第104話 誰、君?

「それ昨日やったよ。真凛遊んできなよ。俺周り見てるし」

「ウチこれやったことないよ?」

「あーだいじょぶだいじょぶ無強化でも乱入防止でゲームはじめれば」

「お前それ本末転倒じゃね?」


 乱入待ってるのに乱入防止したら意味ないだろ。

 まぁいきなり待っている美少年が乱入してくるなんて天文学的数字なくらいありえないから、真凛が楽しめるようにする方がいいだろう。

 筐体にそれぞれ別れて入って行くのを見送り、俺は外でゲームのライブモニターを眺めていた。

 しばらくすると凱旋門とエッフェル塔が表示され、ヨーロッパ地区のステージが選択される。

 それぞれの陣営から虎を模した機体レイジタイガーと細身で両腕にアサルトライフルを装備した狼型の機体が現れる。


「もっさんはハウンドウルフで、真凛はレイジタイガーか。レイジタイガーは初心者にも優しいからな」


 試合は茂木が攻撃方法から回避の仕方を丁寧に教えているようで、まともな戦闘にはなっていない。

 恐らく1ラウンド目は操作を教えて、2ラウンド目を本番にするだろう。

 そう思って眺めていたのだが、突如レイジタイガーが爆炎に包まれる。


「なんだ、ハウンドウルフに爆発系の装備はないはずだけど」


 そう口に出すと、突如DANGERの帯が流れる。

 乱入者がやってきたのだ。


「あいつ乱入防止するの忘れたな」


 あーあと思いながらも、乱入者に罪はないので恐らく真凛はわけがわからないままやられるだろうな。

 茂木がどこまでカバーできるかだが、と思っていると乱入してきた機体を見て目を見張る。

 それは漆黒のレイジタイガーであり、俺たちが求めていたレイジタイガーシャドウミラーだった。


「ほんとに来たのか!?」


 ゲームセンターの筐体は茂木と真凛が使っているものの他にもう一台使用されている。確かさっきまでは使われていなかったはずだ。ということはこの中に噂の美少年が!?

 そう思い筐体の中を覗き込むと、そこにはさっきの盗撮魔が不敵な笑みを浮かべていた。


「うわ、仕返しに来たよコイツ……」


 どうやら探し求めている美少年ではなく盗撮魔の乱入のようで、俺は肩を落とした。しかしこの盗撮魔中に入ってるのが真凛とわかって乱入してきたのだろう。

 俺の嫌な予想は当たり初心者丸わかりの真凛をなぶるようにして煽っている。根性も性格も曲がってやがるな。


「野郎わざと外してるな」


 ライフルの弾丸をわざとあてないようにして、ステージのオブジェクトを当てて遊んでいる。

 オブジェクトは当たっても特にダメージはないが、パイロットシートが振動するので慣れてない人がやられると気分が悪くなったりするので、基本的にはやってはいけない。

 が、そのへんはマナーやモラルの問題になってくるので、やってくるバカは当然いる。


「もっさん頑張れよ」


 ハウンドウルフが両手のアサルトライフルを撃ちならしシャドウミラーを狙うが、機動性が高い上に残像を使ってくるので当たらない。

 茂木もランカーとまではいかなくても結構やるのだが、あの盗撮魔かなりの手練れのようで、相手を翻弄しながら攻撃を当ててくる。

 敵のシャドウミラーはハウンドウルフの両脚を獣王剣で切り裂くと、逃げるレイジタイガーを追いかけ始めた。

 俺が苦い顔をしていると、後ろに何人かの観戦者が集まって来た。


「あいつまたやってるのか」

「さっさとBANされちまえばいいのに」

「知ってるんですか?」

「ああ、なんか最近シャドウミラー使えるようになったみたいで、初心者狩りやってるやつなんだよね。しかもレイヤーのパンツをこっそり撮る盗撮魔。店側もさっさと出禁にしちまえばいいのに」

「相手が女の子とか自分より弱そうなプレイヤーだとわかると、通話制限切ってずっと相手に下手くそって罵ってくる対戦ゲームには絶対いるクズの一人だよ」

「うわ……真凛の奴通話回線の切り方なんか知らないだろうな」


 こちらから相手のボイスをカットすることはできるのだが、初心者の真凛にはその操作がわからないだろう。

 どのゲームでも初心者狩りする奴は絶対いるからな。一番最初に嫌な奴に当たったと思えば……。

 と思ったが、なんでこっちが我慢せにゃならんのだと言う気になってムカムカしてきた。

 俺はまだ使用中になっている真凛のゲーム筐体をあける。

 ほんとはやっちゃいけないから真似しちゃいけないぞ。

 直後凄い振動で倒れかけた。

 真凛はVRヘッドセットをつけているので、俺が入って来たことには気づいてないみたいだ。


[下手くそ、こんな下手くそ見たことないでゴザルぅ、死んでしまうでゴザル、この腐れビッチが。お主なんて生きてる価値なんてないでゴザル、死ね、小生が天誅を下してやるでゴザル]


 真凛のVRヘッドセットから耳障りな声が聞こえてくる。

 俺はVRヘッドセットを上から取り上げた。


「えっ?」


 当然驚いてこちらを見る。


「か、梶君?」

「おぉ真凛ちょっとかわってくれ。今からそいつもう一回ボッコボコにするから」

「えっ? えっ?」


 俺は真凛とパイロットシートを入れ替わる。


「お前もここで見とけ」


 真凛を膝の上に乗せ、俺はスマホとビーストメダルをセットする。


[BEAST MEDAL SETUP!!]


 操作が止まり、こちらのレイジタイガーは止まっているというのに何もしてこない。完全になめプレイだろう。


[下手くそ、動かすこともできないでゴザルか? お主なんか生きてる価値ないでゴザル、雌豚ビッチが、小生に謝罪するでゴザル]

「誰に口利いてんだお前」


 心底低い声で音声を返す。


[あっ、誰でゴザルか?]

「うるさいんだよ只野康人」

[はっ? なななななんで小生の名を!?]

「さっき自分で言ってただろうが」

[貴様、先ほど小生を殴った暴力男でゴザルな! 小生が正義の名のもとに天誅を下す! 義は我にありでゴザル!]


 あぁもう、うるせーなコイツ……。


「もういいよ、いいからかかって来いよ」

[小生のレイジタイガーシャドウミラー必殺のウルトラデラックスダイナマイトボンバーは]

「そんな技ねーよ」


 盗撮魔が目の前で固まる。なぜならビーストメダルを使用したことで、真凛の無強化レイジタイガーが自分と同じシャドウミラーへと変化したからだ。


[ふざけるなでゴザル! お主、小生のシャドウミラーを使うなでゴザル! それは小生の持ち機]

「おらぁっ!!」


 一瞬で至近距離まで接近し、盗撮魔の顔面を殴り倒す。


[小生がまだ喋っ]

「独り言につき合わさせるなよ」


 前作からシャドウミラーを使い込んでる俺が、つい最近使えるようになった奴に負けるわけがない。

 間合いのとり方、射撃間隔、ビーストモードへの変形、どれをとってもお前なんかに負けるか。

 気づけば盗撮魔はサンドバック状態になっており、筐体後ろの観客から「まっくのうち、まっくのうち!」と声援が聞こえる。


[ふざけるなでゴザルゥゥ!]

「お前もういいから落ちろ」


 真凛をビッチ呼ばわりしたことは絶対許さんからな。

 盗撮魔のシャドウミラーはこちらに一度もダメージを与えることができず、そのまま爆発した。


「人に迷惑かけるくらいならやめてしまえ」

[ふざけるなよ小生の怒りが、もももももはや有頂天でゴザル!! ぶぶぶぶブチころでゴザルゥゥ!]


 うるせーなコイツ。煽ってくる奴って大体煽り耐性なかったりする。

 1ラウンド目が終わり、2ラウンド目が開始される。しかし、奴の機体はいつまでたってもステージに現れない。


「なんだ」

[はぁふざけるなどういうことでゴザルか! 死ね死ね死ね死ね!]


 なんか向こう側で盗撮魔が発狂している。ガンガンと筐体を蹴ってるか殴ってる音が聞こえる。その意味はすぐにわかった。

 こちらの画面に[対戦者のアカウントが永久凍結された為、バトルセレクトに戻ります]と表示されたからだ。


「アカバンされてやんの」

[ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな! キエエエェェェェェェェッ!!]


 相当の発狂具合だな。シャドウミラーって出すのって実はリアルマネーと、リアル時間をかなり食う変態級のプレイアブル機だしな。それが今全部パァになったわけだから。まぁ自業自得だ。


[ふざけるな! ふざけ……]


 なんかぶっ壊したのかノイズが凄い。


[お客様こちらに]


 盗撮魔と別の声が聞こえる。これは店員の声だろうか? そりゃあれだけ派手に暴れてたら店員も来るだろう。


[はぁ? なんで小生が?]

[筐体を破損させた弁償について事務所の方でお話しましょう。既に警察の方には通報済みです]

[…………あ、あの警察は勘弁してもらえないでゴザろうか]

[事務所の方へ]

[……はい]


 あっ、なんかすげー怖いことが聞こえる。

 俺は筐体から顔を出すと、盗撮魔はスーツ姿の怖そうな店の人に連れて行かれていた。

 まぁ盗撮魔で筐体ぶっ壊したら店もいい加減怒るだろう。

 よし、後は真凛とかわろう。

 そう思ってパイロットシートを立とうとすると、ハニワみたいに面白い顔で絶句している真凛の姿があった。


「どうした?」

「梶君、よね?」

「いや、そりゃそうだろ、なんでそんなことを?」

「な、なってるよ美少年に?」

「何を言ってるんだお前は」


 俺がかっこいいのは元からだろうと軽いボケを入れようと思ったが、真凛があまりにも口をパクパクさせて尋常じゃない様子なので、俺は振り返ると何も表示されていない360度モニターに見たこともない美少年が映っていて、今度は俺が絶句する。


「えっ……なにこれぇ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る