カップヌードル ビッグ 帰ってきた謎肉祭W

 一〇月三一日かー。

 ハロウィンかー。

 いつからだろう、こんなに世間でハロウィンハロウィンと騒がれるようになったのは。

 しかもなんか、ただのコスプレイベントと勘違いしている人も多そうじゃない。

 あれだ、海辺にあるネズミの国のイベントのせいだ。

 きっと。たぶん。


 ちなみに私は某MMORPGのイベントで知った。

 ちゃんと由来とかも調べたりしたから、一緒にするなー!


 去年、会社のイベントかなんかでもらった、魔女のとんがり帽子とマントなんかを昨日見つけたけど、それもポイだ。

 どうせ一〇〇均で買ってきたような、安っぽいやつだ。

 結局使う機会もなかったし、いいでしょう。


 ……で、そんな世間が浮かれている日に私は何をしているのかというと。


「大丈夫デス? おみずお持ちしましたヨー?」

「げほっ……あーありがと、助かります」


 よたよたとコップを持ってきてくれるちゃん。メガマフィンの妖精さんだ。……安直って言うな。

 自分の背よりも大きい、水の入ったコップ。よくここまで持ってこられたな……さすがメガの末裔。

 ベッドから体を起こしてコップを受け取り、一気に飲み干す。

 まあ、有り体に言ってしまえば、風邪です。


「ふぅー。あー、まだやっぱりふらふらする……横になるね」

「ちゃんと栄養も取らないとダメですヨー」


 あなたにそれ言われるとかどうなのさ。

 まあでも、メガマフィンは肉多めでたんぱく質たくさん取れるから、栄養的にはいいのかな?

 とかとか、もう考えるのもちょっとつらくなってきた。

 おやすみなさい……。




 そして目が覚めると、日は西に。茜色の空。

 うーん、わりとすっきり?

 仕事の疲れも溜まっていたのかなあ。

 看病してくれためがまちゃんに感謝。


 よっ、と。

 ベッドからおりて寝室を出る。

 う、まだちょっとふらふらするかな。なんか食べないとこれはもたない。

 メガマフィン……肉……肉……。

 ああそうだ、床下収納にとっておきのが。

 ぺたんと床にへばりつき、扉を開けると、ちょっと大きめの縦型カップラーメンが目に入る。

 これこれ。去年は全然見つけられなくて食べられなかったんだ。

 しかも今年はダブル

 その名も『カップヌードル ビッグ 帰ってきた謎肉祭W』。

 謎だってなんだって、肉は肉だっ!

 電気ポットでお湯沸かすー。


 …………。


 ポコポコポコポコ……。


 いやいや、近頃の電気ポットは沸くの早いよね。

 ちょっとぼんやりしているだけで沸いちゃうんだもの。

 カップのフタを開けると……んー、確かに謎肉たくさん入ってはいるけど、そんなに多いかな?

 お湯で戻すとまた違うのかな。

 注ぎましょう、注ぎましょう。


 …………。


 ん、なんかやっぱりまだ風邪でぼんやりしているんだな。いつの間にか三分経っちゃった。

 では食べるー。



 いただきます。

 ぺりり、とフタをはがす。

 おおお……。お湯注いだら全然違う。ごろごろ、ごろごろ。

 一面を覆い尽くす、ブラウンホワイトのダブル謎肉!!

 これが謎肉祭W……そうなのね、これが……。

 まずはやはり、定番の茶色の謎肉から、ぱくっと。

 そうだよねー、これだよねー。

 豚肉ベースのいやつ。だけに。

 ……とは言ったものの、原料ほぼ大豆だって話じゃない。

 いやーすごいよほんと。ずっと豚肉だと思ってたよ。

 じゃあこっちの鶏肉ベースの白いヤツはどうだ? ひょいぱくっ。

 おおー、だっ! おいしいー!

 どっちの謎肉もペッパーの効いたしょうゆ味がしみてていい感じだねえ。

 あ、そうか、ペッパー。ペッパー!

 ペッパーマシマシにしよう!!

 ロボットでも警部でもないよ!



 風邪っぴきのフラフラもふっとんだようだ。勢いよく席を立ちキッチンの引き出しを開ける。

 あったー、黒ペッパーミルミル黒胡椒(ミル付き)

 よしよしこれでガツンとひと……つー!?

 ペッパー片手にキッチンからテーブルを振り向いた私の口は、ジャック・オー・ランタンのごとくひきつっていたのではないかと思う。

 テーブルの上では――


「とりっくおあとりーとですっ!」

「はっぴーはろうぃんー」

「とりっくおあとりーとぉー」

「はっぴーはろうぃんー」


 さっきはがしたフタの上に、大量の謎肉と、新たな妖精さんが。

 妖精さん、なんかかぶってるけど……あれも謎肉かな。ジャック・オー・ランタンみたいにくり抜かれているね。

 そのハロウィン妖精さんに群がる、トリックオアトリートなその他大勢の妖精さんズ。

 ハロウィンっていうと、仮装したりするもんだろうけど、このこたちは素で仮装しているようなもんだし、そのままでいいのか。

 あーあー、みんな謎肉もらってるねー。

 それ、私の謎肉なんだけど……。


 ……ま、今日はハロウィンだし!

 お祭りだし!

 謎肉祭も開催されていたわけだから!


 ということで、私もルールに則りますかー!!

 ゴミ箱の横に置いておいた魔女のとんがり帽子とマントをつけて、と。


Treat me!謎肉よこせー

「うひゃん!?」


 ナゾニク・オー・ランタン謎肉妖精さんの動きが止まる。

 周りの妖精さんズはもうすでに危険を察知したのか、わーっとちりぢりになって逃げていった。


Or I’ll trick you!さもなくば貴様をトリックするぞー

「あ、わわ、わかりました魔女さま! これ全部差し上げますのでイタズラしないでー! Happy halloween!」

「うむ、わかればよろしいのじゃ。わかれば」


 のじゃ、とか。私はか。

 ……いやごめんなさい。ロリじゃないですロリだなんておこがましいですすみませんでした。

 しかしナゾニク、なかなか肝が据わっているな。謎肉を差し出してニコニコしておる。この私の妖精さんへの威圧感から逃げないとは。さすが一〇倍の謎肉は格が違うのか。褒めてつかわす。って私は殿か。

 いやいや、まあ順当にってことで。魔女は魔女でもじゃないよ。ペッパーミルを一振りすれば、なんでもおいしくなる魔法の粉を出せる魔女、葛尾はみ。なんだそれ。

 ん、私が魔女ってことは、このこ妖精さんたちは使とか?

 お似合いお似合い。


 ……本当に、私が魔女で、使い魔として妖精さんを召喚してるんだったりして。


 なんてねー。そんなことあるわけないでしょー。

 そんなこと本気で考えるなんて、今日の私は風邪とお祭り騒ぎでどうかしちゃってるんだ。

 きっと。たぶん。

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