第3話 EXレア

 これは契約成立したのでは?

 はやる気持ちをおさえ、煙よはやく晴れろと願う。できれば可愛い女の子、可愛くないむさい男の子は勘弁してくださいと願う。

 最高レアなのにモヒカン肩パッドのゴロツキみたいなのがでてきたら凄く複雑な気分になると思う。

 多くは願わないので、できればエーリカさんくらい巨乳で美人で、強い人にしてください。

 なんて厚かましいことを願っているとゆっくりと煙がはれた。

 そこにいたのは息を飲むような美しい女性だった。

 白い肌に、栗色の腰より長い髪、銀に輝く騎士を思わせるガントレットとハイヒールのような脚甲をはき、太ももにはガーターベルトとストッキングが脚甲から覗いている。

 物凄くセクシーな人がきたものだと視線を上にあげると、手と足は騎士鎧にも関わらず何故か胴は薄いビキニブラ一枚で下はガーターベルトつきの、ランジェリーのような紐ぱんしかはいていない。

 そして頭には十字が描かれたシスター帽を被っている。

 物凄い痴女スタイルでやってこられて俺氏困惑。

 そしてオリオンもなんだけど、この人もでかい、とにかくでかい。そんな薄布で支えているのはさすがに無理では? と困惑に拍車をかける。


「あなたが王様でしょうか?」

「えっ、あっ、はい」


 痴女騎士が口を開き、俺は素っ頓狂な声をあげてしまう。


「そうですか、私はへイムダル領から召喚に応じやってきましたソフィア・ブルク・エドナドールです。ソフィーとお呼び下さい」


 そう言って会釈するソフィー。首にかけた十字架が小さく揺れ、胸は大きく揺れる。


「たゆんたゆん」

「何かおっしゃりましたか?」

「いえ、なんでもないです」

「王様、敬語なんて使う必要はありません。私はこれより王の私兵、なんなりとお言いつけ下さい」

「は、はい。あっ俺は梶勇咲。皆からは咲って呼ばれているから、咲って呼んでくれていい」

「何を言います、貴方は王様です。王が兵から名前で呼ばれるなんてあってはならないことですわ」


 なんか凄く育ちが良さそうな人がきたぞと思いながら、俺はスマホをソフィーにかざす。すると彼女のステータスが表示される。

 ステータスは筋力、敏捷、技量、体力、魔力、忠誠、信仰の七項目をSが最大でA~Fの七段階で表示してくれる。ちなみにサイモンは筋力E、敏捷F、技量F、体力D、魔力F、忠誠A、信仰Eとなかなかに泣きたくなるステータスだった。

 彼女はと……。

 筋力C  ===

 敏捷B =====

 技量B  =====

 体力B  =====

 魔力B  =====

 忠誠A  ======

 信仰EX =======


 スキル 主への信仰 信仰心が強いほど自身の攻撃、回復力が上がる。

      神の鎧兵 ヘヴンズソード


 うわ、何このステータス、信じらんないEXとかある。Sが最高じゃなかったのかよ。しかも下限ステータスが筋力のCしかない。

 ステータスを見るに彼女は神官騎士の可能性が高い。信仰の高さは回復魔法を多く使えるということであり、それにこの平均的に高いステータス、彼女の装備からして生粋のヒーラーというわけではなく、回復魔法を使いながら戦う神官騎士だろう。

 その証拠に斧と槍を合体させたような武器をその手に持っている。通常のヒーラーなら教典か、杖を持っているはずだ。


「王様、私が一番最初の兵なのでしょうか? やけに静かですが」

「いや、君は六番目の召喚者だよ」

「そうなのですか? では既に魔の軍団と戦われているのですね」


 魔の軍団? なんだそれは? 通常のモンスターのことだろうか? それならダンジョンなどで倒しているが。


「王様礼拝堂はどこでしょう? 王様に会えたことを主に感謝しなくてはなりません」

「れ、礼拝堂?」

「はい、私の住んでいたお城には礼拝堂があり、一日に三度は神に感謝を捧げなくてはなりません」

「お、おぉ」


 なるほど、これは確かに信仰が高そうだ。


「すまないけど、この城に礼拝堂はないんだ」

「そうですか、では作っていただくようお願いたします」


 礼拝堂を作る、そんな無茶な。

 と思っていたのが顔に出ていたのかソフィーは付け加える。


「あまり大そうなものでなくて結構です。祈りを捧げる場所さえ確保していただければ十分なので」

「そ、そうか、それならなんとかなると思う。場所には事欠かないからな」

「ありがとうございます。それと私の寝所には近づかないようお願いします。私の祈りの力は潔白でないと発揮することができませんので、王様から求められてもお応えすることはできません」

「お、おぉ、いやそんなつもりはないんだけど」


 意外とワガママというか箱入りかもしれないぞ、この人と思いはじめてきた。


「あのソフィーのその格好はなんでそんなことに?」


 俺は彼女のスキルより、気になっていたことを尋ねる。


「お、おかしいでしょうか? 以前街にいた戦士様達は皆このような格好をされていたので、オーダーメイドで作らせたのですが」


 自分でも薄々おかしいのではないかと気にはなっていたようだ。それに対して俺は。


「いや、全然おかしくないよ。それはきっと戦いやすくするためにわざと身軽にしてるんだよ。ほんとはもっと鎧が少なくてもおかしくないね」

「で、ですよね。私間違ってませんよね」


 と、嘘を教えた。


「あと、なかなかきてくれなかったけど、やっぱり契約するのは迷ってたから?」

「いえ、私は最初から行くつもりでしたが、お父様とお母様がなかなかお別れになれなくて」

「あぁ、そりゃ長年いっしょにいた両親だもんね、別れるのは……」

「いえ、お父様とお母様が行かないでと泣きついてきたのです」

「そ、そうか。大事にされてたんだね」

「はい、私これでもへイムダル領王家ロレンツ・ブルク・エドナドールの一人娘ですので」

「……もしかして君、地方の王族?」

「はい」

「周りからなんて呼ばれてたの?」

「それは勿論姫様と」


 あー、姫騎士ってやつか、うほほーい、そりゃ捗るなー。

 しかしながら危機察知能力の高い俺は、既に不安を感じ始めていた。

 この子もしかして……。


「咲、どこ?」


 声がして振り返ると、そこには布団を体に巻き付けたままのオリオンの姿があった。


「オリオン」


 俺が呼ぶと、とてとてとガチャの間に入ってきて、ソフィーとオリオンが対峙する。


「これはこれは、王様の私兵でしょうか?」

「咲、召喚したの?」


 オリオンはソフィーを無視して、俺の方を睨む。


「あぁ召喚石が一つ手に入ったから」

「無駄遣いだよ。あたし以外に咲の兵なんていらない」

「あまり私の事をよく思われてはいないようですね。ちなみに彼女のレアリティはなんだったのでしょう? EXとは思えませんがSくらいはあるのでしょうか?」


 召喚される戦士は、自分のレアリティのことを召喚された時に神から聞かされる。その為それを誇る戦士もいれば、皮肉ったり、さげすんだりする戦士もいる。


「ソフィー、レアリティの話は別にいいだろ」

「……Rだよ」


 ぼそりとぶっきらぼうに言うオリオン。言わなくていいのにと俺は額をおさえる。


「なるほど、私はEXレアのソフィア・ブルク・エドナドールと言います。以後ソフィーとお呼び下さい」


 そう言ってソフィーは俺にしたときと同じように礼をする。

 彼女は別に自慢しているわけではないのだ。ただ単純にそういうことを口走ってしまう。言わば空気の読めないお嬢様気質なのだ。

 オリオンはEXと聞いて、ぎりっと自分の唇を噛んで走り出してしまう。


「あっ、オリオン!」


 呼び止めるが足速い速い。もう全然追いつけない。


「あらあら、私何かおかしなこと言いましたか?」


 俺はソフィーに何か言おうかと思ったのだが、本当にわからないと頭の中が疑問符でいっぱいになっているようなので、そのまま走って行ったオリオンを追いかけた。

 産まれながらにしてEXの人間はR娘の気持ちなんてわからないよな。そう思いながら、しばらく城中を走り回ったが、彼女の姿は見当たらない。


「あんまり俺体力ないから、かくれんぼは勘弁してくれよ」

「王様、夕飯の支度ができましたぞー」

「先食べててくれ。後で行く」


 サイモンの声を軽くスルーして、俺はオリオンの行きそうな場所に目星をつけて探し回り、ようやく最後の場所で発見することができた。

 それは城のとんがり屋根の上だった。結構斜角が急な屋根の上に膝を抱えながら座っている少女の姿がある。


「こんなとこいると風邪ひくぞ」


 俺はなんてことない顔しながらも、内心びくびくしつつ屋根を下りていく。

 そして彼女の隣に腰かけた。

 空を見上げると、星が上り始めていた。

 あー空だけは俺の世界と段違いに綺麗だな、なんて思っていると隣からくぐもった声が聞こえる。


「なんでEXとか引いちゃうんだよ」

「そりゃ出て来ちまったからな」

「あたしいらない子じゃん。全部持ってかれちゃう」


 膝に顔を埋めながら、拗ねるような、悲しむような声を上げるオリオン。


「お前ウチの戦力事情知って言ってるのか? お前もこき使うに決まってるだろうが」

「いらないよあたしなんて。EXが全部仕事もってっちゃうし、あたしより絶対稼ぐよ」

「別にお前とソフィーを比べるようなことなんかしないっての」

「それに、今は一人でもそのうちソフィーみたいな高レアの子が増えたら絶対あたし居場所なくなっちゃう。あたし帰りたくない……」


 オリオンは元高地の山脈にある村の育ちで、本当に何もないところだと自分で言っていた。人はおろか食料もないし、作物もろくに育たないと。

 俺はオリオンが帰ってしまうことを危惧していたが、彼女は逆に帰らされるのではないかという不安に陥っていたようだ。


「大丈夫だ。どれだけ人が増えたって、お前は帰さないよ」


 俺は腰を上げて、大きく伸びをする。


「大体こんだけ広い城に人がいっぱいになるって一体何年後の話だよ」


 どれだけ金稼いで、召喚石用意しなきゃならないんだ。


「あたし咲のこと好きだよ」

「急な告白だな」

「勘違いすんな、気に入ってるって意味だし」

「そりゃどうも」

「あたしが役に立たなくても、おいてくれる?」

「ああ」

「あっ、一つだけ役に立たなくても女としてなら……役に立つかもしんない」


 そう言って顔を赤めるオリオンだったが、俺はその顔にでこピンする。


「なーに言ってんだよ。お子ちゃまのくせに。……腹減ったし飯にするぞ」


 そう言って踵を返そうとすると、オリオンはのそのそと四つん這いで俺の足元にやってくると、するすると俺の体をよじ登ってくる。


「コアラかお前は」

「なにそれ?」

「俺の世界にいた、やたら甘えん坊な動物だ」

「じゃあコアラでいいや、それ生きてるだけで幸せ」


 俺はよろよろと重みでよろけながら屋根を伝って城の中に入っていく。

 まぁなんとか機嫌は戻ってきたようだ。


「王様ーーーー! 大変ですぞ!」


 なんか気苦労の絶えない大臣みたいに、サイモンは大慌てで俺達の元にやってくる。

 武器を持ってないと俺にはあのサイモンが何サイモンなのか判別がつかない。

 オリオンは誰かに見られた程度ではコアラスタイルをかえるつもりはないようだ。


「魔物です! 外に魔物がやってきました!」

「なぬ、珍しいな」


 この城の裏に山があり、そこに魔物がいるのだが、あまりこの城まで下りてくるということはなかった。

 魔物と聞いてオリオンは俺から飛び降りる。


「ソードベアーのようです! 今兄弟たちが戦っています!」

「お前ら弱いんだから、あんま無茶するな」


 サイモンとオリオンの三人で城門の前まで走る。

 ソードベアーは並の戦士では歯が立たない、オリオンでなんとかなるというレベルの巨大なクマ型モンスターだ。


「あっ、ちょっと待てよ。これはチャンスじゃないか?」


 ピンと閃いた。ソフィーの実力を測るのに絶好の機会なのでは?

 そう思い、俺は大きな声で叫ぶ。


「ソフィー!! 城門まで来てくれーーーー!」


 多分これで来るだろう。隣を見るとオリオンがすげー怒ってた。あたしがいるのに、あの女に頼るのかと言いたげだ。


「これはソフィーの強さを測るチャンスなの」


 喋らないが、むすっとしてあまり納得はしていない様子。

 俺達が城門前につくと、既にサイモン兄弟が弓を射って戦っている最中だった。 

 弓矢の先には真っ黒なボサボサの毛並みをして、山で普通に遭遇したら失神してしまいそうな凶悪な眼光をした巨大なクマがいる。

 身の丈は三メートルを超え、前足の爪の一本一本が剣のように長く鋭く伸びている。


「おぉおぉ、強そうだな」


 まぁでもいつもの俺とは心持ちが違う。今回はなんといってもEXレアのソフィーがいるのだ。これでオリオンが危険な目にあうことも少なくなるだろう。

 もしかしたらソードベア程度では一瞬で消し炭になってしまう可能性があるので、目が離せない。


「王様、どうかしましたか?」


 俺の呼び声に応じてソフィーはあのビキニ神官スタイルで城門の前までやってきた。


「よし、ちょうどいい。今ソードベアーっていう魔物が城の前に来ている。なんとか撃退したい、お前の力を見せてくれ」


 俺が城門の前を指さすと、グガーっと唸り声をあげて近くの大木をなぎ倒して、暴れ回っているソードベアーの姿が見えた。


「あ、あれをですか?」

「あぁ、見た目強そうに見えるが以前やりあった経験がある。そこまで強くはない。ただあの爪は当たると三枚におろされるから気をつけろ。最悪当たった場所は切り落とされるぞ」

「…………」


 あれ、なんでそんなに青ざめてんの? EXレアなら、こうバーっとドカーンと何か必殺技的なもので、あの熊倒しちゃっていいのよ。

 てか戦闘が得意でない神官でも、君のステータスがあれば倒せるはず。


「それじゃあ頼む」

「「「よろしくお願いします!」」」


 負傷したサイモン達が頭を下げ、引き下がってくる。


「え、えぇ。任せてください。私はなんといってもEXレア、神の加護を受けし乙女ですので」


 そう言ってソフィーはハルバートを構え、城門の前に立つ。


「よし、奴がくるぞ。頑張れソフィー!」


 俺達は城門前にある水の枯れた噴水に身を隠しながら、声だけでソフィーを応援する。

  ソードベアはソフィーの姿を確認すると、グルルルと低いうなり声をあげながら、のそりのそりと近づき目の前で四足歩行から二足で立ち上がり、その巨体でソフィーを見下ろす。

 俺はどんな必殺技が飛び出すのだろうとワクワクしながら覗き見る。

 グガァァっと凶悪な咆哮とともにソードベアーの爪が振り下ろされた。


「か、神よ……」


 ソフィーが十字を胸の前で切る。あれは必殺技の予備動作なのか? 俺がそう思っていると隣にいたオリオンが一気に飛び出す。


「避けろバカ!」


 オリオンはソフィーの頭を押さえ、無理やり地面に押し倒す。

 その瞬間ソードベアーの爪がソフィーのいた場所を振りぬいた。

 間違いなくオリオンが助けなければ彼女の体は二つに引き裂かれていただろう。


「お前なんで戦わないんだ! ……よ」


 オリオンは縮こまってしまっている少女に憤る、死にたいのかと。

 だが、よくよくソフィーの方を見ると、彼女の股下が濡れていることに気づいたのだ。


「お、お前漏らしたのか!?」

「わ、私魔物となんて戦ったことない……です」


 ソフィーの消え入りそうな声にオリオンは眉をひそめた。

 グルァァァっと唸り声をあげ、再びソードベアーの爪が振り下ろされる。

 オリオンはその瞬間自分の剣を引き抜き、ソードベアの目に突き刺した。

 ガァァァっと苦悶の声をあげ、ソードベアは四つん這いになり走ってその場を逃げ去って行った。

 俺はなぜソフィーが戦わなかったのかわからず、噴水の影からでて、ひょこひょこと二人に近づいていく。


「なにがどうしてそうなった?」

「この子戦ったことないんだって」


 恥ずかしそうに、申し訳なさそうに顔をふせるソフィー。

 あぁ、なるほどそれでオリオンが助けにいったわけか。二人の行動に納得しつつ深いため息がでた。


「おまけに漏らした」

「そ、それは言わないでください!」


 俺も言われて初めて彼女の股下が濡れていることに気づいた。


「い、いや。その見ないで……くださいまし」


 必死に股を隠そうとしているところに変な興奮を覚えてしまった。

 いかん、よくないと頭を振る。


「つまり実戦経験はないけど、才能だけでEXになったと……」

「お、お稽古はしていました。ですがお父様やお母様が魔物と戦うなんてもってのほかだと」


 あぁ君お嬢様だもんね……。と俺は頭を抱えそうになる。

 まさかEXだけどレベル一がやってくるとは。いやレベルなんて概念ないんだけど。


「それでよくあたしにレアリティがどうのって言えたな」

「ご、ごめんなさい」

「あぁ、いいや。とりあえず風呂はいってきなよ」


 ソフィーは消沈した様子で城の中へと入っていく。

 その様子を腰に手を当てて見守るオリオン。何故か得意げな表情をしている。


「なんでお前は嬉しそうなんだよ」

「あたしの方がまだ役に立つと思った」


 またでこをピンとはねる。


「あんまり人の不幸や不運、実力のなさを喜ぶんじゃありません」


 その後すぐに、城の中からお風呂のお湯が冷たいと叫んだソフィーに俺は更に頭を悩ませるのだった。

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