第2話 レアリティ
家というには語弊がある。
俺達の家は家ではなく城だ。
それも敷地だけは超でかい。
しかし超ボロい。
そこらへん穴開いているし、雨漏りしてるし、壁も蹴れば崩れそうなものばかり、上の階までは上がってこないが下の階には野生の動物がうろついてたりする。
ビバ野生の動物園である。
よく言えば雰囲気のある古城だが、悪く言えばただボロいだけだ。
少しだけ経緯を説明すると、俺は昔日本という国で学生をしていた。
しかしとあるスマホのゲームアプリをしている最中、唐突にスマホの中に吸い込まれた。
何を言ってるかわからないと思うが、実際俺が一番わかっていない。
携帯に吸い込まれて落ちた先がこの城で、そこにファンタジーでよくでてくる手のひらサイズのドラゴンがやってきて、自分は神だと言いだした。
ワシがお前をこの世界に呼んだから、今日からここお前の城でお前王だから、頑張って城大きくしたり仲間いっぱい作って魔物倒したりしてね。それとお前以外にも王いるから。そいつら攻めてきたりするから撃退するかやられる前にやったりしてね。他の王倒したらご褒美あるから頑張って。
それじゃよろしくーとか言って飛んでいった。
誓ってもいいが俺は電波な奴ではない。スマホに吸い込まれたの時点でかなり電波な奴なのだが俺を吸い込んだスマホはこの通り今手元にあるのだ。
不思議なことに通話やメール機能は使えなくなっているが、電池は切れることなくギルドからの依頼などをアプリで受け取ることができる情報端末として機能しているのだった。
俺がこの世界にきてはや三か月近く経とうとしているが、元の世界に帰る方法は今のところ見つかっていない。
「お帰りなさいませ王ーー!」
そう言って自慢の尻尾を振りながら駆け足でやってきたのはコボルト族のサイモン四兄弟の一人、槍サイモン。
コボルト族という獣人の一種で、見た目は完全に犬人間であり、サイモンは柴犬を思わせる茶色の毛並みをした青年だった。
一応俺のチャリオットのメンバーではあるが、あまりにも戦闘力が低いため戦いに向かず、主に見張りや城の補修、家事や炊事などを行ってもらっている。
ちなみに最初召喚されたときに槍を持っていたので槍サイモン。他に斧と弓と剣サイモンがいる。
笑顔で洗濯物を取り込んでいる青年の顔はとてもにこやかで、昔いた世界の歯磨き粉とかのCMに出て来そうなくらいである。……まぁ犬なんだが。
「他のサイモン達は?」
「皆魚釣りや、山菜とりに向かい夕食の準備をしていますぞ!」
うん、声でかいよ。
「なるほど」
俺は報酬の三千八百ベスタのうち千五百ベスタをサイモンに渡す。
「これは……」
「四人で分けておいて」
「王、お気持ちは嬉しいですが、我らは王の私兵。このようなお金などいただかなくても我々は王の為に粉骨砕身の……」
「あぁいいから」
長くなりそうと思ってさっさと切り上げる。
兎が二匹、並んでこちらを眺めている石畳のエントランスを抜け、俺は自室である三階の一室に向かう。
本来王室は最上階にあるのだが、雨漏りする上にエレベーターもないもんで上がるのが辛いのだ。
どこかの国でエレベーターが開発されたとかいう話を聞いたのだが、この国にその技術がもたらされるまで後何年かかることやら。
自室はこじんまりとしており、椅子と机、小さな木製の箪笥とベッドが一つずつあるだけで他は何もなく、ガラスもはいっていない窓から殺風景な部屋に夕陽が差し込んでいるだけだった。
俺がベッドに腰掛ける前にオリオンはベッドの上にダイブし、ゴロリと寝転がると、そのままロールケーキのように布団を自分の体に巻いた。
「なにやってんだよ」
「なんでもない」
乾と会ってからずっとこの調子である。ちなみにオリオンの部屋はちゃんと別にあるが、大体この部屋で一緒に寝ているのであまり使われていない。
「お前もしかしてR娘って言われたこと気にしてるのか?」
「気にしてない」
むすっとして布団の中に顔を隠してしまうオリオン。
「レアリティがどうとか気にすんなよ。神も言ってただろ、レアリティはあくまで現段階の目安であって低レアリティであってもSレアレベルにまで強くなることもあるって」
「EXになるとは言ってない」
「EXは、まぁ特殊能力もちらしいからな。後天的に特殊能力に目覚めることはあんまりないって……」
俺がそう言うと固い枕を顔面に投げつけられる。
「痛ってぇ、なにすんだよ」
「お前にあなたのレアリティは下から二番目ですって言われた気持ちがわかるか」
「お前最下位レアリティ
「あいつらスライムと戦って普通に負けて帰ってくるんだぞ! あたしはそんな奴らの一個上でしかないんだぞ!」
ふんっとすねて喋らなくなってしまうオリオン。
俺はやれやれとため息をつき、ベッドの隣に腰かける。
「俺はな、右も左もわからないままこの世界に召喚されて心底困ってたんだ。そこに神って言う名の邪神が君には戦う力が必要だ、さぁこの召喚石を使って戦士を召喚するのだって言われて、召喚したときお前が出てきてくれて嬉しかったんだぞ。誰もいないたった一人の中、俺の味方ですって言ってくれる奴が出てきてくれて俺は心底嬉しかったんだ」
「…………」
「お前は勇者として召喚されるはずが俺みたいな奴のとこに来ちまって心底不満かもしれねーけど、俺はお前のおかげでこの世界でやっていけてる。だから神が勝手にランク付けした強さなんて別に俺には関係ねーし、だから拗ね……」
「グガガガガ……スー……」
「ね……、寝てやがる」
人が珍しくいいこと言ったと思ったらこれだ。
はぁっと大きなため息をついて、俺は立ち上がる。
体洗って、装備手入れして、行けそうなダンジョン探して金策の方法考えないと。
今日の収入ではやっていけない。
俺が自室を出ると、オリオンは布団からひょこりと顔を出す。
「聞いてるよ……バカ」
体を水でざっと洗い、吸水性の悪い布で頭を拭きながら一階にある武器庫の方に向かう。
武器庫と大それた名前をつけてはいるが、表現的には昔は武器庫だったと言う方がしっくりくる。
剣たてや槍たてには棍棒や刃がガタガタな鉄の剣、木を切りだして槍っぽくしたものなんかが並んでいるだけで、武器庫と言うにはあまりにもお粗末だった。
俺は研ぎ石を使って、刃の欠けた剣の手入れをする。
包丁の手入れと同レベルのことしかできないし、こんなもの使うのかと言いたくなるのだが、今の俺達に選べるほどの金も資源もない。
一通りの手入れを終えると、俺はそのまま武器庫でスマホを開き、俺が吸い込まれた元となっているゲームのアプリを開く。
そこにはギルドからお願い、王達の領土図、最近発見された危険モンスター、今月のイベント、あなたのポイント、などのゲームのような題目が並んでいるが、実際にこの世界と連動している情報であり、なぜこのような無駄に便利なことができるのかはわかっていない。
ギルドからのお願いには、このダンジョンに行ってこのモンスターを倒す。またはこのアイテムを持って帰るとこれだけお金が出ますよという依頼情報が記載されている。
俺はその中で自分が、主にオリオンがいけそうな場所を選んでピックアップしていく。
しかし今日はあまりよさそうなものがなかった。
「キノコ集め、一日で八百ベスタ割りにあわん。シルバーフォックス討伐S級戦士二名以上推奨、無理。遺跡でマミーの秘宝を手に入れる、出来高。これは報酬的な意味でリスキーすぎる。ゴーレム討伐、R級戦士三名以上推奨。三名か……オリオン一人でなんとか……。いや、やめておこう」
オリオンが怪我したりする方が問題だ。ウチには今傷を癒してくれるヒーラーもいないのだから。
俺はスマホと睨めっこしながら息を吐く。
なんか普通に生活の一部となってきてるけど、こんなんで帰れる日は来るのか。
愚痴っぽくなったのを反省し、オリオンが拗ねていることが気にかかった。
「あなたの強さはRクラスです……か」
俺をここに召喚した雑な神の説明では、俺達城をもつ王達と、その兵士たちのことをチャリオットと呼んでいるらしく、そのチャリオットを強化するにはたくさんの戦士を仲間にする必要があると。
戦士は各ダンジョンや街で勧誘するという手もあるが、一番手っ取り早く強い戦士を仲間に引き入れるなら召喚魔法が良いらしい。
召喚魔法で呼び出された戦士は、ある程度強い力を持った戦士が選ばれ、王と契約することを良しとした戦士だけが世界各地から召喚されてくるとのこと。
ちなみに召喚するには召喚石というアイテムが必要で、この召喚石はなんでも一つ願いを叶えてくれるらしい。その願いを叶えるかわりに、王と契約することになると。
まぁその願いが叶うというのもどこまでのものかわからないが、オリオンが俺と契約するときに願ったのはお腹いっぱいになりたいらしい。その時空腹すぎて死にかかってたそうだ。
バカバカしい理由だと思ったが、この世界では普通に飢餓で死ぬことだってあるんだ。笑ってはいられないし、空腹で死ぬというのは斬首で死ぬよりも辛いことだろう。
ちなみにだが、サイモン四兄弟も召喚魔法によって呼び出された戦士達だ。
本来ある程度強い戦士がくるらしいが、召喚魔法もかなりいかれてるらしく、強い戦士より弱い戦士を引っかけてくる方が多い。
そんな理由と召喚の仕方がゲームのガチャに似てることから召喚魔法の事をガチャと呼んでいる。
ちなみにサイモンのレアリティは一番下の
「あいつにばっかり負担かけるのは酷だから、なんでもいいから新しい戦士がほしいな」
今の俺達に街に行って、金額を提示して傭兵を雇うなんてことは難しい。だからガチャに頼らざるをえないのだった。
虎の子で召喚石は一つ残ってはいるのだが、五連続でサイモンを引いたら立ち直れないので踏みとどまった。
この召喚石、最初は簡単に五、六個手に入ったので沢山手に入るものかと思いきや意外とそうでもなく、今になって連続で召喚したことを悔やんだ。
召喚石は高難易度のダンジョンや、他の王を倒したなど特定の戦果をあげるとえられるもので、今の俺にとっては簡単に手に入れられるものではなかった。
「これでオリオンが帰りたいとか言いだしたら終わりだな」
王には戦士を帰還させる方法があり、命令に従わない、反逆の見込みがあると思った場合は戦士を召喚した場所に返すことができるのだ。
戦士が勝手に帰ってしまうということはできないのだが、戦士から帰りたいですと言われてしまうと、雇用主たる王としてはどうすることもできない。
強制的に従わせる方法もあるのだが、気乗りはしない。
俺はふとスマホの画面を見ると、あなたのポイントと書かれた項目に「!」マークがついていることに気づいた。
「なんだこれ」
選択してみると、画面にあなたが稼いだベスタが十万を超えました。お祝いに召喚石を一つプレゼントします。と書かれていて、俺の召喚石の表示が一から二にかわる。
「おっ、ラッキー。こんなこともあるのか。そういや一万稼いだ時も貰った気がするな」
てことは次貰えるのは百万稼いだ時か? 遠すぎない?
「戦力がほしいし、棚ぼたな石だし回してみるか」
そう決めて俺は手入れしていた武器を全て片付け、
城の地下にあるガチャの間と呼んでいる部屋には、巨大な召喚陣が常に光り輝いている。
召喚陣以外には何もない部屋で、うっすらと光っている魔法陣があるだけだ。
俺はそこにスマホをかざす。すると画面に召喚しますか? はい、いいえと選択肢が上がってきたので、それにはいと返答する。
スマホの画面に表示されていた召喚石の残数が二から一に減ると、どのような不思議なのか魔法陣からゴゴゴゴと音をたてて俺達の世界にあったガチャガチャマシーンの超巨大版が現れる。
四角い透明なケースの中に大量のカプセルが入っており、手前に回転式レバーと景品口がとりつけられている。
毎回この演出いるのか? 直接戦士でてきたらいいんじゃないのか? と思いながら俺は現れたガチャガチャマシーンのレバーを握り、ガリガリと音をたてて回す。
ちなみにガチャガチャマシーンからはカプセルが吐き出され、出てきた色によってレアリティが異なっている。下から白が
カプセルの色が派手になるほど強い戦士が出て来る仕組みだ。
なんとかオリオンの助けになる戦士きてくれ。それがダメなら話し相手になってくれる女友達みたいなのでもいい。
俺が願掛けしながらレバーを一回転させ、手の上にポトリと落ちてきたカプセルを見ると。
「ん……なにこれ」
手の中で七色に輝くカプセルを俺はほうけた目で見る。
「虹……?」
そして二度見する。
「虹だーーーーーーーーー! うああああああーーーーーー!!!」
あまりの驚きにカプセルを落としてしまいそうになった。
待て待て、落ち着け俺、神が言っていた。このカプセルの状態はまだ戦士と交渉中なのだと。
呼び出される予定の戦士が契約に応じるならカプセルは開くし、応じないならカプセルは開かず召喚石は元に戻ると。
開くのか……開かないのか……。ちなみにオリオンはこっちが開ける前に勝手に出てきた。
俺はカプセルをゆっくりとひねってみる。
「か、硬い……あかない……」
召喚拒否かと思われたが、召喚石の数は戻ってないし、何よりガチャガチャマシーンが消えていない。召喚拒否されたならこのカプセルとガチャマシーンは消えるはず。
「となると向こうで戦士が契約するかどうか悩んでる可能性があるのか」
俺はカプセルを魔法陣の上において、正座しながら開くのを待った。
十分くらい経過して、いい加減長すぎない? と思っていたところ虹色のカプセルから七色の光が辺りに漏れた。
あまりの眩しさに俺は手で目を覆い、光がおさまった頃に覆っていた手の指の隙間からカプセルの様子を覗き見る。
そこには濃い煙とうっすらと人の影が映っていた。
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