第5話 大人になってしまった少年

帰国した少年は 日本で何をしたらいいのかわからなかった


漠然と自分がメッセージを伝えるスキルを磨く為に出来る事であれば


10年くらい掛かってでもその可能性のある全ての事に挑戦してみよう


そして何かを身に着けた時に再び海外に出ようと決めていた



ジャーナリストという職種を口にする事だけは どうしても敬遠してしまうようになってしまっていただけに


何か今までにタッチした事の無い 新しい分野で表現が出来る職種を考えたときに思いついたのは 営業職だった



メーカーや工場が製造したプロダクトを消費者が購買する時に 営業の口から放たれる言葉が影響する


その言葉によって 消費者がその商品に価値を感じ 購買という行動を起こすので


営業の力を身に着ける事が出来るならば 表現をする という意味合いではこの上なく有益な力になるに違いない



安易な考えではあったがそのまま最初は英語の塾を売る仕事を試しにやってみた


たった1か月で実務数日本一というタイトルを取得出来てしまった


営業の心理学 人間の欲求のメカニズム そして稼いだ奴が一番正しいという掟を叩きこまれ


次第にお客様の英語能力が本当に上達するかという本来は一番大切な目的は二の次になっていき


やり方を覚えていくだけで面白いように商品が売れていく世界に 彼 は虜になっていった


もはや少年は 少年の心を失い 大人になってしまったのだった


数々の商品を手掛けていったが 殆どの分野でトップセールスを記録することが出来た


出来なかった会社は ある広告代理店に就職している時だった


売り上げを上げる事よりも やらなくてはならない別の事があった


その広告代理店は出版社も持っていたのだが


語学学校で出来たプロバスケ選手に成ると言っていた親友が


日本初のプロリーグにドラフト1位で指名され キャプテンとしてチームを率いる事が決まったので


彼を取材する為に 出版社の方に出向いて直談判をした


出版社が扱っている多くのファッション系雑誌の中には

HIPHOP等のカルチャーを扱う雑誌があったので



バスケとHIPHOPは切っても切れない関係であるという事

日本初のプロリーグが出来るタイミングでそれを取材する事は雑誌のイメージアップにも直結する事

バスケファンまでも見込み読者に組み込める事等


出鱈目ともつかないような理由で 


兎に角2ページ見開きのフルカラーページを全て自分に使わせてくれと 頼み込んだ


広告単価にすれば120万円を下らない価値があるスペースを別会社の人間に無料で使わせろという事に加え


おまけに連盟のコミッショナーへの挨拶と カメラマンの同行 


デビュー試合初日のプレスパスの発行 選手への取材等 


自分の所属会社でも無いのにも拘らず 

本来の業務とは全く関係無い 無理難題を全て飲ませる事に成功し



何年もの時を隔て お前のデビュー戦を必ず取材する と言った


あの時の 男の約束を果たす事が出来たのだった


 


大人になってしまった少年が書いた文章が印刷された雑誌は


目的通り2ページフルカラーの見開きで全国の書店やコンビニで発売され


目的を見事に果たした彼は  



再び商品を売りまくる世界へと舞い戻っていく


ネット関連商材のスーパーバイザーとして 売り上げが20位以下だった店舗を東京で1位の売り上げに引き上げたり


主要量販店6店舗以上を同時に管轄したりするようになったが



表現力が身に着いてきたという感覚は少なかった


単純に狡猾になっただけのような気がしていた



営業だけではなく 企画等にも参加し


自分がデザインし 素材もサイズも梱包方式も全て決めた部品をソニーの本社に売り込んで


見事それが採用され世界中のBRAVIAに一時期は1台60個も使用され


その部品は後日意匠を取る事にもなった



営業職でモノを売った数字を競う生活が続く中で


10年程度は全ての可能性に挑戦すると決めた気持ちは忘れていなかった彼は


全く別の分野にも挑戦する 


役者業だった


全く演技をしないトップセールスマンは存在しないと思っていた彼は


演技という表現力を身に着ける事が出来るかもしれない


そしてあわよくば 知名度というメッセージを多くの人に伝える上で大きなレバレッジとなる力も手に入れるチャンスが見つかるかもしれないという理由で


2つのオーディションを受けてみると


両方の芸能事務所から声が掛かったが やはりここもフリーランスでやってみようと


芸能の世界へ足を踏み入れた



最も 芸能とは言っても名ばかりで エキストラに過ぎない役が殆どだったが


合計で50本近くの映画 TVドラマ CM Vシネ ネット番組等に出演を果たした


結果芸能界では花が咲くことは無かったが 表現をするという楽しさをもう一度思い出し


数字で1番を取るよりも 画面で彼を見た人が喜んでくれることが 嬉しくて堪らなかった


ロンブーの敦との単独共演を果たした際に ラインのIDを言っただけで 

一晩で400人のメンバーが増えたので


自分をブランディングする事が 如何に大きな影響力を持つかも思い知ったのだが



そんな時に彼は うつ病を発症してしまう






























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自叙伝 まーし @masism69

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