第2章 三人のディー
第6話 スカウト
「やりました! 今日は一人で倒せました!」
訓練がてら、俺達チャリオットは城の裏山で魔物退治の仕事を行っていた。
ギルドからの依頼で、大した額の仕事ではなかったがソフィーの特訓には丁度良かった。
ソフィーは巨大なハルバートでゴブリンと呼ばれる、ちっさいおっさんみたいな魔物の頭を次から次へとかち割っていく。
ギャースと声を上げ、白い灰になっていくゴブリン。ゴブリンが死ぬと俺のスマホに映っている討伐数が一体ずつカウントアップされていく。
一体どういう原理で倒したモンスターとこのスマホのアプリが連動しているのかさっぱりわからん。
「ソフィーこの前の甲冑の幽霊だせないのか?」
「なにそれ?」
オリオンがまだ昼前なのに昼食予定のおにぎりをかじりながら、話にも食いつく。
「前酒場でバイトしてきたって言っただろ? その時ゴロツキに襲われたんだが、ソフィーが謎の力で撃退した。多分特殊能力だと思うんだが」
「へー、強かったの?」
「一撃で五人をKO」
「私の祈りが神に届いた時に、かの力は顕現されるのでしょう」
「そんなんいいからはよ見せて」
「そんなんて!?」
オリオンのぞんざいな扱いに怒りながらも、ソフィーは手を組み祈りのポーズをとる。
「主よ、今一度守りの力を」
しかし一向にヘヴンズソードが現れる気配はなかった。
「しゅ、主よ……」
「主不在なんじゃない?」
神お出かけ中かよ。
「おかしいですね、私の祈りが足りないだけかもしれません」
「ソフィーの能力ってこの前のが初出じゃないよね?」
「えぇ、子供の頃野犬に襲われた時に、同じよう祈りを捧げると」
「出てきたと」
てことは危機的状況にならないと出てこないとか、そういう条件発動系な気がしてきた。
それに祈りが関係あるかはわからないけど、甲冑の背中に天使みたいな羽が生えてたから関係はありそうなんだが。
「なんにしろ自由に発動できるもんじゃないってことか」
そりゃゴブリン倒してやったーって喜んでるくらいだもんな。あんないかにも超必殺ぽいの自由には使えないんだろ。
ゴブリンをあらかた倒し終え、俺がスマホを見るとギルドからの依頼を完遂しましたと表示されている。
依頼の終わりを確認していると、城の方からサイモンが焦った表情で走ってくる。
「王様ー、大変ですぞー、城の壁が壊れました!」
「なぬ、ボロいボロいとは思っていたが崩壊が始まっているレベルだったか……。直せそう?」
「資材などは自力で調達したものがありますが、それをちゃんとした石材や木材に加工していないので」
「加工したら修復できそうか」
「はい、ですがそれにはかなりの人手を要します」
「俺らまだ七人しかいないもんな」
全員で補修工事にあたるわけにもいかないし、実質的に動けるのは二人……、多くて三人か。それじゃいつまで経っても城は直らないだろう。
帰る手段を探すより先に城が崩れて住む場所に困るんじゃないか……。
困った、たくさん人を入れたいが先立つものがない。
「了解、とりあえず危ないから近づかないように目印だけつけて、壁はそのままにしておいて。修理素材の加工は手があいたときだけでいいよ」
「了解しました!」
サイモンはきびきびとした動きで城の方に戻って行く。
さてどうしたもんか。
「とりあえずいくつか終わった依頼もあるし、その分の報酬を換金しにいくか」
その時に雇用できそうな人間がいたら考えよう。俺とオリオンとソフィーは三人でラインハルト城下街へと向かった。
「畜生せっかくの積み荷が」
「許せねー!」
城下街のすぐ近くで、馬車から下りて憤っている商人と、衛兵の姿が目についた。
俺は衛兵に何があったのか聞くと、山賊の被害にあったようで、積み荷を半分ほど奪われたらしい。
「半分ってまた中途半端だな」
「あんまり好きなものじゃなかったんじゃない? 瓜とかマメとか」
お前と一緒にするなよと、オリオンを半眼で見ながら、最近治安が悪くなってきて山賊の被害が頻発しているらしい。
凄く強い奴が山賊になったらしく、城も対応に困っているとのこと。
「大変だな、そのうちギルドの依頼にでてきそうだ」
そう思いながら城下街、ステファンギルドに入ると、やたらに混んでいて何事かと思わせる。
「戦士……じゃないな、ありゃ東のワダツミ王に、北で有名なブラウリース王……なんでこんなに王がいっぱいいるんだ? しかもでかい領地をもってる奴らばっかりだな」
俺は首を傾げながら身なりの良い他の王を眺めつつ、ギルドのATMで換金を終える。
せっかくなのでギルドのカウンターで何か良い依頼はないか話を聞いていくことにした。
カウンター越しのおじさんは、眼鏡のつるを持ち上げながら、紹介できそうな依頼書を漁っている。
ギルドからの依頼はスマホでも確認できるが、ギルドに直接行った方が新しい依頼が見つけやすいのだ。ここのギルドがスマホのアプリに更新をかけているかは謎だが、ギルドに依頼書が届く、ギルドが受理する、アプリの方に反映されるという流れになっているようで、実はアプリの依頼は一日遅れだったりするのだ。
「てめーふざけんなよ!」
「ふざけてんのはテメーだろうが!」
カウンターの中年男性と話をしていると、ギルドの外で、また何やらトラブルがおきているようだった。
「街の中でもか」
「最近治安が悪くなってね。山賊やはぐれ戦士でいっぱいなんだよ。バラン王のこと知ってる?」
カウンターの男性はやれやれと言いたげに、ギルドの出口の方を見る。
「バラン王ってこの近くにでかい領地を持ってる王でしょ?」
「そう、バラン王二日前に他の王に倒されちゃったのよ」
「えっ、そうなんですか?」
中年男性は現在誰がどこの領地を持っているか、簡単に色分けした地図を取り出す。
「これまだ修正前なんだけどね、この緑のところが全部バラン王のだったのよ」
地図にはラインハルト城下街を中心として、台形のような形をしたこの大陸がのっている。大陸図は様々な色で色分けされ、左端にどの色が何王なのか注意書きがされていた。
ちなみに俺の城も地図にはゴマ粒みたいな大きさだが、赤の点で領地としてのっている。
今更ながら俺の領地超小せぇ、まぁ城と裏山の分しかないので当たり前なのだが。
問題のバラン王の領土は、ラインハルト城の南に大きく緑色で書かれていた。英字のCみたいな形をしており、東に大きな黄色の領地、西に様々な色の小さな領地があった。バラン王の領地は丁度黄色の領地を侵入させない防壁のような形をしていた。
「このすぐ隣のドロテア王にまるっと吸収されてしまったわけ」
「あぁ隣接してましたもんね、いつかは戦闘になると思ってましたよ」
黄色で書かれたドロテア王の領土はバラン王の緑の土地と被っていて、常に小競り合いがあったと聞く。
恐らくドロテア王から見たら、西に進軍するのに邪魔でしょうがない領地だったに違いない。
「バラン王とドロテア王は仲が悪いことでも有名だったしね、いつかはこうなると思ってたよ。まぁ王同士の潰しあいはよくあることだけど、バラン王くらい大きなチャリオットになると所属している戦士の量も凄く多いんだ」
「でしょうね、あぁなるほど、バラン王の戦士達が行き場をなくしてるわけですか」
「そういうこと、そういった王をなくしたはぐれ戦士達が山賊化したりして治安が悪くなってるの。職を求めてこの城下街にもいっぱいなだれ込んできてる」
「召喚された戦士達って王なしで召喚元に戻せないんですかね?」
「あまり詳しくないけど戻せないらしいよ。徒歩で帰るしかないみたい。そもそも違う大陸から呼び出された人はもう帰れないよね」
「ですよね」
この大陸は海に囲まれており、他の大陸と行き来する船が年に一度、しかも超高額な運賃でしか運行していないのだ。
「バラン王の戦士か、強い人が多かったんでしょうね」
「おや、知らないのかい? バラン王のチャリオットを最強と言わしめた戦士、確かディーっていう戦士がラインハルト城に士官するためにここに来てるって。それをスカウトする為にこの街に王が集まってきている」
「なるほど」
「確かディーも召喚された戦士でレアリティはEXらしいから、それで皆目の色かえてるんだろうね」
EXとわかっている人物がスカウトできるチャンスなのか、そりゃ躍起にもなるだろう。
まぁどうせ俺なんか相手にもされないんだろうが。
もう一度辺りを見回すと、どいつもこいつも強そうな奴らばっかりだ。少なくとも護衛にSレア以下をつけてる王はいなさそうだ。
「何諦めてるんだよ、お前も行けよ」
俺の脇腹をどんと肘でつくオリオン。
「あら珍しい、行かなくてもいいって言うと思ったのに」
「EXが一人いるんだ、一人も二人もかわるかよ」
戦力的には大違いなんですけどね。
「まぁあたしもどうせふられると思ってるから、ふられるところが見たい」
性格悪いやっちゃな。
「まぁ見るだけならタダだし、行くか」
俺は二人を連れて、城の方に向かって歩き出した。
ディーの正確な場所は聞いておらず、城の方にいったら会えるだろう的な気持ちで歩いていたら当たったようで、周りにどんどん王が増えてくる。
「うわぁ、どいつもこいつも強そう」
「いずれ倒すんだろうが、気合いで負けるなよ」
ごもっとも、いかついハンマーを担いだ筋骨隆々な戦士や、いかにも怪しげな髑髏つきの杖をもったドルイドに、細見で一見優男に見えるが眼光は鋭いエルフなど様々な奴らが揃っている。
それだけディーという戦士が注目されているのだろう。
「ディーさんってどのような方なのでしょうね?」
「きっと美少女だよ」
「チャリオットをまとめるやつでしょ? ムキムキの髭オヤジだよ」
俺とオリオンの予想図は全く違う、いや俺も多分オリオンが言うようにムキムキオヤジ系だと思うが、かすかな望みをかけてだね。
城へは長い上り坂が続き、はるか奥の方に見える城門の前には多数の人間が集まっているのが見えた。
やっぱり何かやってるなぁと思っていると途中で人と肩がぶつかる。
「いてっ」
「いったいなぁ、どこ見て歩いて……なんだお前かよ」
顔をあげるとそこにくせっ毛イケメンの乾の姿があった。珍しく慌てていたようで、いつも人を小バカにした笑みではなく、軽く息を切らし額に汗をにじませている。
「お前もディー目当てか?」
「お前もって、もしかして咲もかよ。やめとけ、お前のとこみたいな弱小チャリオットが加えられるような戦士じゃない」
弱小と言われて突っかかりそうになるオリオンを手で制する。
「そりゃそうなんだがね、やってみないと可能性は0だし」
「やっても0は0だよ。ディーはウチが貰うから、絶対に。僕急いでるんだ先行くよ」
そう言い残して乾はまた慌てて城門の前に走って行った。
「あいつなんであんなに焦ってるんだ?」
俺が首を傾げていると、後ろからエーリカさんがやってきた。
「すみません、マスターを見ませんでしたか?」
「あっ、エーリカさん、乾なら今さっき全力ダッシュで城門の方に走って行きましたよ」
「そうですか、ありがとうございます」
礼をして、行こうとするエーリカさんを呼び止める。
「あのすみません、乾のやつ凄く焦ってたみたいなんですけど、何かあるんですか?」
「…………」
エーリカさんは一瞬迷ったようだが、口を開く。
「今回の件でバラン王の領土がドロテア王の領土にかわり、次にドロテア王の領土と隣接しているのはウチなのです」
「!」
「恐らく次に攻められるのは我が城ではないかと危惧していまして」
「それで……」
「すみません、私も急ぎますので」
「呼び止めてすみません」
エーリカさんはまた会釈して坂を上っていく。
俺はスマホを取り出して、領土図を開くと既に更新がかかっておりバラン王領土が消え、ドロテア王領土になり、そして隣接する領土に小さな領土が三つほどあった。その中の一つが乾の領土だった。
「この一つが乾のだったのか」
三つのうちに一番最初に攻められるかはわからないし、そもそも攻めてくるかもわからないが楽観視できないのは間違いないだろう。バラン王との戦いでの傷を癒したら攻め入ってくる可能性は高い。
今まで王対決は他人事のように思っていたが、いざ自分の知り合いがそういった状況になるとどうしていいかわからない。
「大丈夫か、咲? お腹痛いか?」
「顔色が優れませんよ、主は言っております無理するなと」
心配げなオリオンとソフィーに大丈夫と返して、俺達は城門前まで進む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます