チキンラーメン

 ばりっ。

 ぼりっ。


「はわ……はわわ……」


 私の傍らで黄色い妖精さんが恐れおののいている。

 そんなに怖がらなくったって……。




 一から説明しよう。

 今日は休日。

 特に出かける予定もなし。

 来週末から大型連休に入るので、地元に帰ろうと思っているが、その準備もあらかた終わってしまった。

 あとはもう、平日は仕事に行って、連休突入、という状況。

 要するに、暇になってしまった、というわけだ。


 そういうわけで、これ幸いと昼間からしばらく積んでいたゲームを消化してやろうと思い、PSVitaを持ち出しプレイし始めたわけだが……思いがけず、一本目から超良作に当たってしまった。

 私のバカっ!

 なんでこんな良作を放っておいた……!

 アドベンチャーゲームAVGのマルチシナリオシステムをうまいことゲーム内の設定に取り込んだ、二〇年ほど前の作品のリメイクだ。

 表現がちょっと古かったり、整合性が取れていないと思われる箇所があったりはするが、そんなのは些細なことと思えるほどに面白い。

 天才か? 天才なのかこの人は?

 とにかく、夢中でプレイしていた。




 そして、日がとっぷりと暮れてもなおプレイし続けていた私に、ねこのが頭突きをかましてくる。


「うわっ! びっくりしたー。どうしたのももか……ってええー、もうこんな時間!?」


 壁に掛けてあるアナログ時計に目をやると、時針と分針が両方とも垂直に上を向こうとしていたところだ。


「いやごめんごめん……さすがにおなかすいたよね、今出すから――」


 ぐぅぅーー。


 失礼。

 まあ、そりゃあね。私もおなかすきますよね。




 まずは戸棚に用意してあったカリカリことドライフードをももかに差し出す。

 ものすごい勢いでがっつくももか。申し訳ない……。でもちゃんと水は飲んでね。

 さて、私も何か食べないといけないが、用意する手間も買いに行く手間も惜しい。

 明日も休みだし、まだまだプレイしたいのだ。

 そうなると、をやるしか、ないか。

 学生時代に寝る間を惜しんでネットゲームをやっていた時期にあみだした、を……!


 私はキッチンの床下収納を開ける。

 あったよね、たぶんあったよね。

 ……あった!

 オレンジと白のしましまパッケージ、『チキンラーメン』!

 用意するのは、これだけ。

 そう、だ。




 私はすばやくVitaの置いてあるテーブルに戻る。

 すると、テーブルの上で、黄色いふわっとしたショートボブの妖精さんが、今にも泣きそうな顔でこっちを見つめ、がたがた震えていた。


「ふ……ふえ……。そ、それ、どうするん……ですか……?」


 ん? なにを恐れているのかな?

 にっこり笑いかけて、私は妖精さんに教えてあげる。


「どうって、そりゃあ、このまま食べるに決まっているじゃないですか」




 で、今に至る、と。

 ぼりぼり。

 あー、しょっぱい、おいしい。

 そしてゲームが捗る。

 これだけだとのどが渇くので、烏龍茶も完備だ。

 だってねえ、要するにこれ、ラーメンスナックのでかい塊なわけでしょ。

 おいしくないわけがない。


「や、やっぱり、お湯、かけたほうが……卵とかも……」

「いいの、今いいところだから、邪魔しないでください」

「ふ、ふえっ……すみません……」


 すごすごと烏龍茶のペットボトルの裏に隠れてしまう妖精さん。

 臆病なのかな。なだけに。




「き、鬼畜の所業ですっ」

「よかったぁ……。あたしたちぃ、麺に味ついてないからぁ、さすがにあれはないよねぇ?」


 戸棚からこっそりこちらの様子を伺う、カップ焼そばの妖精さんたち。聞こえてますよ。

 ふふん、あなたたちはまだ知らないよね。

 私はあの味のついていない油揚げ麺も結構好きなんだよ……!



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