第7話 赤頭巾 Ⅱ‐fantasy‐
ある森に狼が棲んでいました。
狼はアレルギー体質で、食べ物には大変気をつかっていました。
花粉症だし、乳製品と小麦とフルーツがダメなので、乳を出す牝牛や小麦を食べる鶏ですら食べられません。ネズミなどの雑食動物なら、アレルギーの症状も軽くて済むので、なんとかそれで凌いでいたのです。
ある時、狼は森の中にお肉の良い匂いが漂ってくることに気付きました。
見ると、赤い頭巾をかぶった小さな女の子が、大きなバスケット(籠)を持って歩いています。匂いは、どうやらそのバスケットの中から漂ってくるようでした。
狼は、女の子に声をかけました。
「なにを持っているの?」
「ローストビーフよ」 女の子は答えました。
「旨そうな匂いだねぇ。どこへ持っていくんだい?」
「おばあさんのところよ」
「ちなみに、その牛は牝かい?」 狼は確認を怠りません。
「いいえ。牝牛は乳を出すからめったに食べないわ。
お肉になるのはたいてい雄牛よ」
そういうと、女の子はとっとと行ってしまいました。
狼はいそいで女の子の後をつけ、おばあさんの家を確認しました。
またある日、狼が空腹を抱えてぼんやりしていると、どこからかお肉の匂いが漂ってきました。今日は、いちだんと芳しい。
見ると、例の赤い頭巾の女の子がやってきます。
「お! 赤頭巾がやってくる。また肉を届けに行くのか」
狼は、良いことを思いつきました。
そして、大急ぎで赤頭巾の先回りをし、おばあさんを食べてしまったのです。
おばあさんはどうやら普段から肉ばかり食べていたらしく、狼にアレルギー反応はおこりませんでした。
狼はおばあさんの服を着ると、ベッドに入って赤頭巾がくるのを待ちました。
やがて、お肉の良い匂いをさせながら赤頭巾がやってきました。
「おばあさん、今日はとくべつ美味しいお肉料理ができたわ」
赤頭巾はそういいながらベッドに近づきました。そして寝ているおばあさんを見て、驚いて、いいました。
「まあ、おばあさん! なんだかいつもと違う。その大きな口はどうしたの!?」
狼はガバッと起きあがり、赤頭巾に襲いかかりました。
「お肉を食べるためさ! ついでにおまえも食ってやる!」
赤頭巾は一歩退き、大きく開けた狼の口めがけてバスケットを投げ込みました。
「こんなものは、くれてやる! わたしを食べるなんて許さないわ!」
狼はバスケットごとガリガリと噛み砕いて呑みこみました。旨い肉汁が喉に流れ込みます。――なんだか、変です。狼は違和感を感じました。
「なんだこれは!?」 狼は赤頭巾に聞きました。
「なんだこれは、ってか? それはミートボールパイよ!
齢を取ってすじばってしまった牝牛の肉をミンサーで挽いて食べやすくし、ミートボールにしたものをドライフルーツで香りづけしながらゆっくりコトコト煮込んで、たっぷりのバターと小麦粉で作ったパイに閉じ込めて、オーブンで焼き上げたものよ!」 ――おわり――
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