第103話 うるせー黙れ

 その翌日、一条は当然のように休みで、川島も欠席していた。

 休み時間背中から寄りかかってくる揚羽の体重を感じながらも、それを無視しつつ茂木と話をする。


「昨日五星館だけじゃなくて、他のゲーセンも回ってみたんだけど、やっぱ見つかんねー」

「えっ? 俺も昨日の夜五星館に行ったけど、その美少年来てたって聞いたぞ」

「えっ? マジで? 何時ごろ?」

「八時くらいだったかな」

「嘘だろ、俺その時間五星館いたよ!」


 どうやらその美少年と入れ違いになってしまったらしい。


「やっぱメタルビーストやってたのか?」

「らしいよ。そんで目撃情報通り、シャドウミラー使ってたって」

「マジかよ……もうちょっと粘れば良かった」


 千載一遇のチャンスを逃したかもしれない。


「今日俺も一緒に行ってやるよ」

「おぉすまんな」

「あっ、ウチも一緒に行きたいな」

「揚羽もミサミサの家行ったら行こうか?」

「川島も休みだったな」

「言いたかないが、このまま川島休みだったら自分が犯人ですって言ってるようなもんじゃね?」

「確かにな……でも今は先に一条をなんとかしてあげたい……俺のマイエンジェル」

「お前ほんと一条のことになると気持ち悪いな」


 背中にかかる重さが増した。最近揚羽の嫉妬度合いが凄くなってきた気がする。


「揚羽のこともエンジェルって言え」

「エンジェル(棒)」


 揚羽はボスボスと横腹を殴ってくる。


「愛してる」

「俺もお前のことは好きだ」

「付き合って」

「お友達で」

「う~~ライクの壁を乗り越えてラブにたどり着けない」

「梶君と白銀さんってまだ付き合ってないんよね?」

「親しいお友達です」

「ならウチもまだ割って入れる可能性あるってことやんね」

「う? う?」


 普通こういうのって、本人がいないときに言うものなのでは。

 真凛の背中に何か闘気じみたオーラが見える。

 しかし揚羽はそんなもの完全無視である。


「あっ、百目鬼ちゃんシェアする?」

「シェア?」

「うん、彼氏を貸しっこするの」

「えっなにそれ怖い(困惑)」


 ショッキングすぎて真凛は白目になっていた。

 女の子がそんな面白い顔してはいけませんよ。


「セフレとかでたまにするんだけど」

「セ、セフレ……」

「三人でエッチするの。百目鬼ちゃん絶対処女っしょ? 貫通するとき揚羽が手握っててあげる」

「いいいい、いらない! いらないから!」


 真凛は顔を真っ赤にして教室を飛び出していった。


「あら、冗談なのに」

「お前が言うと冗談に聞こえない」

「白銀って予想以上にすげーな……」

「ちなみにそんなことしてたの? セフレとか」

「えっ、してないよ? ほんとだって! めっちゃ疑ってるじゃん!」

「いや、別にいいんだがな」

「ほんとだってダーリンすねないでよ!」

「すねてねーし」

「ほんとそんなことしてないし! 信じてってばぁ!」

「はいはいご馳走様だわ」


 茂木はバカップル乙と授業の準備をする。


 学校が終わり、俺と茂木、真凛は五星館についていた。

 全員でメタルビーストの筐体前に立つが、やはり美少年とやらの姿はない。


「やっぱいねぇな」

「夜に来るみたいやし、もう少し待った方がいいんちゃう?」

「お前も間が悪いよな、二回も会いかけたっていうのに」

「そうそう、実はその美少年が一番最初に来店した日も俺ここにいたみたいなんだよな。確か爺に呼び出されて……」


 ざわ……ざわ……。

 この時俺の頭に電流のような閃きが駆け巡る。そうそれこそ悪魔的な閃き! 圧倒的閃き! 刹那的閃きぃぃ!!


「閃き閃きうるせーな」

「これ実は美少年って俺のことで、実はみんな遠回しに俺のことを言ってるんじゃないだろうか」


 それならば昨日五星館にいたことも、前にここでプレイしていたこともシャドウミラーが持ち機ということも、ランカーに名前がないこともつながる。天才かもしれん。


「いーからゲームでもして待ってようぜ」

「せやね。梶君は控えめに言って美少年とは違うと思うよ」

「それ控えめに言わなかったらどうなるんですか?」

「言ってほしい?」

「いえ、怖いんでやめてください」


 茂木と真凛と適当に対戦ゲームやレースゲームをして遊んで待つが、美少年が来店する様子はない。


「そこそこイケメンなら入って来るけどな」

「昔はゲーセンなんてヤンキーかキモオタのたまり場だったのにな」

「今は普通にカッコイイ人や可愛い女の子でもオタやってたりするからな」


 チラリと真凛の方を伺う。こいつもオタみたいだけど、眼鏡っていうパーツ以外ほとんどオタ要素ないな。

 どこかしらオタクサークルにでも入れば一瞬で姫ちゃんになれると思うが。

 そう思いながら真凛を見ていると、彼女もどこか遠くを見ている。

 視線の先を見ると、そこにはフリフリの美少女戦士衣装を着たコスプレイヤーがイケメンぽい彼氏とUFOキャッチャーを楽しんでいる。


「「チッ、リア充が……」」


 茂木と意見が完全に被ってしまった。


「あのキャッチャーの中に爆弾が入ってて、彼氏がはいとってあげたよって彼女にプレゼントした瞬間大爆発起こせばいいのにな」

「俺そこまで黒いこと考えつかねーよ。確かここコスプレして入店すると割引になるとか、そんなシステムあった気がするな」


 茂木に呆れつつも、真凛もあのようなカップル的な存在にあこがれていたのだろうか。


「あの女の子……」

「知りあいか?」

「いや、全然知らんねんけど、あの女の子の格好に覚えがあるようなないような」

「何かのコスなら元ネタ知ってるんじゃないのか?」

「う~ん、そういうんじゃないと思うんやけど……なんかひっかかるんよね。美少女戦士」

「実は真凛の消えた記憶の中で美少女戦士やってたんじゃないか?」

「そんなんありえへんよ。あんな格好恥ずかしすぎるわ」


 軽い冗談は比較的ウケたようで、真凛は笑っている。

 確かに美少女戦士なんてどこでやるんだって話だ。


「しかし魔法少女じゃなくて美少女戦士か」

「魔法少女と美少女戦士の違いってどこにあるんやろうね」

「一応あれの系譜は日曜朝のスパーヒーロータイムだろ」

「違うよ、あれはシークレットアッコちゃんやマリーちゃんが初代やで」

「そうなのか」

「それに日朝のリリキュアは正確には魔法少女や美少女戦士の派生ではないよ」

「あれ、ドレミファちゃんはどうなんだ?」

「おジョ魔女ドレミファちゃんはもう魔女って言ってるから魔法少女でいいと思うけど」

「真凛詳しいな」

「そりゃ今でも見てるか……」

「見てるのか」

「……み、見てへんよ」

「気にするな俺も今でもマスクドライダー見てるしな」

「あうあう……」


 俺は美少女戦士のコスプレイヤーを見据える。


「しかし、あの格好を高校生でするのはいけないお店のようだ」


 やたらと短いスカートからのびる脚にドギマギしていると、なにやら不穏な影が一つ後ろから近づいていく。

 バンダナに、チェックのシャツ、リュックサックを背負い、カメラをローアングルで構える、若いんだかおっさんなんだかよくわからん風貌の男は、美少女戦士をローアングルで盗撮しようとかがみ込んでいる。


「何かスゲーことしてる奴いるな」


 オタク風の男の性欲に呆れていると、真凛はカツカツと足音を鳴らして盗撮している男に近づいていく。


「ちょっとおじさん、良い歳してなにしてるん!」

「ヒッ、なんでゴザルか!?」


 真凛の叱咤に美少女戦士コスの女性と、その彼氏が事に気づき振り返る。


「盗撮しようとしてたやろ!」

「なんのことでゴザルか! 濡れ衣でゴザル! あーあーあーあーあーお巡りさん! この娘っ子が小生を侮辱するでゴザル!!」


 真凛が盗撮魔を咎めると、逆に騒ぎ始めたのだ。


「善良な小市民である小生がそんなことをするわけがないのに、この娘っ子は小生に罪をなすりつけて小生の人生を破壊しようとしている悪魔でゴザル! なんて酷い、何が目的か、金でゴザルか!!」

「な、なんなんこの人……」

「小生は只野康人、住所は……」


 唐突に自分の個人情報を暴露していく。ほんとなんなんだコイツ。


「小生は自身の身分を完全に明かしたでゴザル! これ以上なにか言うつもりなら弁護士を呼ぶでゴザル! この腐れビッチが!」


 コスプレイヤーの女性も、その彼氏も完全にドン引きで逃げてしまい、真凛だけが矢面に立たされてしまっている。


「そのようなふしだらな体で男を誘惑し、金をせびろうとするいやしき根性、小生は謝罪と補償を要求するでゴザル! ちなみに補償とはこのあと小生と二人でホテルで撮影会を」

「黙れ」


 俺はめんどくさくなったので盗撮魔のあごをグーで殴った。

 ストンと意識が落ちたようで、盗撮魔は後ろのめりに倒れて動かなくなった。


「だ、大丈夫なん、その人?」

「気にすんな、加害者の分際で被害者のツラするクソ野郎だからな」


 その証拠に、見てる方も誰一人として警察呼んだり、救急車呼んだりと騒ぎ立てたりしていない。

 店員も間近にいるのにずっと掃除して気づかないふりしてんもんな。


「梶、メタルビーストやろうぜ。もしかしたら美少年が乱入してくるかもしれない」


 どこぞに行っていた茂木が戻ってきて、盗撮魔が倒れていることに気づいたが無視した。

 さすが茂木、見えてる地雷には触らない。

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