第5話 赤頭巾 Ⅰ‐fantasy‐

 あるところに深い森があり、森のはずれには小さい村があった。


 森には大きな狼が生息していた。凶暴で、食い意地がはっている。しかし、戦略が下手で獲物をよく逃がす。したがって、いつもお腹を空かせていた。



 村には赤頭巾たちが暮らしていた。

 赤頭巾たちには、おばあさんがいて、おばあさんは森の向こうの小屋に住んでいた。


 赤頭巾たちは、時々手作りのご馳走を持っておばあさんの小屋へ出かけていったが、森には恐ろしい狼がいるので、それは命がけだった。



 狼はとときどき、森から村の様子を覗いては、舌なめずりをしていた。

 赤頭巾は、若くてぴちぴちとして、やや小太りで、見るからに旨そう。。


 じつは――狼は一度、赤頭巾の仲間を食べたことがある。

 森でつかまえて食べる兎やネズミなどとは比べものにならない極上の旨さで、狼はすっかり味を占めた。

 しかし赤頭巾たちは、警戒を強めて、武器を携えるようになり、おいそれとは捕まえられなくなった。


 狼は、赤頭巾をとりあえず諦めて、おばあさんを食べることにした。

 おばあさんの小屋へ行き、扉をこじ開け、おばあさんを捕まえた。


「わたしを食べるのかい?」と、おばあさんがいった。

「そうさ!」と、狼がいった。

「お待ち!」と、おばあさんがいった。

「わたしを食べても一時しのぎだ。それにもう赤頭巾が森を通らなくなるよ。

ひとつ、提案だが……」

「なんだ?」と、狼はよだれを垂らしながら聞いた。

「ここでわたしに化けて赤頭巾をお待ち。そうすれば簡単に赤頭巾を食べることができるだろう?」

「なんだって!?」と、狼は驚いた。

「自分の孫を俺に食えというのかい」

「孫とはいっても、赤頭巾はあのとおりどんどん自己増殖して増えるんだよ。おまけに、旨くもないパイなんぞを持って、しょっちゅう小遣いをせびりにやってくる。わたしはもう、限界だ。そのうち赤頭巾たちに身ぐるみはがされてしまうよ」

 そういっておばあさんは涙まで流した。

「そうだったのか。分かった。俺が助けてやるよ」

 狼はおばあさんを気の毒に思い、おばあさんの提案を呑むことにした。


 多少計画の続行に問題があるように思えるが、おばあさんの小遣いに目がくらんでいる赤頭巾たちが、たまたま運の悪い仲間の犠牲に目をつむることで、計画は割合スムーズに進んでいった。


 それからは、赤頭巾の数が増えすぎることもなくなり、狼が飢えることもなくなった。もちろん、おばあさんの生活も守られて、皆、安定した幸せを手に入れました。     ―おわりー


 



 

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