186~190

186話

#twnovel

それを一番感じるのは、屋外プールの消毒液のにおいだ。独特のにおいだが、実は嫌いではない。「早く涼しくなって欲しいね」「そう、だね」大嫌いで愛しい夏の暑さに、今年も僕はうんざりする。


187話

(お題:[午後]の[本屋]で『桃色』、『パスワード』を使ったツイノベ)

#twnovel

昼下がりに店の在庫チェックをしていると、一冊の本が目に留まった。桃色の表紙には、題名も著者名も書かれていない。ページをサッと捲ると、どうやら桃の花にまつわる短編集のようだ。店用のPCを立ち上げ、パスワードを解除する。不思議な本について、調べることにした。


188話

#twnovel

ページを捲るうちに、押し花だろうか、桃の花がハラハラと落ちてきた。と思っていたら、いつの間にやら本のページが、表紙そのものが、桃の花になってゆく。「…?」本に、魔法でもかけられていたのだろうか。卓上は、あっという間に桃の花だらけ。


189話

#twnovel

呆然としていると黒猫の常連客がやって来た。「やあ、ご主人。すまない、先日売った中に、桃色の本は混ざっていなかったかい?」「あ、あぁ。それなら今、ここにあったんだが…」机上に跳びのり大量の桃の花を見ると、黒猫は「ふむ」と呟いた。「とうとう、枯れる時が来たのだね」


190話

#twnovel

手品の種明かしのように黒猫は語った。「その本は、もともと、私の前の相棒のものでね。桃の花が好きな、魔法使いだったんだ。旅先で出会った桃の花を、少しずつ貰い本にした。そして今日、枯れる日を迎えたんだね」懐かしむように、黒猫は桃の花を咥えた。「一輪、貰えるかにゃ」

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