第6幕 Sputnik

Albina.Mushka.Kudryavka.

この声が聞こえるならどうか教えてほしい。

僕から零れ落ちたitは、そこから見えるだろうか。

僕には消え失せてしまったようにしか思えないitだけれど、itが空に解けて地球を──ひいては僕を包んでいるんだと思えば、少しはマシな気分になれる。

Albina.Mushka.Kudryavka.

君たちは永久の憧れだ。

このままこの細い柵から手を離せば、僕もそこへ行けるだろうか。

町を見下ろすこの高みから一望できる全ての物が僕にとって無価値なように、全ての物にとって僕は無価値なんだと今ようやくわかった気がするんだ。

itは僕の全てだった。

itは僕に答えなかった。

僕は知らなかったんだ。がむしゃらに頑張れば、何でも出来るような気がしていた。何にでもなれると、そう信じていた。

この物語の主役は僕なのだから、きっとヒーローに相応しい何かが僕を待っている。

──そんな確信を抱えてた。14の夏。

無知で馬鹿で──そして勇敢だった。



Strelka.Belka.

この声が聞こえたらどうか笑ってほしい。

震える足で地を蹴る僕は、君たちからどう見えるだろうか。

僕の掌をすり抜け砕けたitが、君たちの下へ──itを欲する他の誰かの胸の奥で忘れられたパズルピースの様に眠りについたんだと思えば、少しはイイ気分で踏み出せる。

Strelka.Belka.

君たちは目指すべき指標だ。

もう一度やり直せば、僕もそこへ行けるだろうか。

加速して過ぎていく景色の全てがitを抱いているように、itは世界のそこかしこに隠れているんだと今さらながらに気づいたんだ。

itは僕の全てだった。

itは僕自身に誠実だった。

僕は知らなかったんだ。ただそれを認めるのが怖かっただけなのかもしれない。僕はitに裏切られたんだと、そう信じていたかった。

僕には引き返すための燃料が無い。止まったエンジンは錆付き、二度と唸りを上げないだろう。

──そんな後悔を抱えた23の冬。

無知で馬鹿で──そして勇敢な一生だった。

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