雇用面接

働き手が増やしたいと言うわけで、近くの村にビラ貼りまくってきた。

近くと言っても、軽く他所の国にも入ったけど、まぁ問題無いだろう。


城ばかりでかくても中に3人しか居ないなんて情けないからな。

かと言って、100人とか来られても給料が払えないが……。



「直接捕まえれば良いんじゃないのか?」



「世間ではそれを誘拐と言う」



「魔王がそれを気にするのか」



「うるっせぇな!この丸ハゲ怪獣ピカリーナ!!」



「勝手に怪獣化するな!」



誘拐をしたとして、それは働き手とかじゃなくて奴隷だ。

俺はそんなの望んでいない。



「やーいハゲ怪獣~」



「黙れ糞執事。お前の仕事の出来が数百倍良かったら、こんな真似はしなくて済むんだけどな」



「0には何をどれだけかけても……」



「察した」



「おい待てお前ら」



さて、何人のメイド&執事が来るのか。

ヌラみたいな糞じゃなきゃいいんだけどなぁ、来てみるまでは分からん。



「なんか、口に出さずに侮辱された気がする」



「してねぇよクソボケ。とりあえず死んでこい、今すぐに」



「直接言えばいいってもんじゃねえよ!!」



3時間ほどで、1人目の希望者がやってきた。

まさか初日から人が来るとは思っていなかっただけに、本気で驚いた。



「あの、ビラを見てやってきたのですが」



「ああ、ここで合ってるぞ。奥の応接間に行こうか」



男の体格は中肉中背と言ったところか。

武術の類をやっているようには見えない、身体能力は人並みだろう。

だが、彼の中で最も気になる点はそんなところではない。



「1つ聞いていい?」



「はい、なんでしょう?」



「その頭、何?」



彼のヘアースタイルはドレッドヘアー、顔は真面目そうなのに頭が完全にドが付くほどのヤンチャボーイだ。

しっかりと整えられているから、かなり気を使っているのだろう。



「これが1番気に入ってまして。……やっぱり、駄目ですかね?」



「いや、全然大丈夫。髪型で仕事内容と性格が完全に決まる訳じゃないしな」



常識が無いと思われても仕方のない髪型だが、人間としての価値をそれだけで決めてしまうのは勿体無い。

本当はとても良い奴かも知れないし、見た目以上にヤバイ奴かも知れない。

だが彼からは刺々しいものは感じ取れない。



「問題は無いけど、どこかの不毛筋肉ダルマからの嫉妬の目線に気を付けな!」



「俺か!?俺だろうなその呼び名は!これは自分でやっているんだ!ハゲとは違う!」



「うるせぇよタコ入道!」



「あの馬鹿2人は気にしなくていいから、さっさと行こうか」



「は、はい……」



不安げな表情をしている。

彼がここでは働きたくないとか言い出したら、あの2人は本気で殴ってやる。

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「名前は?」



「マルフィトス=デーライトです。よろしくお願いします」



「何でこの仕事選んだの?」



「他の仕事はどこも入れてもらえなかったんで……」



その頭で受けてたとしたら、確かに難しいだろうな。

……面接、面倒臭い。

雇うことは確定だし、適当に済ますか。



「まだしばらくは給料出ないけど、3度の飯は出す。それでOK?」



「あ、食事が出るんですか。ありがたいですね」



「それと最後に、俺は魔王と呼ばれる、と言うか冗談抜きで魔王そのものであって、世間一般で危ない人認定されてる男だけど、それでもいいか?君は有能だと思うし、採用したいとも思う。でも君が無理だと言うなら、潔く諦めるよ」



ここでカミングアウト。

妙にオブラートに包むと、あとがややこしい。



「そう、だったんですか……。でも、勇者以外に魔王を恨んでいる人は少ないですよ?特に、この辺りでは見かけませんね。大体、勇者なんて奴らは胡散臭いですし」



あ、そうなんだ。

それは全く知らなかった。

でも確かに、親父の城には普通の一般人も居た気が……。



「ふむ……分かった。じゃあ、必要な荷物を運んでくるように。部屋は用意しておくからさ」



「本当ですか!?ありがとうございます!!」



採用された喜びからか、マルフィトスは涙を浮かべているようにも見えた。

経験が無いからやはり分からないが、働きたい所で働けるってのは嬉しいものなんだろうな。


先程のマルフィトスが帰って30分後、今度は同年代くらいの女がやってきた。

もしかしたら、マルフィトスとすれ違ったかも知れないな。



「すいませ~ん、募集見て来たんですが、ここで合ってますか?」



「ああ、合ってるよ。じゃあ早速だけど、応接間までついて来てくれ」



「はいっ!」



元気良く返事をする彼女は、整った容姿をしていた。

亜麻色の腰まで届く長い髪には艶があり、美しい。

活力に溢れたエメラルドのような瞳は、見た者にまでその活力を与えているようにも思えた。



「……あの、何か?」



「なんでもないです。行きましょう」



「はい……?」



ぼんやりと眺めている場合ではなかった。

さっさと面接を済ませなきゃな。



「……おいカビオ」



「なんだ」



「あの娘、襲うなよ?」



「お前じゃあるまいし……。余計なことを考えてないで、仕事をしたらどうだ?」



「そういう奴に限って、ウサギみたいな爆発的性欲を持て余してるんだよな」



「不穏な会話が聞こえるんですけど……」



「無視してください。頭打ってるだけなんで」



ヌラとカビオには、後で本当に頭を打ってもらおう。

さっきからうるさいと言うか、会話に品が無いと言うか、とにかく耳障りだ。


そんなことよりも、何故か敬語が抜けなくなってしまった。

普段通りに会話が出来ないのは不便と言うか、違和感があるな。

期待はしていたが、あまりにも突然な異性の希望者の来訪で、俺も平常心を失ってしまったのだろうか……。



「そんじゃあ、始めようか。名前は?」



なんとか敬語の呪いから解放された。

王族のクセに敬語とかは大の苦手、誰が相手でも問題なく使えるが、出来ることなら使いたくない。

タメ語大正義。



「ワタシの名前は、シュリナ=ワクルです!」



「なぜここに?」



「他に働かせてもらえる場所が無くなったところに、ここのビラを見つけたんです!」



どこも不景気のようだね。

ここは景気とかは関係無い……そんなことねぇわ。

ガッツリ関係あったわ、ヤベーぞこの城。



「……じゃあ、部屋は用意しておくから、必要な荷物を持ってまた来てくれ」



「えっ?もう終わりですか?」



「もっとやりたい?」



「あ、いえ、そんなわけでは……。それじゃあ、今日はありがとうございました!!」



元気があって明るい娘だ。

城の中の雰囲気まで明るくなりそうだ。



「綺麗だったな、あのコ。仕事が楽しみだぜ」



「今のところ、紅一点だな。お前、悪さするなよ?」



「悪さってなんだよ」



「痴漢とか、下着ドロとか」



「そこまで女に飢えてねぇよ!」



その後、何時間待っても荷物を持ったあの2人しか来なかった。

まぁ、上出来だろう。



「俺に対しての呼び名は……適当でいいや。あっちの細いのがヌラ、光ってるのがカビオな」



光ってると言った瞬間、2人が小さく吹き出した。

そして俺がカビオに睨まれる、理不尽だ。



「最高の気分だ……。仕事が減る……仕事が減るぞ!!」



「おい魔王、サボり魔が何か言っているんだが?」



カビオの発言はごもっともだ。

ヌラは仕事らしい仕事をしてない。

糞執事はいつまで経っても糞執事である。



「……そろそろ食事の時間だな」



「確かに、良い頃合いだな」



せっかくなので、初仕事を任せてみよう。

いきなりの本番だが、なんとか頑張ってくれるだろう。



「なら、今日の食事は2人に作ってもらおう。初仕事だ、気合い入れて作ってくれ!」



「分かりました!」



「一生懸命、頑張ります!」



2人とも元気よく返事をする。

これは期待が出来そうか?



「お題はどうするか。おい、なんか良い案ねぇか?」



「そうだなぁ……。大悪魔風フォアグラのギガキャビアソース~漆黒の闇~……とか」



「どこのレストランがそんな厨二臭いメニューを考えたんだ、材料も無さそうだから却下」



「俺的には揚げ物が食いたい。トンカツとか、コロッケとかな」



「揚げ物か。材料を考えるなら、コロッケが丁度良いか」



と言うわけで、お題はコロッケとなった。

2人はどんなコロッケを作るか見物だ。

不安も少しあるのだが、楽しみな気持ちが強いな。



製作開始から数十分、2人とも手際よく作業を進めている。



「出来上がりました。どうぞ、召し上がって下さい」



先に出来あがったのはマルフィトスだった。

盛り付け方も完璧と言える、味にも期待が出来そうだ。



「あ、これめっちゃ美味い」



「確かに、素晴らしい出来栄えだ」



先に口にした2人は感嘆の声を上げる。

続いて俺も口にするが、確かに美味い。

まるで一流のシェフが調理したもののようだ。



「うん、合格」



「ありがとうございます!」



「ワタシも完成しましたよ!」



少し遅れて完成させたシュリナが、俺達の前に料理を配る。

彼女には申し訳ないが、更に盛り付けられたソレはコロッケには見えなかった。

なんとも形容し難い何かが、皿の上に盛り付けられている。

反応に困る料理を出されたが、それでも変な顔をするわけにはいかない。

顔を引きつらせながら、俺達は同時に口にする。

その後、真っ先に声を上げたのはヌラだった。



「なんだよこれ!こんなの食ったこと無いぞ!?自信があったんじゃないのか!?」



「えっ!?あの、その……」



お世辞にも良いとは言えない味だったが、それでもヌラは言いすぎなように思える。

シュリナは瞳に涙を浮かべ、小刻みに震えているように見える。



「ヌラ、お前ちょっと頭冷やせ」



「アァ!?」



「いいから!」



「……分かったよ」



今にも泣き出しそうなシュリナを連れ、その場を離れる。

ヌラの怒りも分からなくはない、そんなレベルが彼女の実力だ。

だがそれでも、彼女は心を込めて作ったのだから罵倒はするべきではないと思うが……。

「すまない。アイツに悪気は……悪気しか感じないよなぁ、アレじゃあ」



「ごめんなさい……。自信はあったんですけど……こんなに酷い事言われる程だったなんて……」



すっかり落ち込んでしまった。

泣かないように堪えていた様だが、もうそれは限界を超えているようだ。



「やっぱり……ワタシなんて居ない方がいいですよね……」



「そんなことは……」



ヌラの野郎のせいで、彼女は完全に傷を負ってしまった。

あとでサンドバッグの刑に処そう。



「ワタシなんて居ても……迷惑かけちゃいますから……」



「そんなわけないさ!料理なんて、これから上手くなればいいんだよ!俺が教えてやるし、ヌラだって頭冷やせばちゃんとした人間なんだ!……それに、ここでの仕事は料理だけでもないさ」



彼女の目を見て、俺の意思を伝える。

涙を流しながら、それでもしっかりと彼女は聞いていた。



「大丈夫だ。慣れるまで、何度しくじってもいいさ。初めからなんでも出来る奴なんて居ないんだ、だから大丈夫」



「ありがとう……ございます……。こんなに励ましてもらったの……初めてです!」



彼女に笑顔が戻った。

にこりと微笑む彼女は、やはり美しい。



「……じゃあ、戻ろうか。あのアホに謝罪させなきゃな」



食堂では、正座で石抱きしながらカビオに説教されているヌラが居た。

シュリナも最初はその様子に戸惑っていたが、ヌラの本気の謝罪には耳を傾けたようだ。


仲間が増えて賑やかにはなったが、これからの俺達に何が待ち受けているかは、誰にも分からない。

また別の仲間なのか、それとも大いなる敵なのか。



「なぁ。いつまで石抱きなの?」



「頭の温度が20℃下回るまで」



「死んでるじゃねぇか!!」

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