I love the "War"ld
時は満ちた。
眼下で騒々しい渋谷のスクランブル交差点はサッカー日本代表のユニフォームを着てバカ騒ぎする阿呆どもだ。缶ビールやメガホン、国旗を片手に街頭ビジョンに写る日本代表のプレーに一喜一憂していたが、たった今、日本の勝利で終わった所らしく、我こそがサポーターだと声高に叫び暴れている。どうやらワールドカップやらの出場権を得たようで、明日は会社が休みだの、学校くらいサボっても平気だ、だのと腐った性根を撒き散らしている。
不愉快極まりない。そして、無意味だ。何もかも、明日になればどうでもよくなる。
努力することも、夢を見ることも、目標を掲げて一所懸命に足掻くことも、全て価値のないものになるのだから。
「せいぜい、今この瞬間を楽しめよ」
眠らない街を駆け巡るネオンの光ですら、俺の姿を無視をする。闇夜に浮かぶ俺と相棒の姿を認めることもせず、甘美な感動に酔いしれる一般市民を照らすことに躍起で精一杯のようだ。
だが、それでいい。
全てが俺に興味を抱かなくとも、俺は悲しまない。羨むことも嫉むことも、まして誰かに注目されたいと希う感情すら失ったのだから。
俺は表舞台に立ちたいわけではない。歴史に名を残したいわけではない。ちやほやされたいわけでも、目の敵にされたいわけでもない。そんなことに興味はない。
世界に絶望し、無念を抱いてしまった俺が、再び世界を愛することができるようになるために、革命という名の宣戦布告をぶち上げるだけ。
今日をもって、この平穏を壊す。ただ、それだけ。そして俺が望む世界を再構築するのだ。
「もう、この術式を発動させたらあと戻りはできなくなる。世界中の人間から恨まれ、その命を狙われることになる。その覚悟はできているかい? 本当に、これでいいのかい?」
俺の側で魔方陣を展開させるロス=ジェネシス=クラリアが、そんな言葉を繰り返す。心配そうに眉を曲げつつも、どこか楽しそうに弾む声。
「覚悟なんてし飽きた。新世界では、どうせ誰も俺の姿など視認できない。殺すなんて感情すら生まれない。理想の世界で、俺は世界そのものになるのだからな。そもそも覚悟も何もないのだ。あるとすれば未練か。だが、そんなものを抱いていたら、そもそも俺はクラリアと出会っていなかった。違うか?」
「そう……だね。その通りだ」
「この満月をどれだけ待ちわびたと思っている。ずっと俺の側にいたクラリアなら分かってくれるだろう?」
「……それも、そうだね。悪かったよ。本当は僕だって楽しみで仕方がないんだ。アイがどんな世界を見せてくれるのか、まだ始まってもいないのにワクワクしてるんだ。それなのに、ここまできて焦らされたり心変わりをされたんじゃたまらないと思ってさ」
「案ずるな」
心変わりなど、するはずがない。
「俺が望む世界は、こんな陳腐な感情が生まれない、素晴らしい世界だ。きっとクラリアも気に入る。ここまで苦楽を共にしてきたんだ。後悔と失望はさせないさ」
「そうだね。僕もそんな気がしてる。ねぇ、早く。早く、世界を壊してしまおうよ」
ねだる声が俺の鼓膜を撫でる。
「そうだな。そろそろいいだろう。腐った世界と眠らない街もこれで見納めだと思うと名残惜しい気持ちにもなったが、クラリアがへそを曲げる前に始めてしまうか」
「うんっ!」
「それじゃあ、いくぞ――」
「了解――」
魔方陣が七色の輝きを灯し、世界を飲み込む闇を解き放つ。
「「世界革変の
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