金萬
アイスでひんやりリフレッシュした私は、お堀を離れ、目の前の県立美術館と商業施設に戻る。
かつてここには駅前らしくいくつかの雑居ビルが立ち並び、そのうちの一つの地下フロアは昔ながらのビデオゲーム中心のゲームセンターだったそうだ。
たぶん、中学か高校くらいのときにはすでに閉店してしまっていたと思う。
当時はゲームセンターなんて怖くて近寄れなかったけど、今となってはもったいないことをしたなと思ってしまう。
今はもう、影も形もない。
ふふん、ゲーセン怖いなんて、かわいらしいな、私。なんてね。
それもこれも、母に「ゲームセンターなんて入り浸るとカツアゲとかされちゃうよー」なんて脅されていたからかな。
まあそんなイメージはおそらく昭和や平成初期の話で、私が中高生のころにはそんなことは滅多になかったんじゃないかと思う。これもまあ、イメージだけど。
ん、母か……。そうか、もうすぐ母の日か。いい機会だし、ちょっと早いけど花束でもプレゼントしちゃおうかな。
ちょうど、商業施設に花屋さんも入っているみたいだし、ここはひとつ、できる大人として成長したところを見せちゃいましょう。
これでちょっとだけ駐車料金浮くしね、なんて余分なことを考えつつ花屋さんに聞いてみる。
待ち時間は二〇分ほど。まだ母の日まで日があるから、すぐ作れるとのことだ。お願いしよう。
しかし、少し暇ができてしまったな。
よし、駅方向に歩いて、アレを買いにいくか。
歩くことほんの数分。駅に近い公営駐車場の建物にその店はある。
店の名は『
『金萬』はわりと有名な秋穂銘菓で、新幹線の車内販売でも売られているほどの知名度だ。
だがしかし。それを食べただけで金萬を語ってはいただきたくない。
こいつの真骨頂は、生!
そう、普通に売っている金萬は、日持ちさせるために真空パックに入っている。
真のおいしい金萬を味わうには、限られた店舗で取り扱っている生を手に入れなければならないのだ……。
そしてここの直営店舗では生を取り扱っている!
しかも温かい状態のものをだ!!
……ということで、今すぐ食べる用に一個だけと、父へのおみやげ用に一〇個入りを購入。
歩いて戻りながら食べちゃおう。
いただきます。
『金萬』と焼き印の入った丸く小さなカステラ状の生地に、ぱくっと豪快にかぶりつく。
ふわふわー。中に入っている白あんもマッチした、ほんのり上品な甘さ。
やっぱり金萬はできたてに限るね!
ぽいっと残り半分を口に放り込む。
これなら二十八個も余裕で食べられちゃうかもね。
ごちそうさまでした。
通りに人は少ないものの、さすがに誰もいないわけではない。妖精さん、出てこないよね?
ふと、思い立ってかばんの中をそーっとのぞき込んでみる。
……いた。
なんかババヘラ妖精さんと一緒に大人しく待ってる、スーツ姿の妖精さんがいるんだけど。
もしかして、今までもこうやって待っていた妖精さん、いたのかなあ……?
いや、違うな。
金萬のCMで、なぜかスーツ姿のサラリーマンが懐から金萬を取り出すっていうのがあったな。
それと同じで、取り出され待ちってことなんだろう。
……やらない。やらないよ!?
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