題名のないものがたり

秋霖

第1話 はじまりのはじまり

 その日は雨だった。


 全てが静寂に包まれ

 ただ打ち付ける雨音とページをまくるたびに響く乾いた音だけ・・・


 ― こんな時間ときが僕は好きだった —


 最初に少し僕の話をしよう

 僕は幼い頃から ただ一人 この図書館に住んでいる

 母親の記憶はない 父も物心つく前に亡くなった

 寂しかったし 悲しかった

 たぶん その時は・・・





 それから あるひとが僕のもとへやってきた


『ノーグ、俺と一緒に暮らさないか?』


 この一言が 僕の世界を変えた






 小高い丘にある大きな図書館

《 ティル・ナ・ノーグ 》

 そこが僕の新しい家となった

 家族は 本と猫とファラン


 あの日 僕に会いに来たひと — ファラン — は

 僕の叔父おじだとわかった


 いままで会うことがなかったのは

 世界中を回っていたんだという

戻ってきて初めて僕という甥がいることを知った、らしい

それなのにファランは僕を引き取り育てると言った


「どうして?僕のことなんて、知らなったんでしょう・・・?」

『あぁ、帰ってきて驚いたよ』


なんてことはないようにファランは笑っていた


「・・・普通、嫌じゃないの・・・?」

『何がだい?』

「会ったこともない、話したことも、

ましてや存在自体知らなかった子供だよ?」


ぐっと 手を拳にしてさらに強く握りながら僕は言った

ファランは少し考えるそぶりをすると 軽く笑うと

立ち上がり僕の前まで来て 床に膝をついた


『初め聞いたときは、迷ったんだ』

「・・・」

『だけどな』


ファランは僕の手を取って 優しく微笑んだ


『お前の顔を見たら、そんな迷いもどこかに消えてたよ』

「・・・え?」


視線を彷徨さまよわせてた僕は 驚いてファランをじっと見つめていた

その優しい微笑みがだんだんぼやけて 一滴また一滴と

零れ落ちてきた


『おー泣け泣け、泣きたいときに泣いて、楽しいときは笑っとけ』


ほかにも言いたいことがあったはずだったのに

あとは声にならない声が 僕の口かられるだけだった

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題名のないものがたり 秋霖 @shurin

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