191~195

191話

(お題:『本当は辛いのです、泣きたいのです』)

#twnovel

「本当は辛いのです、泣きたいのです。でも…泣き方を、忘れてしまったの」口元に微笑みを浮かべる年配の婦人が、あまりにも儚くて。絵描きは数日かけて、彼女と亡き夫を、キャンバスに描いた。その絵を見せに行くと「あぁ…私、やっと泣けそうだわ」婦人は笑顔で涙をこぼす。


192話

(お題:『肉じゃがに枝豆入れるのって普通じゃないの?』)

#twnovel

「これ枝豆?珍しいなぁ」夕食に手作りの肉じゃがを出すと、彼はそう言った。「え、肉じゃがに枝豆入れるのって普通じゃないの?」「少なくとも俺は初めて見たよ。でも美味しいし、いいと思う」笑顔で肉じゃがを食べる彼。彼にとっての『普通』は、私の世界を広げる。


193話

#twnovel

「来月、友達と旅行に行ってくるね。少し家を開けるから」夕食の席で私が告げると、彼はたちまち不機嫌そうな表情に。一瞬だけ箸が止まったが、直ぐに惣菜へと動く。旅行から帰ってきたら、『かまってモード』になるんだろうなぁ。「ふふっ」「…なんでニヤけてるんだ」「別に〜」


194話

#twnovel

やっと帰ってこられた場所は、あの日のままだった。夕陽が照らすそれは、少し日焼けして細かな傷も増えていたけれど。皆に大事にされ続けてきたのが、今の私には分かる。「ただいま」学童用の小さな机を、そっと撫でた。


195話

#twnovel

七夕の短冊を前に、僕の手は止まっていた。昔から七夕にはろくな思い出が無い。親と大喧嘩をしたのも、骨折するほどの怪我をしたのも、学校を中退したのも、大きな病気の診断をされたのも、みんな七夕の日だった。悩んだ末に、ペンを走らせる。『七夕が七夕でなくなりますように』

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