの半径6メートルに入ると重圧Cが発生する。

 重圧 相手敏捷ステータスを低下させる。


「ムキムキのおっさんが多いな」

「EXいないの?」

「えー、大当たりは」


 ミハエル・ギュンター 

 職業:聖騎士 レアリティ:EX

 年齢:21 性別:男

 筋力A  ======

 敏捷C  ====

 技量A  ======

 体力A  ======

 魔力C  ====

 忠誠A  ======

 信仰A ======


 スキル  ナイツ&ジャスティス 騎士の名のもとに正義を執行する。顔面レベルの低い敵は死ぬ。


「おぉ、さすがEX凄くイイ男です!」

「ステータスも凄いな。いいじゃん強いし」

「…………こいつはいらんな」

「王様顔面レベルが低いからってひがんじゃダメですよ」

「うるせぇ、大体なんだこのスキル。他のスキルはわかりやすいのにこいつの意味わかんねぇじゃねぇか」


 顔面レベルの低い奴は死ぬってなんだ。なぜブサイクを駆逐しようとする。

 出てきたら即強制帰還させてやるわ。


「ダメだよソフィー、この必殺技撃たれたら咲死んじゃうかもしれない……」

「さすがに王様はこれでは……死ぬかもしれませんね」

「あれだ、こいつが必殺撃つときだけ、咲イケメンモードになればいいんだ」

「それですね」


 つまりこいつが不意打ちで必殺使ったら俺死ぬってことじゃねーか。


「お前らは良いの顔だけじゃねぇか」

「なんだとこの野郎!」

「許せません!」


 正論は人を怒らせる。

 更にページをスクロールさせる。


 甲賀戦コウガイクサ

 職業:忍者 レアリティ:EX 

 年齢:19 性別:女

 筋力B  =====

 敏捷S  =======

 技量S  =======

 体力C  ====

 魔力A  ======

 忠誠Z

 信仰F  =


 表示された女性は褐色の肌に真紅のマフラーで口元を覆い、忍び装束を身に着けたセクシーなクノイチだった。凛々しく冷たい瞳が歴戦の戦士という感じで、俺たちのチャリオットに足りないお姉さん成分がある。


「おっ、これは美人だ。この人が欲しい!」

「こんなデブどこがいいんですか? 忍者と言ってるくせに肉付きが良すぎでしょ。ボンレスハムじゃないですか」

「お前も似たようなもんじゃろがい!」


 俺はソフィーの乳をたぷたぷさせる。


「王様のエッチ、スケベ! 地獄に落ちて下さい! 死んで下さい、お願いだから死んでください!」

「神は言っておる、懺悔すれば何事も許すと」

「わたしの真似しないでください! 許しません死刑です! 極刑です!」


 死ね死ねとあいかわらず神官にあるまじき発言の連発である。


「咲、この人一番下に、房中術可って書いてあるよ」

「……最高かよ」

「房中術って何?」

「子供は知らなくていい」


 俺の心は完全に甲賀戦で決まった。


「よし、ガチャ回すぞ」


 画面をタップし続けると召喚陣から巨大なガチャマシーンが姿を現す。


「しゃーいくぜ!」

「なんでガチャ回すだけなのに、こんなに勇ましいんです?」

「昔からガチャ回すときはテンション上がるらしいよ。回し終わったら悲しみの賢者モードに入るんだって」

「よくわかりませんね」


 女にはわかるまい、このガチャを回すときの高揚感。最高レアが当たったらどうしようという期待、何も出なかったらどうしようという緊張感。アドレナリンが分泌されているのを感じる。

 俺は勢いよくガチャマシーンのレバーを握り、一気に回す。

 ころりんと転がって来たのは鈍く輝く銀色のカプセルである。

 カプセルの色で出てくるレアリティがわかっており、下から白(N)緑(R)銀(HR)金(SR)虹(EX)となっている。


「おっ、いきなりHRとは幸先がいいぞ!」

「ケッ、帰還させようよ」

「どんな人でしょうね」


 オリオンは自分より高レアがでてきたのでやさぐれていた。

 俺は期待を胸にカプセルを開くと白い煙が漏れ、何やらまん丸い影が見える。


「丸?」


 煙が完全に晴れると、そこにいたのは脚にキャタピラのついたロボットだった。


[キュインキュィィィィン、ウィィィィィイン]


 ロボットは真ん丸い胴体に大きなカメラがついており、このカメラがさっきからキュインキュイン音が鳴っている。

 ボール型のボディに腕とキャタピラの脚がくっついていて、両腕部分はガドリング砲になっており、戦闘能力は高そうに見える。


「おっかしいな、ファンタジー世界のはずなのにハロとガンタンク足して二で割ったみたいなの出て来たぞ」

「咲、なにこれ?」

「さぁ……そもそも意思疎通ができるのかコレ」


[キュィィィィン……識別信号、王ID確認……データベース照合、カジユウサク王ト一致]

「おっ、なんだこいつ俺がわかるのか?」

[王ランクD、所有領地モ小規模デアリ、性格ハ比較的温厚デアルガ、ヘタレデアルトモ言エル。外レノ王デアルト判断シマス。シカシワタシハロボットナノデ文句ヲモラシタリシマセン]

「めちゃめちゃ文句垂れてるじゃねえか! すげぇ失礼な奴だな」

[ワタシハG-13家庭用オ手伝イロボットデス]

「嘘つけ! お手伝いロボにガドリング砲なんかついててたまるか!」


 そう叫ぶと、突如G-13のカメラだと思っていた部分からレーザー砲が発射され、ガチャの間の壁を一部焼く。焼かれた壁は赤熱しドロリと融解している。


「なになに怖い怖い!」

[虫ヲ排除シマシタ。毒ノアル危険ナ生物デス]

「いや、お前の方がよっぽど危険だろ!」


 毒ならまだ助かる見込みあるけど、お前のレーザーは即死じゃねぇか!


「あなたまさか……」


 エーリカは見覚えがあるのかG-13へと近づいていく。


「気をつけろ、いきなりレーザー撃って来るかもしれないぞ」

「この機体はガリアで使用されている、戦術強化支援ユニットです」

「なにそれ?」

「平たく言えば融機人が重量オーバーで持てない武器や弾薬を運んだり、防御パーツとして装備したりできる支援機サポートユニットのようなものです」

「あぁ、補給ユニット兼武器庫的な、そりゃ便利……」

[キュィンキュィンウィィィィィィン!]

「エーリカこいつ音が怖い! なんとかして!」


 あのカメラが動いてると、レーザーで狙われてるみたいな気がする。


「持っているデータが少し古いようですね。アップデートをかけておきます」

「ついでに俺のことはイケメン王サイコーって呼ぶようにしてくれ」

「ウィンウィィィィィン!!」

「音で抗議すんな!」


 エーリカはうるさいG-13を連れてガチャの間を出て行った。


「いきなりパンチきいたやつでてきたな……」


 まだだ、まだ召喚石はある。この中で一体くらい大当たりがでてくるはず……。

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