チキンラーメン
ばりっ。
ぼりっ。
「はわ……はわわ……」
私の傍らで黄色い妖精さんが恐れおののいている。
そんなに怖がらなくったって……。
一から説明しよう。
今日は休日。
特に出かける予定もなし。
来週末から大型連休に入るので、地元に帰ろうと思っているが、その準備もあらかた終わってしまった。
あとはもう、平日は仕事に行って、連休突入、という状況。
要するに、暇になってしまった、というわけだ。
そういうわけで、これ幸いと昼間からしばらく積んでいたゲームを消化してやろうと思い、PSVitaを持ち出しプレイし始めたわけだが……思いがけず、一本目から超良作に当たってしまった。
私のバカっ!
なんでこんな良作を放っておいた……!
表現がちょっと古かったり、整合性が取れていないと思われる箇所があったりはするが、そんなのは些細なことと思えるほどに面白い。
天才か? 天才なのかこの人は?
とにかく、夢中でプレイしていた。
そして、日がとっぷりと暮れてもなおプレイし続けていた私に、ねこのももかが頭突きをかましてくる。
「うわっ! びっくりしたー。どうしたのももか……ってええー、もうこんな時間!?」
壁に掛けてあるアナログ時計に目をやると、時針と分針が両方とも垂直に上を向こうとしていたところだ。
「いやごめんごめん……さすがにおなかすいたよね、今カリカリ出すから――」
ぐぅぅーー。
失礼。
まあ、そりゃあね。私もおなかすきますよね。
まずは戸棚に用意してあったカリカリことドライフードをももかに差し出す。
ものすごい勢いでがっつくももか。申し訳ない……。でもちゃんと水は飲んでね。
さて、私も何か食べないといけないが、用意する手間も買いに行く手間も惜しい。
明日も休みだし、まだまだプレイしたいのだ。
そうなると、アレをやるしか、ないか。
学生時代に寝る間を惜しんでネットゲームをやっていた時期にあみだした、禁断の秘技を……!
私はキッチンの床下収納を開ける。
あったよね、たぶんあったよね。
……あった!
オレンジと白のしましまパッケージ、『チキンラーメン』!
用意するのは、これだけ。
そう、これだけだ。
私はすばやくVitaの置いてあるテーブルに戻る。
すると、テーブルの上で、黄色いふわっとしたショートボブの妖精さんが、今にも泣きそうな顔でこっちを見つめ、がたがた震えていた。
「ふ……ふえ……。そ、それ、どうするん……ですか……?」
ん? なにを恐れているのかな?
にっこり笑いかけて、私は妖精さんに教えてあげる。
「どうって、そりゃあ、このまま食べるに決まっているじゃないですか」
で、今に至る、と。
ぼりぼり。
あー、しょっぱい、おいしい。
そしてゲームが捗る。
これだけだとのどが渇くので、烏龍茶も完備だ。
だってねえ、要するにこれ、ラーメンスナックのでかい塊なわけでしょ。
おいしくないわけがない。
「や、やっぱり、お湯、かけたほうが……卵とかも……」
「いいの、今いいところだから、邪魔しないでください」
「ふ、ふえっ……すみません……」
すごすごと烏龍茶のペットボトルの裏に隠れてしまう妖精さん。
臆病なのかな。チキンなだけに。
「き、鬼畜の所業ですっ」
「よかったぁ……。あたしたちぃ、麺に味ついてないからぁ、さすがにあれはないよねぇ?」
戸棚からこっそりこちらの様子を伺う、カップ焼そばの妖精さんたち。聞こえてますよ。
ふふん、あなたたちはまだ知らないよね。
私はあの味のついていない油揚げ麺も結構好きなんだよ……!
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