第12話 王の違い

 その夜俺は星空を眺めなら温泉に浸かっていた。

 先に使っていいと言ったのだが王様が一番にどうぞと言われて入っているのだが、既にサイモンの後だしなと思いながらも、噴き出した間欠泉をきっちり温泉の形にしてくれたサイモンに感謝する。

 乳白色の湯を顔にかける。やはり熱い湯に入れるというのはいいものだ。体を拭くだけとはわけが違う。


 とりあえずサイモンの温泉街にするという案は実行に移すつもりだが、今のところは城の補修やこの裏山の整備、モンスターを討伐することが必要な為一旦保留とし、自分たちだけで使うこととなった。


「温泉街に整備するならもっと人手がいるな。温泉だけじゃあれだし飯食う場所とか、ここで店開きたいって言われた時の土地の確保と入浴料に、土地代、税収をどう設定するか。いや最初は税収なしにして大量に人を呼び込んだ方がいいのか? いやでもそれだと四十人そこそこの俺達じゃ回らなくなるだろうし、人が増えれば治安面も出てくる。それに土地の価値が上がれば他の王の標的にされることもあるだろうし、あっ温泉の維持に人さかないと、雨ふったら困るし屋根だけでも先に……ブクブクブクブク」


 湯船に顔を埋めながら、わぁ俺王みたいなこと考えてると思ってちょっと笑ってしまった。


「し、失礼します」

「は、はいるぞ」

「失礼」


 ん~? なんかポカポカして眠くなってきたぞと思って思考を放棄しようとしていると、声がして振り向く。そこにはビキニ姿の三人娘の姿があった。


「おぉ、入るのか?」

「な、なんでお前はそんなに冷静なんだよ」

「そうですよ、せっかく勇気をだしてきたのに!」


 オリオン達が何やら怒っているが、ビキニ姿が私服みたいな奴らなので、今更そんな姿見慣れたわ。


「とりあえず全員入るなら水着禁止な」

「えっ」

「え~っ」

「王様命令な」


 珍しく王様特権を使うと、彼女達は湯気に隠れてささっとビキニを脱ぐと急いで湯船の中に飛び込んできた。

 ドボンッと水しぶきがあがり、湯気が舞い上がる。


「エッチ~」

「スケベ」


 オリオンとソフィーから非難を浴びるが、お子ちゃまどもめディーを見習え、完全に恥ずかしいものはないと言いたげじゃないか。


「なんかディーの周りだけ湯気こくない? なにそれ規制? 規制とか自分で使えるもんなの?」


 やたらと白いディーに俺が非難の声を上げる。


「ま、まぁ湯気くらい気にしないでほしい」

「あの人、火と水の魔法を同時に使って湯気を濃くしてます」


 ソフィーに簡単に見破られ、うぐっと声を上げるディー。

 ディーでも恥ずかしいもんは恥ずかしいんだな。

 それならなんで入って来たのか。

 てか、その体のどこに恥ずかしいところがあるのか。


「今日の礼をと思ってね」

「ま、まぁ助けられたのは事実ですので」

「咲、あの結晶剣そのまま使っていい?」


 三人で同時に喋るんじゃありません。


「剣は好きにしろ、壊すと修復きかないから大事に使え。助けたのは別に気にするな。王よりEXの方が価値が高かっただけだ」

「咲は毎回そんなこと言いながら助けてくれるから好き」


 オリオンはすっと温泉の中を近づいてきて、いつもとかわりないように膝の上に尻を降ろす。


「お前この態勢はかなり危ういぞ」

「なーにがー?」


 すっとぼけやがって、顔赤くなってくるだろうが。

 オリオンは別にいいか、背中に肉が乗ってくる重みを感じる。

 ぺったりとはりつく柔らかな肉、しっとりとして自分以外の体から雫が零れ落ちてくる。

 背中に巨大なスライムが二体、膝の上に水餅みたいなプリンとしたものが二つ、これで反応しなかったら男としてどうなんだと言われる状況に陥っていた。


「おい、前は潔白ではないと力を発揮できません、云々かんぬん言ってたんじゃなかったのか?」

「潔白とは心の持ちようだと思っていますので、きっと肉体とは関係ないと思います。主は言っております快楽には勝てぬと」


 お前の主ダメ神すぎるだろ。


「王は好かれているんだな」


 その様子を見てディーが何故か嬉しげに目を細める。


「仲は良いよね」

「ま、まぁ悪いよりかはいいと思いますが」

「私のいたところは王と何かするということはなかったよ」

「バラン王のことか」

「あそこは完成されていたから、王は不可侵であり神聖であると」

「バカ言うな、王なんて肩書だけで普通の人間だ」

「あぁ、王といてそれを強く感じる。人間味あふれていて、それでいて仲間を信頼している。君がやれると言えば彼女達は応えてくれる、とても良い関係だ」

「バラン王みたいに戦士が多くないからな」

「そうだね、でもバラン王とはきっと人が少なくてもこういった関係にはならなかったと思う。あの方は孤高であった。今思えば我々が勝手に孤高にしてしまっただけかもしれないが」


 ディーは湯船からあがると、火照った体を夜風で冷ましていた。湯気邪魔、とても邪魔、凄く邪魔。


「なんか昔の男を忘れられない女みたいになってんぞディー」

「ふふっ、そうかい? でもバラン王は女性だよ」

「えっマジで?」

「大分高齢だったけどね。お守りできなかったのは私の中で一生の後悔になるだろう」

「そっか……」

「咲、お前はあたしが守るから大丈夫だ」

「わ、私も、はい、……守ります」


 ありがたいことだともう一度星空を見上げる。


「あのさ辛いことかもしれないけど、バラン王はなんで負けたんだ? 強さ的にはドロテア軍と大差なかったと思うんだが」

「内通者がいてね、ドロテア王が攻めてくると知った時に戦力増強の為に何人かお金で雇用したんだよ。その時にドロテア側のスパイが混じっていた」

「スパイか……。それを防ぐのは難しいな」

「戦争前に急きょ召喚以外で雇用しなければ大分防げるとは思う」

「戦争前に急きょ雇用……」


 はて、どこかでそんなことしていたような。


「あまり湯につかっていてはのぼせてしまう。後の子もいるので私はそろそろ上がるよ」


 ディーがそのまま立ち上がった瞬間強い風が吹き、彼女のまとっていた湯気が全て吹っ飛ばされてしまった。

 夜空を背景にディーの白く美しい肢体が露わになる。細く長い手足にくびれたウェスト、それでいながら尻と胸の自己主張は激しい。

 いつもビキニアーマーで見慣れているとはいえ、やっぱりディーの胸は大きい。

 俺が見惚れていると後ろから目を潰さんかとする勢いで目を押さえつけれる。これはもうアイアンクローに近い。


「痛い痛い痛い! 不可抗力! 俺悪くない!」

「見る方が悪いです」

「うん、ギルティ!」

「そんな理不尽な!」


 司法はないのか!

 ディーも怒るか悲鳴を上げるかするかと思ったが、優しい声でサービスだ。と言って温泉を上がって行った。

 さすがディー、見られてもそのキャラでくるか。

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