第5章 救出依頼

第23話 ここで装備していくかい?

 俺達は新たに元乾軍のチャリオットを仲間に加えることができ、ある程度戦力と経済状況は改善してきたが贅沢ができない状況なのは依然かわらずだった。

 それに加えドロテア軍と一戦交えたことにより、今まではただの弱小チャリオットで狙う価値もなかったが、奴らが報復に来る可能性もでてきて、戦備の増強について考えさせられるのだった。


「王様食料調達にいってきます!」


 コボルト族のサイモンがどこで覚えてきたのかビシッと右手を額の端にくっつけ、敬礼して裏山へと入って行く。

 お供に数人のディーの私兵を連れているが彼女達も全員釣り竿や、山菜をとるための籠を持っていて、重要な食糧確保の任についている。


「ついているじゃないんだよな……戦備増強云々じゃなくて、いいかげん飯くらい普通に市場で買えるくらいにならないと……」

「身の丈にあわない贅沢をしていると自滅するにゃ」


 新たに加入した猫族、正式にはミューキャットのリリィが軽く言うが、彼女の元雇い主である王はそれが原因で内部分裂を引き起こし、攻めてきたドロテア軍に対抗できず滅ぼされてしまった。

 その為彼女の言っていることは言葉以上に重い。


「しばらくやってなかったけど、リリは結構こういう狩りとか好きにゃ」


  そう言って城の近くでとれたらしいボールマウスを得意げに見せる。

  ちなみにボールマウスとはバレーボールくらいでかいサイズのネズミのことで、まるまると太っていることからボールマウスと名付けられている。


「それ食うのか? 野ネズミだぞ?」

「ボールマウスは下水を住処にする汚いモンスターじゃないにゃ」

「それでもネズミ食うのは抵抗あるんだが」

「意外と美味しいのに、王様にはあげないにゃ」

「いや、いらんから食卓に並べるのはやめてくれよ」


 俺は食卓のど真ん中に並ぶボールマウスの丸焼きを想像して、少し気分が悪くなった。

 ネズミ食う辺りはさすが猫族と言ったところか。

 俺は城の補修工事の他に、城門近くに見張り櫓の建設に取り掛かっていた。

 今までそんなものなくても誰もせめてくることはないので、城の本来の目的である防衛面はおろそかにしてきたが、ドロテア軍が俺達を見つけて襲ってくる可能性は十分にありえる。

 完成間近の木製櫓は人二人が乗れば狭く感じるくらい小さいものだが、これでもあるとないとでは違うだろう。


「そちらにもう一つ組み立てる。ここからでは東側が死角になるから……」


 的確に指示を飛ばすディーは、こなれているようで二つ目の櫓建設に取り掛かっているようだった。


「組み立てるの早いな」

「これは王様、材料はサイモン氏が切り出してきたものが多くあったので」

「そっか。こことあとどこに建てるの?」

「はい、ここから東に……」


 ディーが説明しようとしていると、目の前の木陰から巨大な針を尻につけた昆虫型モンスターバンブルビーが突如飛来する。

 黄色と黒の縞模様の蜂型モンスターは鋭い針を突き出して、俺めがけて突進してくる。

 すぐさまディーが俺の前に割って入るが彼女も無手だ。

 全身に毒毛を持つバンブルビーを素手で叩きのめすことは難しいし、毒にやられれば三日三晩寝込むほどの高熱に襲われる。


「危ない!」


 割って入ってきたディーの肩を引き倒す。

 二人の頭上をバンブルビーが猛スピードで通り過ぎる。


「困ります王。私は貴方を守る盾ですので」


 はっとディーは自分の肩が抱かれていることに気づき、一瞬顔を赤らめる。

 だが即座に嫌な羽音をたててバンブルビーが急旋回して戻ってくる。

 何が何でも俺のことをケツの針で突き刺したいらしい。

 奴から絶対にお前を刺すという強い意志を感じる。

 ちなみにバンブルビーは一発針を刺すと絶命するが、刺された相手は毒毛以上の猛毒におかされることになる。

 なぜそんな自身の致命技を容易に使ってくるのか昆虫モンスター最大の謎である。


「やばい!」


 回避行動をとろうにもバンブルビーの方が圧倒的に早い。

 近くにいたディーの私兵たちが弓と剣を慌てて引き抜くが、乾いた銃声がダダダっと音をたてて響くとバンブルビーは体を穴だらけにされて空中からぼたりと落ちた。

 音の方を振り返ると、ロベルトが右腕のマシンガンにふっと息を吹きかけ硝煙を飛ばしながら、俺の方に近づいてくる。


「危なかったな」

「すまない助かった」

「まぁワシが助けんでも、そっちのお嬢さんがなんとかしてただろうがな」


 見るとディーの手が淡く光っており、何かしら魔法で手を強化しているようだった。

 そっか、ディーって魔法使えるから別に俺がでしゃばることなかったんだなと反省。


「王、先ほども言いましたがお気持ちは嬉しいですが、私は王の盾ですので、盾の身代わりに王がやられては本末転倒です」

「そう言うなって男ってのは女の前じゃカッコつけたくなるもんなんだよ。だろ小僧?」

「う、うっす」

「ロベルトさんも王様めがけて射撃は控えてほしい。間違って王に当たれば誤射ではすまない。それに王のことを小僧というのもよくない」

「小僧は小僧だろ? なぁ小僧?」


 そりゃ何年生きてるのか知らないがロベルトさんに比べりゃ俺なんて間違いなくガキだろう。

 融機人の寿命はエルフに次いで長いと言われており。推定でもロベルトさんは百歳以上だろう。


「ありがとうロベルトさん」

「ロベルトだ。王が下のもんにさんづけなんかするんじゃねー」


 俺なんか毎度言われてる気がする。


「すまないロベルト」

「そりゃ構わんが小僧、お前いつも手ぶらなのか? さすがに護衛を信頼してるとはいえエモノくらい持った方がいいぞ」

「それに関しては私も賛成だ。この人数では確実に警備に穴が開く。大規模のチャリオットでも王が武器を持つことは当たり前だ」

「何か持たないだわりでもあるってのか?」


 単に金がなかっただけである。


「いや、そういうわけじゃないんだが」

「なら買ってきた方がいい」

「自分に合う武器っていうのがな」

「確かに小僧の細腕じゃ大剣なんかは無理だな」

「ショートソードやサーベルなどは扱いやすいですよ」

「メイスみたいな鈍器ってのもあるが、小僧じゃ使えんか」


 そう、俺の圧倒的STR(筋力)不足である。

 かと言って魔法使いのようにMPがあるとかそんなことはない。

 フラッシュムーブも大規模な移動になるとせいぜい2回か3回程度しか行うことができない。

 おかしいな俺ルー○でMP切れおこしたことってあんまないんだけどな。

 普通異世界ものなら何かしら特殊能力とか身に着けててもおかしくないんだけど、とメタなことを考えるが、今時無能力で異世界に放り込まれたんだが質問ある? とか、そんな内容のラノベも珍しくないだろう。


「まぁとりあえず行って見てくるか」

「あっ、咲あたしも行きたい!」


 どこからともなく現れたのはビキニ姿の戦士、オリオンだった。


「あぁちょうどいいや、お前もいい加減その格好やめさせようと思ってたんだ」

「えっ、動きやすいからこの格好はやめないよ?」


 バカなの? 死ぬの? と小首を傾げるオリオン。


「ちょうどバックラーが壊れちゃったんだよね」


 そう言ってオリオンはいつも背中につけている丸い木製のショートバックラーを見せる。

 バックラーは見事に真っ二つに割れており、修復するのは不可能そうだった。


「どうやったら真っ二つに割れるんだ」

「いや、ゴブリンがいたから円盤投げの要領でぶん投げたら石に当たって割れた」

「バックラーはフリスビーみたいに投げるもんじゃありません」

「フリスビー?」

「お前みたいなのがキャンキャン言いながら追っかける円盤だ」

「なにそれ楽しそう」


 俺はバ可愛いオリオンを連れてラインハルト城下町へと向かった。

 やはりフラッシュムーブがあると移動は格段に楽で、時間をかけて行く必要がない分有意義に時間を使うことができる。

 俺はまずオリオンの装備の新調を行い、その後で自分の武器を見て回る。


「やっぱりいいものはそれなりに値がはるな」

「あんまケチんなよ金持ちになれないぞ」

「世の金持ちはケチってるから金持ってんだよ。それに高いものを高いと思う感覚がないと金なんかたまらないぞ」

「でも、そのわりにはあたしにはいい装備買ってくれたね」


 オリオンにも何か新しい武器を買ってやろうかと思ったのだが、結晶剣が思いのほか頑丈なので壊れたバックラーを木製のものからミスリル製のものへと新調し、グローブとブーツも革製から鉄へと新しくなっていた。

 胴は相変わらずビキニのままだが……。


 オリオン

 武器 結晶剣 

 盾 ミスリルバックラー

 頭 水晶のピアス

 胴 戦士のビキニ 上下

 手 鉄のガントレット

 腰 革のベルト

 足 鉄のブーツ 


「お前胴装備の防御力1くらいしかないからな。盾くらいは奮発してやった」


 ミスリルシールドは他の鉄の装備に比べて値が張ったが、胴鎧を買わないことを考えればこれくらいはいいだろう。


「うん、すごく嬉しい」


 そう無垢な反応を返されると、俺も買って良かったという気になるものだ。

 少し移動して、今度は俺が使う武器を見て回る。

 ちょっと前までは武器は安売りのものしか買えなかったのだが、今では普通の武器屋に入ることができるようになり、この世界でもそこそこやっていけてるんだなと実感する。

 俺達が訪れたのは武器職人が経営する、工房と一体型になった武器屋で、値段はそこそこ張るもののたしかな品質が約束された店だった。

 ずらりと店内に並ぶ武器を見て、まさかこんな剣や斧を振り回す日がくるなんてなぁなんて今更なことを思う。

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