魔法開発実験

城の図書館にて本の整理をしていたところ、面白そうなものを発見した。



「これは……。こんなような本、昔はよく使ってたな」



それは簡単な魔法を作成するための指導書だ。

戦闘で使えるようなものは無理だと思うが、日常生活で役に立つ程度のものなら作れたはずだ。



「材料もいい感じに揃ってるし、今日は1日コイツで遊べるな」



ある程度の魔力と画用紙、それから筆記用具が揃えば簡単に作れてしまう。

便利な世の中になったものだ。



「なんだその本。エロ本?」



「性欲の塊のようなお前と一緒にするな」



「酷い言われようである」



最初の手順として、魔方陣を画用紙に書かなければならない。

これが面倒臭い、非常に面倒臭い。

忍耐強くないと発狂するレベルで面倒臭い。



「今、ズレたな」



「えっ!?……うわ、マジかよ。全部やり直しだ」



幸い、道具にも時間にも余裕はある。

何度失敗したところで問題は無い。



「……よし、もうすぐ完成だ」



「おっと足が滑った」



よく聞く言葉を発しながら、ヌラのタックルが俺に直撃。

手元は大きく狂い、魔方陣はまた始めから書き直しだ。



「イヤー、ワザトジャナインダケドナー」



「……」



俺はにこやかにヌラに近付き、そっと肩に手を置く。

そして一気に力を込め、足を払って転倒させる。

そして喉元にボールペンを突き付ける。



「悪い、手と足とボールペンが派手に滑った。次に滑ったらお前、死ぬかも知れないな。これから気を付けるように」



「キヲツケマース」



……作業に戻ろう。

次は、魔法陣の真ん中に血を付ける。

やりたくはないが、ナイフで指先に傷を付けて絞り出すしかない。



「自殺は良くないと思うんだ」



「そこまで人生について悲観的じゃねぇよ。つーか、指先切ったくらいで死ぬとか……いてっ」


……深くやり過ぎて血が止まらなくなった。

少し量が多すぎる気もしたが、準備はこれで完了だ。



「魔方陣が光ってるぞ」



「すげぇ、こう、なんか、綺麗とは言いがたいな」



光る魔方陣の中心に、額を付けたらいよいよ作成開始だ。

とは言っても、それほど大がかりなことはしないが。



「どういう魔法作るんだ?」



「相手の装備を無理矢理剥がす魔法」



「装備なんか剥がして何に使うんだ?」



「いつか使う時まで取っとく。それか売り飛ばす」



気色の悪い感覚が、俺の頭全体を包み込む。

脳の奥底を吸われているような感覚は、不快以外の何物でもない。

その感覚が治まり、俺は一度冷静に頭を巡らせる。

だが、無駄な足掻きだった。



「……なんの魔法を作るのか忘れた」



頭に思い浮かべたイメージを、欠片も残さず完全に吸いとられるのだ。

どんな効果の魔法だったのか、それをなんの目的で作ったのか、何も分からない。



「俺はどんな魔法作る予定だったか知らない?」



「相手の装備を無理矢理剥がす魔法だったはずだ。……大丈夫か?」



「ああ、このテのものは大体こんなもんだ。心配要らん」



さて、どのような魔法となったかを実験してみるとしよう。

吸わせた後は魔法陣の中心に手を置けばいい。

これで、思い描いた通りの魔法が発動出来るようになる。



「上手くいったか?」



「テストしてみないことには分からん」



いきなりヌラにぶっ放しても良いが、それで死なれたりするのは絶対に避けたい。

と言うわけで、こういう時に役立つのが勇者の存在だ。



「テスターが来てくれれば……おっ!活きの良い奴がこっちに来てるぜ!」



窓を覗きに行ったヌラが声を上げた。

魚じゃないんだから、活きが良いとか言うな。



「編成は?」



「普通の勇者って感じの奴と、プレートアーマーの大柄な戦士、だな」



「2人か。丁度良い、オモテナシをしてやろう」



門が開くと同時に、勇者が言葉を発するよりも早く発動する。

反応出来る筈もなく、勇者は直径50cm程の魔法弾に直撃した。



「手作り魔法『アマフトベ』、思い描いた通りの出来だ……と言いたかったが、これはズレてるな」



俺の目の前には、呆然とする全裸の勇者と、慌てふためく戦士の姿があった。

想定では、武器や鎧を強制的に外し、無力化するだけの魔法の筈だった。

だが、アクセサリーから下着に至るまで、身に付けている物は全て弾き飛ばされるようだ。



「え?いや、なんで?なんで俺全裸?」



「ま、ちょ、お前!!コイツに何をした!?」



「実験だよ。結果は取れたが、まぁもう少し付き合えよ」



俺が戦士を殴り倒し、ヌラが勇者を縛り上げる。

折角の機会だ、この2人にも楽しんでもらおう。


……などと言ってから数時間後、2人の勇者はほとんど廃人となっていた。

いろいろと試しすぎたかも知れないが、必要以上の苦痛を与えたり、精神が崩壊するようなことはしていない。



「……おい、目が死んでるぞ」



「おいおい、どうしたってんだ。人の家にアポも無しで乗り込む度胸があるのに、ちょっと実験させられただけでへばるのか?」



「度胸は関係あるのか?」



「あるだろ、多分」



それでも、完全に苦痛が無いなんてことは無いだろうな。

全裸で縛り上げられて正座、これを数時間休み無く強制させられ、しかも魔法の実験台にされるんだ。

これだけでも、相当な恐怖になるらしい。

自分はそういう目にあったことが無いが、過去に目にした囚人やそれに準ずる者達と照らし合わせると、多分間違った推測ではない。



「どうすんだ、こいつら。殺す?」



「殺す」の言葉に反応し、2人は懇願するような表情でこちらを向く。



「た、頼むよ!死にたくねぇよ、帰してくれ!」



「あ、あ、謝るから!!」



殺すつもりは、今は無い。

相手が勇者だと言っても、いくら命を狙ってやってきたとしても、流石にこの状況では殺意が湧かない。



「俺達の事を誰にも言わないんだったら、助けてやる。ただし、誰かに言ったと分かった瞬間、2人とも挽肉にしてオオカミに食わせるからな?」



怯えた2人は凄まじい勢いで首を縦に振る。

オオカミを手懐けているわけではないので、こんな真似をすれば俺も襲われるだろうから、チクられたとしてもこんな真似はしないが。



「いいだろう、縄を解いてやる」



縄を解くと同時に、2人は城の外へと走り出す。

そして城から離れるとこちらを振り返り、そして叫んだ。



「絶対許さないからな!必ずぶっ殺してやる!」



「そうか。じゃあ、今殺しておいても問題無いな」



明確な殺意を持って、2人を追う。

何の訓練もしていない人間を取り逃がすほど、俺の足は遅くない。

仕留めるまでの間に、謝罪の言葉が聞こえた気もするが、肉塊にしてから思い出しても遅いよな。



「ったく、そいつらは森の奥に片付けろよ?俺はヤだからな!」



「言われずとも、自分でやるさ」



実用的な魔法を作れた点は、感謝しよう。

だが最後の言葉で、感謝は帳消しだ。

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