第24話 再会は意外とはやく

「おっ、これとかどう? グレートアックス。どんな硬い敵でもぶったぎれるぜ」


 俺は持てるわけないのだが、一応オリオンの持つ武骨で巨大な斧を受け取る。


「よっ、おっ……」


 予想通りそのままよろけて、一本千ベスタで安売りされている剣立てをひっくり返し店主に平謝りする。

 剣を片付けている最中、この中に伝説の剣でも入ってないものかと思う。


「ラノベならここで喋る伝説の剣とか見つかるんだが」

「そんなキモイ剣いらないだろ」


 伝説の剣をキモイで一蹴しよって、これだからファンタジーのわからんやつはと思ったが、ここファンタジー世界だったわ。


「じゃあこれは? 蛇腹剣、なんと刀身にワイヤーが仕込んであって鞭みたいにしなるんだぜ」

「確実に自分の手首切り落とす方が早いわ。お前は使ったことあるのか?」

「任せろ、あたしに使いこなせないもんなんてないね」


 そう言ってカッコよく蛇腹剣を振り回すオリオン。まるでカンフー映画のヒーローが扱うヌンチャクのように刃と鞭が一体化した剣を使いこなす。

 こいつ意外と器用になんでもやるな。とてもRクラスとは思えない。

 これを口に出したら多分丸三日は口をきいてもらえないだろう。


「よっ、はっ、てやっ!」

「おーおー、わかったからそんな振り回すな。リーチ長いんだから危ないだろ」

「助けて咲! 止め方がわからない!」

「はっ?」

「止めると多分、そのまま勢いがおさまらなくてあたしの手首が落ちる!」


 そんな涙目で言われても困る。


「えー!? そのままゆっくりにできないのか?」

「無理! 勢いつきすぎてマジでやばい!」


 ぱないの! とブンブン振り回される蛇腹剣。


「ちょ、ちょと待て!」

「もう無理!」


 オリオンは荒れ狂う刃物付き縄跳びみたいな武器を手放してしまい、そのまま蛇腹剣は凄い勢いで回転しながらスコーンと良い音をたてて、店主の真横にある壁に突き刺さった。

 店主が半歩でも動いていれば、顔面に突き刺さっていただろう。


「お客さん、いい加減にしてくださいよ」


 ドスのきいた店主の低い声が響く。怒りから頭には青筋が浮かんでいて、そのうち筋肉質な店主のグーが飛んできてもおかしくない。ほんとすみません。

 これは何か買わないと、この武器屋のブラックリスト入り間違いないだろう。


「となるとショートアックスとか、デスクローみたいな悪者みたいな武器になるんだけど」

「悪者も別に見た目悪そうだから使ってるわけじゃなくて、使いやすさと破壊力で選んでるからな」


 確かにショートアックスは軽くて扱いやすく。リーチが短い点を除けば恐らく一番良いと言ってもいいかもしれない。


「これにしとくかぁ?」


 値段も手ごろ、使いやすさも手ごろだし。いざってときに頼りなさげだが、薪割りにも使えそうである。

 ようやく俺がこれに決めるかと思ったとき、一つ目を引くものがあった。


「なんだこれ?」


 紋章が書かれた手袋である。真っ黒な生地に手の甲の部分に白字で円形の紋章が描かれている。


「あぁ火蜥蜴の種火か」

「なにそれ?」

「魔法の才能がなくても火の加護で炎系魔法が使えるようになる」

「なにそれ超凄いじゃん」

「炎系といっても火球を投げるか掴んだ相手を燃やすくらいで、両方あんまり使い勝手がよくない。零距離で燃やすと自分が熱いし。それに決定的な弱点があるよ」

「弱点?」

「水に濡れると種火がおこせなくなって使えなくなる。すんごい湿気に弱い」

「あーなるほど」

「ありあしたー」


 さらっと会計をすませて、俺は右手に手袋をはめながら武器屋の外に出る。


「あたしの言ってたこと聞いてた!?」

「水に濡れなきゃいいんだろ?」

「あーもぅ!」


 オリオンは再び武器屋に入ると何か抱えて戻って来た。


「ほら、そんなとんがったもの使わずにこれ使えよ」


 オリオンが手渡してきたのは軍刀と呼ばれる片刃のサーベルだった。


「あっ、これいいなって思ってたんだ」

「やっぱり。これにしとけばいいのに」

「いや、でも火を出せるんだぜ? ロマンがあるだろ」

「それなくてもスキルで出せるだろ?」


 あんなちんけなマッチか100円ライターみたいな火は魔法と呼ばん。


「てか、お前どうやってこれ買ってきたんだ?」


 そう言って差し出される俺の財布。気づかぬうちにスられていたらしい。

 どうやら結局自分の金で買ったようだ。


「うわ、結構減ってる」


 俺が出費にげんなりしているが、オリオンは嬉しそうに俺のサーベルを眺めている。


「しゃーねー、返品しに行ったら今度こそ店主にぶん殴られるだろうしな」


 スッと鞘から剣を引き抜くと、銀色の美しい刀身が日の光を反射して煌めいていた。

 軍刀とも呼ばれる、現在主流となっているロングソードとは違い、刀身が少し反っていて片刃になっており。長さも少し短い。


「咲はもしかしたら弓とかの方が良かった? 力ないし」

「全くでもってその通りなのだが、強い弓はそれはそれで筋力がいる。銃くらい簡単に火力がでるものならいいけど」


 銃など撃ったことないので完全な憶測なのだが。

 せめてボウガンくらいでないと俺が取り扱うのは難しいだろう。弓はまっすぐ飛ばすのすら難しい。

 その点を考えると、力で押し切るロングソードではなく、切れ味を重視したサーベルの方が俺には合ってると言えるだろう。


 そのままいつも通りステファンギルドに寄っていくかと思い、ギルドの近くを通ると、焼いた肉の良い匂いが漂ってきた。

 途端に腹の虫がわめきだす。


「なぁ咲、金もってんだろ? 肉食って帰ろうぜ」

「だーめ、これは今後の活動資金なの。しかも今日結構使っちまったし」

「ちょっとくらいいいじゃんケチー、芋と魚と米じゃいい加減飽きたぞ」

「なんとでも言うがいい」

「鬼、悪魔、ブサメン、甲斐性なし、ジャガイモ野郎」

「言いすぎだろお前!」


 オリオンのほっぺをムニムニとつねりながらも、彼女の言う通り、ウチの台所事情を改善する必要があるのは間違いない。

 サイモンが頑張って作ってくれているのはありがたいが、いい加減俺も毎日かわらない献立では嫌気がさす。


「そうなると家畜を飼う必要があるんだが……」

「金あるんだし、牛飼おう」

「気楽に言うが家畜を飼っても育てられる人間がいなければ意味がない。飼って増やせなければ普通に加工された肉を買った方がいい」

「サイモンに育てさせればいいじゃん」

「もう完全に雑用として見てるが、一応あいつはあれでも戦士だからな。それに飼育経験のない人間に飼わせても病気にかかったり怪我をしたときには殺しちゃうだけだからな」

「そのときは食おう」

「お前は病気の肉を食う気か」


 何か良い案はないものか。

 俺が立ち止まって考えているとオリオンはフラフラとステファンギルドの中に入って行く。


「あっ、おい」

「肉食わせろー!」

「あぁ、もう」


 俺もオリオンに続いてステファンギルドの中に入る。ギルドと酒場を兼ねている為、良い匂いがするのはいつものことだったが、俺もオリオンも肉はとんとご無沙汰だったのだ。


「腹減ったぞ」


 酒場を物欲しげな目で見ているオリオン。段々可哀想な子に見えてきた。


「…………誰にも言うなよ」

「当たり前だ、あたしの口の固さなめんなよ」

「お前ソフィーのチーズパンがめって、口の周りチーズまみれにしながら犯人なんて知らないよ? って言ってたの忘れてないからな」

「大丈夫だって!」


 などと言いつつも俺達はステファンギルドの奥にある酒場へと入る。

 すると飯を食いにきたはずなのだが、ギルド職員の小太りのおっさんが俺を見て顔をほころばせながら手招きする。

 おっさんに呼ばれる趣味はないのだが、と思いつつギルドカウンターへと向かう。


「咲、そんなのいいから飯食おうぜ!」


 グイグイと服の袖を引っ張るオリオン。


「付き合いってもんがあるんだよ」


 俺は金貨を一枚親指で弾いて、オリオンに渡す。


「先に始めてろ」

「ヤホーイ!」


 オリオンは大喜びで金貨を握りしめて、酒場の四人席を占領する。

 俺も肉食いたいのだがと思いつつ、ギルドカウンターに向かう。


「いやー、ちょうどいい時にいいくらいのが来たよ」


 人を格安タクシーみたいに言うんじゃない。

 よく見るとカウンターにはローブを着た女性がいて、どうやら緊急の依頼のようだった。


「おじさん、俺達依頼を受けにきたんじゃなくて、飯食いに……」


 カウンターの前でローブの女性の顔をチラリと伺うと、そこにはつい先日見知った顔があった。

 ツインテで気の強そうな目をした、吟遊詩人の少女フレイアだった。

 今日は母親はいないのか一人のようだった。

 少女は俺以上に驚いているようで、指をさしながら口をパクパクと動かしている。


「あ、あんたは貧乏王!」

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