第12話 桜*葬‐fantasy‐

「ずいぶんと顔色がいいな、じい


「花酒は、よう利きますので、若様。――さて、姫様にはお逢いなされましたか」


「ああ。――ほんの一時いっときだが、叶った」


「それはそれは――。今年は良い年でございましたな」


「ああ。良い年であったな――」



 吉野桜よしのざくらの下には  戦で逝った若君を

 枝垂桜しだれざくらの下には  病で逝った姫君を  葬り祀る


 桜の根元に眠るなら、花の咲くときに魂がよみがえる。

 だが、吉野と枝垂の花の時期ときの異なるのを、無粋な爺には――。



「それ故、千年のあいだ、こうして、吉野と枝垂とを守っております。

姫様に若君のご伝言を――

若様に姫君のご伝言を、必ずお渡しせねばならぬ務めを授かり――地に縛られた神と成り申して――」


「神であれば、好きな酒はいくらでも呑めるなぁ、爺」


「滅相もございません。酒は、花の咲く時期だけでございますよ、若様。

あとは念仏三昧で、地蔵のように過ごしております」


 爺の云うのを聞いて、若君は笑った。

 地蔵のような爺を健気けなげと思った。


 若君につられて爺も笑った。――姫君の涙につられて、涙した爺であった。



 笑い声に誘われて風が舞った。


 ひと吹き頬を掠める

 ふた吹き衣を煽る――花散らす風


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