集結する意志は全容を明かす(上)/5



ヒセツとパズの叫びは、大穴の向こうに届いただろうか。届いたところでどうしようもないが。

「で、残ったのは三人かよ」

嘆息混じりに放たれた言葉。弾かれたように、ヒセツとパズは振り返る。ルードラントとリガレジーの態度は、明らかに緊張感に欠けていた。構えさえ取っていない。壊し屋が離脱し、後の戦力は取るに足らないとでも言いたげだった。

リガレジーが肩を落とす。

「申し訳ありません、我々には子守の経験がなく……。少々、手荒い躾になるかもしれません。特に、反旗を翻した、使い魔の子供には」

邪気に満ちた、底冷えする声。正面からそれを受け止めたラナは、本能的に一歩を退こうとする――が、パズが背後から肩を支えた。

ヒセツは苦笑する。一見無垢な笑顔に見える彼の笑みは、実際のところ皮肉や嫌味以外の何物でもない。邪気の度合いなら、パズだって引けを取らないだろう。

「大丈夫。怖くないさ。ほうら見てごらん。二人とも全盛期過ぎたただのおっさんだ」

「このガキ……ッ!」

この場に似つかわしくない毒舌は、恐怖に絡め取られるラナを懐柔する。但し、敵陣営にも火を灯してしまったが。格下というこちらへの見解はそのままだが、燃え広がった闘志はヒセツ達を容赦なく包囲するだろう。

だが、遅い。ヒセツの決意、闘志は、とっくに点火して燃え盛っている。後発の火が燃え広がる前に、呑み尽す。それだけの事だ。

「最近のガキは、ッんとに馬鹿しかいねーなぁああッ!」

反論する必要はない。これから、彼らの認識が間違っていたと証明さえすれば、それで良いだけの話なのだから。

刑罰執行軍として。最強の壊し屋の、協力者として。ヒセツ・ルナとして。

「簡単な話よ。今までの謎かけに比べれば。こんなのは、間違いを正せばいいだけの事よ。だから単純に行くの――正義の所在を確かめにね」

ヒセツは、刑罰を執行するべく、破壊するべく、確かめるべく、警棒を正眼に構えた。


   ◇

「放蕩の賢者、飛び跳ねる知、屋根裏の祭唄ッ!!」

地下二階は全体が劇場としての機能を有し、広大な空間は高さ五十メートル以上を保有していた。自由落下で着地出来る高さではない。そこで奈落が落下の風を受けながら召喚したのは、五十センチほどの梟の使い魔だった。

「ほっ、ほけけッ!? 何故にこの老いぼれ!? ぼれッ!? 愚かに過ぎるツンツン小童! お主、飛行の使い魔契約しておったろうッ!」

せわしなく、それこそ狂ったように梟は羽ばたく。それでも上昇は出来ず、ゆっくりと下降していく。無理もない。梟の細い足首に、奈落はぶら下がっているのだから。それだけでなく、奈落の首に両腕を回して、シルヴィアもまた摑まっている。

大人二人分の体重を、僅か五十センチの体躯が持ちあげられようはずもなかった。

「お前に用事がある」

「ほけッ!?」

奈落は頭上で顔を真っ赤にする梟を見上げる。梟は奈落の顔を見る余裕などなかったが、もし見ていたなら――思わず、羽ばたくのを忘れてしまっていたかもしれない。

奈落は寂寥を隠しきれぬ顔で――どこか嬉しそうな、だがそれを喜んでいいのかわからず、結果的に寂寥として表出されたような顔で――、見上げていたのである。

奈落は唇を強く引き結び、やがて、泣きそうに声を震わせながら告げる。

「放蕩の賢者。お前に、知恵を授ける」

「………ほ?」

梟は下降を続ける。眼下に展開する悪夢の祭壇が、少しずつ大きくなっていった。

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