真夜中の探検
現在、時刻は真夜中2時だ。
俺は腹が立つくらいに眠れないので、城の外を散歩している。
「別に部屋で徹夜でもいいけど、たまには変な時間の散歩も悪くない」
子供の時から、暗闇の森林散歩なんて珍しくはなかった。
だが、最近はずっとしてなかったからな。
「子供の時は、食人族に襲われたんだったか?今だったら料理してやれるけど、流石にまだ小さかったからな。マジで怖かったなぁ、あの時は」
この辺りで、そんなものが出現した記録は無い。
生息しているモンスターも、危険性の高いものはほぼ駆逐してある。
ヌラやカビオなら簡単に仕留められる相手でも、戦闘経験皆無のマルフィトスやシュリナでは太刀打ちのしようがない。
「……お、カブトムシ。売れるとしたら、いくらだろうな」
聞けば、こんなものに破格の値段を付ける者も居るとか。
そんな輩に出会う予定はないので、カブトムシはすぐに逃がしてやった。
「カブトムシもいいけど、もっと刺激的なものが……ん?」
何者かの気配がする。
足音を隠そうとしているが、僅かにガサガサと音がする。
獣ではない、明らかに人間だ。
「お、クワガタだ。これなんだ?ノコギリ?かわいいなぁ」
気付かないフリをして、クワガタを愛でる。
足音は少しずつ近付いている。
そして、俺の背後まで来たところで足音は止まった。
「……何か用かな?俺は散歩で忙しいんだ」
「なっ……気付いて……」
振り向きざまにクワガタを逃がし、顔面中央に拳を叩き込む。
まさかこんなところにこんな奴が居るとは思わなかったが、いい状況ではない。
また山狩りをする必要があるな。
その後、何かに襲われるようなことはなく、普通に帰宅した。
約1時間の散歩だったが、これでぐっすりと眠れるだろうか。
「誰だ!……なんだ、お前か」
「こっちの台詞だ」
城を出る時の音に気が付いたのだろう、カビオが出迎えてくれた。
ハンマーをこちらに向けた、臨戦態勢でなければ嬉しかった。
「怪しい奴でも現れたのかと思ったぞ」
「怪しい奴なら、さっき外に居たぞ。死んでるけどな」
「……そうか。どうせ眠れはしない、見回りしてくる」
「そうか。行ってこい」
俺はもう寝る。
カビオに付き合ってはいられない。
と言うわけで、さっさと自分のベッドに潜り込む。
「……」
あぁ、もうすぐ意識を手放せそうだ。
段々と睡魔が俺を……。
「襲ってくれれば楽だったんだよ」
「……」
俺も眠気がブッ飛んでしまったようだ。
仕方なく、見回りに参加することにした。
だが結局、特に異常も見当たらないまま、城に戻ることとなった。
まだ外は暗い。
そして睡魔は訪れない。
どこかで死んでるんじゃないか、睡魔さんは。
「……ちょっとイタズラでも仕掛けるか」
とは言っても、大したことはしない。
ちょっと部屋に侵入するだけだ。
「まずは、ヌラとマルフィトスの部屋だな」
鍵が閉まっているわけでもないから、簡単に侵入は出来る。
音を立てず、気配を消して侵入する。
それが難しいんだ。
「入ったはいいけど……大して面白くはないな」
所詮、野郎の2人部屋だ。
何も面白そうな物は無い。
ヌラのパソコンをクラッキングしてやろうかと思ったが、確実に発狂するのでやめておいた。
「次はカビオの部屋だな。風呂に向かったから、部屋にはまだ帰ってこないだろう」
見回りが終わった後、少しだけハンマーの素振りをしていた。
暑いなんてことはないから、その時に汗をかいたのかも知れない。
「ほぉ、これは意外だ」
カビオの部屋は、もう完全な別世界であった。
アイドルのポスターに写真集、CDまで存在する。
ここまで集めるにも、機材を揃えるにも、凄まじい金額が消費されたことだろう。
まさかカビオがアイドルオタクだとは思っていなかった。
そして最後はシュリナの部屋だ。
だが、これは人間として、入ってしまってもいいものだろうか。
入った途端、悲鳴を上げられるのではないだろうか。
いや、入った瞬間にウェルカムとか言われてもそれはそれで困るわけだが。
「……お邪魔します」
好奇心には勝てなかった。
別にちょっと覗くだけだ、下着ドロや夜這いがしたい訳ではない。
「うーん、ここにもポスターか」
男性アイドルグループのポスターが貼られていた。
やはり、グッズもある程度揃っている。
だが、カビオの方が凄まじかった印象がある。
「なんか見られてる気がするなぁ。ポスターのせいだな」
シュリナは完全に眠っているから、見ている筈はない。
ポスターが睨んでいるように感じる。
「……もう出よう。夜の森よりずっと恐ろしい」
異性の部屋に入り込んでる罪悪感のせいか、帰りたくてたまらない。
程よく睡魔さんも甦ったし、部屋に戻ろう。
「ガラじゃないことはやるもんじゃねぇな」
明日、怒られたりしないことを祈って眠ろう……。
「オーイ、起きろー」
眠りそうになったところで、ヌラが現れた。
ガンガンと扉を叩いているが、何の用だろう。
「何だよお前……うるせぇぞ」
「あぁ?今日は朝からレア武器掘るんだろ!お前から誘っといて忘れたのか!?」
そんな約束をしていた気もするが、眠たいのでレア武器とかどうでもいい。
「知らん。寝させろ」
「寝かせねぇ!意地でも付き合わせてやる!!」
働かない頭で反抗できるはずもなく、俺はヌラのゲームに付き合わされた。
昼頃に死にかけた俺は、もう無意味な徹夜はやめようと決意した。
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